ひむがしの たふとき山の 陵の 松邃きところ 古りし霊廟
陵の 山のおもての 浅茅原 いたくも荒れぬ 松は邃きを
松が枝に 粉雪ちらつく 日の曇 何鳥か啼けり あはれ陵
反高き 磴道を来る 人ひとり 東陵はげに 冬によき山
山水に 青丹瓦ぞ 古りにける 美豆良の唐子 描かばこの前
茶膳房 雪ちらつけば 鵲の 声うちみだり 松に來るかに
鵲の 跳ぶ影見れば ふりみだる 雪おもしろし 黒と白の翼
誰がこもる 庫裏の障子ぞ 廂這ふ 煙はしろし ほのぼのの湯気
露天掘 ま澄みか碧き 空際を 音とどろきて まだ余寒なり
天を摩す 鉄のパイプの 太腕に 重油ながれ落ゆる 音は聴くべし
三月は 石炭壁に 沁む雪の 斑雪が碧し 輸炭車湯気噴く
炭層に 千歳うづもる 蓮の実も 芽を吹き花の 日に匂ふちふ
家の苞 卵ほどなる 大きなる 瑪瑙の玉は 妻に賜ぶべし
青きもの 摘む子らならし 笊寄せて 石炭殻は 指に掻き除く
黒煉瓦 焼く火の火口 夜は見えて けしきばかりを 寒ゆるぶめり
日は黄なり 屯積高き 豆粕に 噴き立つる汽車の 煙影引く
鉄の鑵の 大き機関車 まおもてを 鐘うち振れり 為すあるごとし
国際列車 とどろ湯気噴く 鑵鳴の じんじんと澄みて 待つあるごとし
曠野行く 四等車といふに 面群れて 生きたかりける 冬も頼めし