和歌と俳句

伊勢物語

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四十二段

 昔 おとこ 色好みと知る知る 女をあひいへりけり  されどにくゝはたあらざりけり  しばしば行きけれど なほいとうしろめたく さりとて 行かではたえあるまじかりけり  なをはたえあらざりける仲なりければ 二日三日許障ることありて え行かでかくなむ 

  出でて来し跡だにいまだ変らじを誰が通ひ路と今はなるらん 

 もの疑はしさによめるなりけり

四十三段

 むかし 賀陽の親王と申す親王おはしましけり  その親王 女をおぼしめして いとかしこう恵みつかうたまひけるを  人なまめきてありけるを 我のみと思ひけるを 又人聞きつけて 文やる  ほとゝぎすのかたをかきて 

  ほとゝぎす汝がなく里のあまたあれば猶うとまれぬ思ものから 

といへり この女 けしきをとりて 

  名のみたつしでのたおさは今朝ぞなく庵あまたとうとまれぬれば 

 時は五月になんありける おとこ 返し 

  庵おほきしでのたをさは猶たのむわが住む里に声し絶えずは