柿諸葉 てらてらい照り 黒瓦 今ぞ見え来つ その家とし見つ
その家の 低空にして 昨浴びし 風呂の煙の 早や立ちそめぬ
老柿と 築石畦に 日の照りて 草屋がいくつ 関のせせらぎ
幼くて 裸馬をせめたる 山河を 桑の葉照に 空かけめぐる
上ノ庄 棟もま黒に 群がるは そのかの子らし よく生ましけり
天の路 ひとすぢ徹り 遥かなり 今飛ぶべきは この航路のみ
眼下の 深田に映る 日の在処 かがやきしるし 月のごと見ゆ
空行けば 目も恋しかも 山ふかく 人家居して 衣干す見ゆ
物駭 悲しかるらし 山の峠 嶮峻にして 鹿走り出ぬ
プロペラは 音ひびかへれ いつ知らず 密雲の中に 入りて暫あり
密雲の ま中衝きゆく 我が下に 嘉穂の郡は ありと言ふかや
山中は 音響かへば 雨雲の 上行く脊をか 妹見けむかも
夏山は 思はぬ岩に 飛沫して たぎつ川瀬の 水わかれ見ゆ
我が飛翔 しきりにかなし 女子の 小峡の水浴 夏は見にけり
深山木の 黒檜の木群 秀に濡れて 降りしばかりの 雲断るるなり
深山辺よ あはれは久し 人入りて おのづからなる 道通ふみゆ
四方の雲 ひたに閑けく なりにけり 山峡ふかく 瀬のたぎち見ゆ
真夏空 絶えず湧き来る いつくしき 白木綿雲の 中わくるなり
ここの空 真夏闌けつつ しづかなり 行きあひの白き 雲の部厚さ
じんじんと 山上百メートルを 飛びつつあり 緑に徹る 命あるのみ