むかし をとこ 逢ひがたき女にあひて 物語などするほどに 鳥の鳴きければ
いかでかは鳥のなくらむ人知れず思ふ心はまだ夜深きに
昔 をとこ つれなかりける女にいひやりける
行きやらぬ夢路をたのむ袂には天つ空なる露やおくらむ
むかし をとこ 思ひかけたる女の え得まじうなりての世に
思はずはありもすらめど言の葉の折節ごとに頼まるゝるかな
むかし をとこ 臥して思ひ 起きて思ひ 思ひあまりて
わが袖は草の庵にあらねども暮れば露のやどりなりけり
昔 をとこ 人知れぬ物思ひけり つれなき人のもとに
恋ひわびぬ海人の刈る藻にやどるてふ我から身をもくだきつるかな