北原白秋

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やはらかに 赤き毛糸を たぐるとき 夕とどろきの 遠くきこゆる

泣かむとし 赤き硝子に 背を向けつ 夕は迫る 窓の内部に

いつしかと 身は窓掛に 置く塵の 白きがごとも 物さびてける

かろがろと 女腰かけ なにやらむ 花あかき窓に 物思ひ居り

よしやあしや 君が銀座の 入日ぞら ほのかに暮れて 夜となりにける

つくづくと 昼のつかれを うらがへし けふもラムプを 点すなりけり

編みさしの 赤き毛糸に しみじみと 針を刺す時 こほろぎの鳴く

鳴りひびく 心甲斐絹を 着るごとし さなりさやさや かかる夕に

これやこの 絹のもつれを ときほぐし ほのかに夜を 待つすべもがな

かなしきは 気まぐれごころ 宵のまに 朝の風たち の啼く

松の葉の 松の木の間を ちりきたる そのごとほそき かなしみの来る

なまけもの なまけてあれば こおひいの ゆるきゆげさへも たへがたきかな

ほれぼれと 歌ふにしくは なかるらむ おもへば憂しや 涙ながるる

ものおもふ わかき男の 息づかひ そなたも知るや さるびあの花

なまけもの 昼は昼とて そことなき びんつけの香にも 涙してけれ

へら鷺の 卵かへすと なまけもの なまけはてたる われならなくに

おづおづと わかきむすめを 預れる 人のごとくに 青ざめて居り

このおもひ 人が見たらば 蟇となれ 雨が降つたら へら鷺となれ

わがゆけば 男のにほひ ちかよると 含羞草の 葉を閉づるかも

ものおもへば 肩のうしろに こそばゆき わかきおなごの といきこそすれ

夕暮の あまり赤さに なまけもの とんぼがへれば 啼くほととぎす

和歌と俳句