和歌と俳句

伊勢物語

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四十一段

 昔 女はらから二人ありけり  一人はいやしきおとこの貧しき 一人はあてなるおとこもたりけり  いやしきおとこもたる 十二月のつごもりに 袍を洗ひて 手づから張りけり  心ざしはいたしけれど さるいやしきわざもならはざりければ  袍の肩を張り破りてけり せむ方もなくて たゞ泣きに泣きけり  これを かのあてなるおとこ聞きて いと心苦しかりければ  いときよらなる緑衫の袍を見出でてやるとて 

  紫の色こき時はめもはるに野なる草木ぞわかれざりける 

 武蔵野の心なるべし