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Message From Tokuda


  秋の暗黒館 Date: 2005-11-17 (Thu) 
この秋もやっぱり本格を読みました。
本もあれこれ読むといっても、やはりいちばんお好きなジャンルですね。
いずれここ「ふろむとくだ」でも、おすすめの「新本格」をズラリ列記したいと思いますよ。


今秋読んだ順に振り返ると、まずは短編集の「花の下にて死なむ」(北森鴻/著)。
最近高い評価を得ている方です。
特に、短編がよい、と評判。

初めて読みましたが、こりは<最近の人>という作風。
本格の文脈を大事にしつつが前提で、
「ドラマよりキャラ主体」「食い物の描写にこだわる」「ウンチク」「シリーズもの」
など、あえていうが最近の“本格萌え”の要素がぎっしり。
でも格調はあった。

あえて萌え、という単語を使ったが、実際最近の新本格はとっても同人ぽい。と感じる。
この<同人>とはもちろん、アニメ・漫画の世界で言うそれです。

なぜこんなに新本格は同人臭が漂うようになったのだろう。

ミステリー好きの人種って、、、やっぱ最近俺を含めそっち系の人とかぶってますかね。
出版社のマーケティングもそういうの方向なのかな。
あと、書いてる作家自身がそういう嗜好を持ってるなと感じる時も多いです。


…と脱線しましたが、この方の作品はあと2つか3つは絶対読もうと思ってます。
とても文章が端正でしたね。


続いて、ベテラン芦辺拓の『グラン・ギニョール城』。
あとがきで、丁寧に「私の思い描く本格」について語っており、
それがとても共感できるいい文だった。
肝心の内容も、その姿勢通りといいますか、閉ざされた古城での連続殺人!ときて、
実はその城は…という、どんでん返しもバッチリの一品。
雰囲気に沿った派手な殺人トリックもあり、SFオチでもなく、叙述トリックオチでもなく、
古城と現代の日本が交差するアイデアは少なくとも俺は初めてみるもの。

探偵役は芦辺作品の常連キャラを使用したが、まったく彼に頼ることなくフィニッシュ。

冒頭の謎提示〜解決のカタルシス〜余韻までズバリ決まった最高の様式美。
しかも新型。


前後して、『和時計の館の殺人』も読んだが、こちらの出来は普通。
トリック(の素材)が、苦しすぎるわな。

このタイトルときて、「作中の時間表記」に疑問を持たないわけにはいかんでしょう。
いくら「時刻」のアリバイ、事件の不思議さをあげつらっても、
「どーせ、屋敷中の時計がおかしいだべ?」
って最初っから、思ってるんだもんなぁ、、、俺ら読者は。


さてお次は、メフィスト賞作家のデビュー作、『UNKNOWN』。
元自衛隊員が、退職後もちろん自衛隊を舞台に描いた一作。
作者はその後も戦争・軍事ネタの作品を中心に、精力的に発表している。
どれもが高い評価を得ているので、まずはデビュー作でお手並み拝見です。

自衛隊のレーダー部トップの部屋から盗聴器が発見、犯人は?手段は?
という内容。

自衛隊の中でも対防体制は三ツ星であろう、自衛隊レーダー基地。
しかもトップのお部屋に盗聴器というのだから、密室の不可能犯罪です。立派な。
殺人も誘拐もないけど、立派なミステリーです。

舞台は現代なので、われわれ民間が知る由もない、世界がたっぷり描かれます。
自衛隊内部から見た、「自衛隊」、というのがこの作品のホントのテーマ。

聞くところによると、この作家はどの作品も、
「この事件を通して言いたいこと」「伝えたいこと」
が必ず用意されているようです。
軍事もの以外にも、「こども&学校」を扱った作品があるのだが、
そこにも考えさせられるテーマを取り上げているようだ。


短くて、読みやすい文章なので、今回紹介する本の中で唯一他人様にお勧めできるであります。

探偵役の「防衛部調査班」の男と、ワトソン役の自衛官は、
分かりやすく共感できる、前述した<いかにもシリーズ系っぽいキャラ>なので、とっつきやすいのもグー。
何より自衛隊をこのように描いてるのが珍しいです。


そしてつい先日冗談みたいに分厚い『暗黒館の殺人』を読み終えました。
12年ぶりの『館シリーズ』、ということでものすごく期待して手に取った。

その<12年ぶり>、ということに加え、

*シリーズ最大、最驚
*集大成にして、原点

なんて強力な枕が刊行直後から飛び交っていたのですが、読んでみると、
ありゃま「シリーズ番外編」といった趣でした。



*****以下盛大にねたばらしをしますので、これから読む予定の人はご注意*****



『館シリーズ』というのは、死んでしまった中村青司という建築家が、
各地に残したキテレツな館を舞台として、殺人事件が起こる…というもの。

主人公や探偵は、この「天才建築家」が残した建物に魅せられて、
青司作の建物の噂を聞くと、訪ねていく→事件が起こる…そういった展開です。
館は必ずワケありの住人がおり、<嵐の山荘>状態になり、隠し部屋・扉がある、という。

このシリーズ第1作の『十角館の殺人』が、新本格という流れを作り出したと定義されており、
注目度の非常に高いシリーズなのです。

さてしかし、、、暗黒館。

「最大」なのは、ただ本文の長さと、館のデカさ。
「集大成」なのは過去6作のキャラ、ブツが顔見世するから、
「原点」なのは、メインキャラクターの<若き日><出発となった事件>を描いたもの…、

といった程度のものでした。
ジャロに訴えることはできないが、キャッチコピー過多ッスよ!

でもって「最驚」ってのは、要するに<過去の話>だということを最後までふせているから。
&作中の「私」が実は中村青司である、ということもふせているから。

読者の中では、やはりこの2点に賛否が集中しているようです。


というのも、<過去の話>の見せ方が、

*レギュラーキャラが転んで意識だけタイムスリップして33年前の暗黒館に飛ぶ

というもの。
こうなると勘違いして「夢オチ」と一刀両断している書評も多々あり。

また、作中のいろんな小道具が、「実はちゃんと過去を示している」ということで、
「フェアだ」とか「巧みな複線だ」と評価/感心する向きもあろうが、
俺にとっては本文中の単なる間違い探しといった印象。


そしてさすがに根幹であるはずの、殺人事件と意外な犯人、が完全にどうでもよくなってるのが厳しい。
殺される人が、かんっぺきな脇役なので、
全体に緊張感がなく=さっぱりドキドキしねー=犯人を知ろうと思えない=ページめくる手が重い。

つまり本作品は、
「暗黒館の変わった人々」と、「中村青司が妙な館をつくるようになったワケ」
を読ませるものだった。
それを「最後までお知らせしない、でも気づいてごらんよ」、というのが作者の心意気なのか。どうなんだ。

うーむこれやっぱシリーズものの特権、番外編・前日譚だな。
と、いうことは、シリーズの熱心なファン向けクローズドな作品でしたね。

暗黒館のメイン人物をまったく殺さなかったことで、「こやつらはまた後の作品で登場させよう」といった作家の魂胆も透けました。
出番がほとんどない人や、屋敷の使用人が死んだところで、どうやってドラマになるのか。トホホですよ。

ともあれ熱心なファンや、御自身の出身校の後輩達は見事に満足させた。
そしてベクトルはともかく作品として、決して手抜きとは俺も思わない。むしろ入魂だと感じる。

しかし、

「人気シリーズの」
「12年ぶり」
「異様に分厚い(読むのが大変=つまんなかったら怒りやすい)」

という3点で損をしたねぇ、とまとめさせていただきます。

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