和歌と俳句

釈迢空

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歳深き山の かそけさ。人をりて、まれにもの言ふ 声きこえつつ

年暮れて 山あたたかし。をちこちに、山 さくらばな 白く ゆれつつ

冬山に来つつ しづけき心なり。われひとり 出でて 踏む 道の霜

しみじみと ぬくもを覚ゆ。山の窪。冬の日 ややに くだり行く いろ

あけ近く 冴えしづまれる 月の空 むなしき山に こがらし つたふ

かさなりて 四方の枯山 眠りたり。遠山おろし 来る音の する

目の下に たたなはる山 みな 低し 天つさ夜風 響きつつ 過ぐ

せど山へ けはひ 過ぎ行く 人のおと 湯屋も 外面も あかるき月夜