昔 をとこありけり 恨むる人を恨みて
鳥の子を十づつ十は重ぬとも思はぬ人をおもふものかは
といへりければ
朝露は消えのこりてもありぬべし誰かこの世を頼みはつべき
又 をとこ
吹く風にこぞの桜は散らずともあな頼みがた人の心は
又 女 返し
行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり
又 をとこ
行く水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらむ
あだくらべかたみししけるをとこと女の 忍びありきしけることなるべし
昔 をとこ 人の前栽に菊うゑけるに
植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや
昔 をとこありけり
人のもとよりかざり粽おこせたりける返事に
あやめ刈り君は沼にぞまどひける我は野に出でてかるぞわびしき
とて 雉をなむやりける