和歌と俳句

伊勢物語

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四十四段

 むかし 県へゆく人に 馬のはなむけせむとて 呼びて  うとき人にしあらざりければ いゑ刀自杯さゝせて 女の装束かづけむとす  あるじのおとこ 歌よみて裳の腰に結ひつけさす 

  出でてゆく君がためにとぬぎつれば我さへもなくなりぬべきかな 

 この歌はあるがなかにおもしろければ 心とゞめてよます 腹にあぢはひて

四十五段

 むかし おとこ有けり  人のむすめのかしづく いかでこのおとこに物いはむと思けり  うち出でむことかたくやありけむ 物病みになりて死ぬべき時に かくこそ思しか  といひけるを 親聞きつけて 泣く泣く告げたりければ  まどひ来たりけれど 死にければ つれづれとこもりをりけり  時は六月のつごもり いと暑きころをひに  よひは遊びをりて 夜ふけて やゝ涼しき風吹きけり  蛍たかく飛びあがる このおとこ 見臥せりて 

  ゆく雲のうへまで去ぬべくは秋風ふくと雁に告げこせ 
  暮れがたき夏の日ぐらしながむればそのこととなく物ぞ悲しき