映画館を出てみると、もうすっかり夜になっていた。
夜の学生たちが帰る時間帯らしく、街はけっこうな人通りだった。
私みたいに個人的職業で時間制限のない人間には、もう20年もたつというのに、一日二分割制度には、どうしてもなじめない。
しかし制度以後に生まれた彼らが、まるでそれが当たり前のことの様に、平気で生活しているのを見ると、これでも良かったのかな、と思ったりする。
ふと見かけた“細胞屋”(クローンショップ)のウィンドウには、もうじき
カルスから離れそうなスクレロパゲスが数個ならび、明るい光の中で時々体をくねらせている。おそらく300代近いのではないかと思うが、ニースの遺伝情報増幅装置を使うようになってからは、かなり良く保たれている。
しかし、いつまで続くかは、だれにもわからない。加速度的に破局がくるのは良くあることだ。
私のとなりに立っている制服の少女が、楽しそうに培養器を見ていることに、
私は少し腹が立った。
崎山 幸
解説
私の絵には、ときどきSF的な設定がある。これは私が書いた小説『未来映像』(AL’84.6 アメーバコラム)と同じ世界の絵です。
このころはアジアアロワナが飼えなくなった時期で、かなりの生物が絶滅した後の世界の象徴としてレッドアロワナを題材にしました。(まさか今のように誰でも飼える時代がくるとは思わなかった。)
組織培養の容器には『風の谷のナウシカ』(マンガ版)の影響がありますね。ところで私がハナの穴を描くのは宮崎駿ではなく、どちらかといえば江口寿史の影響です。 |