| ■ 2007年冬(1月〜3月)読んだ本をふりかえる(中編) | Date: 2007-05-22 (Tue) |
(前編から続く)
『殺勠にいたる病』我孫子武丸
叙述トリックもの。
犯人は重度のイカレなので、
殺人の描写がけっこうキビしい、というか、作者が書きたかったのはそういった描写なのだろう。
叙述トリックについては、むしろオマケかな〜といった印象。
以前、『暗黒館の殺人』の時にも言ったけど、
叙述トリックって俺は、単なる“間違い探し”みたく感じる事が多いな。
『逃亡作法』東山彰良
脱獄コンゲームもの。
刑務所モノは、俺大好きなジャンルです。
ただ…、
受刑者達が「実はインテリ(学歴とかでなく信条が)」だとか、
「(経験に裏打ちされた)実践による哲学の大家」、とかいうキャラ設定は、
あまりにありがちすぎる。
伊丹十三とか雁屋哲とか藤原伊織とかが容易にハマる落とし穴。
これは、どういうコンプレックスなんだろうね。
学生時代優等生と、おぼっちゃまと呼ばれた己の青春に対するアレなのかね。
さてそれはさておき、この本はけっこうよかった。
登場人物それぞれの「シャバでの罪」が面白い。
それと近未来の受刑環境。
「時計じかけのオレンジ」を思わすような。
なかでも刑務所モノとして、新鮮な設定はやはり、
幼女暴行で入所して来る奴が所内で徹底的にいじめられる点。
これは実際の刑務所でもそうらしいですね。
それでもご本人の天然ぶりに救われ、読み物として成立。
そんな彼が自分のトラウマを話すシーンは、すごく心に残りました。
自分を殴り続ける母の目が哀しそうだった…それって、あんまりな関係だよなぁ。
『地獄のババぬき』上甲宣之
でた〜!
ガレージで紹介した、「このケータイは〜」の続編です。
今度は、ババぬき。
命を捨てる気のバスジャック犯が人質となった乗客達を巻き込んで、
命をかけたババぬきをするんだけど、
「このケータイは〜」の登場人物が大集合!!
なんです。
キャラが出そろった瞬間は「やったぁ!」って言う大期待だったんですが…。
しかししかし…。
文章力に問題ありすぎ。
誰が読んでも一目瞭然。
前作では(確かに垣間みれたんだけど)さほど気にせず流せましたが、
今回はどこがどーしたのか、ハッキリ全体が中高生が書くような文体になっている。
完成を急がされたのか?
逆に編集者が好きに書かせたのか。
赤面しちゃうようなセリフ廻しがしょっちゅう出てくるし…、
(もちろん狙いじゃいない)
設定は相変わらず上記の様におもしろいんだけど、
その展開が苦しいと言うか、無理があると言うか、引き込んでくれないというか、
登場人物たちが自分たちで「すごいすごい」って無理矢理盛り上がっていて。
オチもまさかというくらい最も無難な物でした。
この作者は、おれ、今作にて終了します。。。
『七人の中にいる』今邑彩
変わり種本格、きましたよ。
でもこれ、奇をてらった感じなく、“変わり種”とがっぷりと向き合った手応えです。
ペンションのオーナーが、宿泊客の中から、
自分を殺しに来た人物を探す、という内容。
このオーナーはなんと、昔々、とある一家惨殺に関わっていた、という。
ま、その一家の関係者が身分を偽って、宿泊客になっているわけですな。
この手の物は、海外古典に『探偵を探せ!』という作品があって、これが面白いんですよ。
おれ、中学の時に初めて読んで、以来何度再読したか…。
大富豪の旦那が、遺産目当ての後妻に、時間をかけて毒殺されそうになってると感じ、
友人の探偵に捜査を依頼。
で、まさに最終段階の毒をくらった瞬間に、
その後妻へ、
「俺はしてやられたみたいだが、気付いてた。探偵を呼んであるぜ?」
と言い残して死ぬと。
すると、たしかにその夜、立て続けに数人の来客があり、
後妻はこの中にいるハズの探偵を見つけ出し、ブッ殺そうと決意する…。
とまぁ、こんな感じなんですが、本作、よく似てますね。
さておれはすぐに“復讐者”が誰か分かりました。
ただそのドラマとしての結末は予想外…。
発端の事件もそうですが、なんだか後味が悪いでしたね。
『七度狐』大倉崇裕
ミステリーもあらゆるトコが舞台になりますが、
これは落語界です!
俺は新宿末廣亭の寄席に足を運ぶ程度ですが、
落語はまさに「芸能」って感じですよね。
最近は、伝統芸能をさておき、逆にサブカル的な取り上げ方をされてる気がします。
でもそれが活路なのかも。
さてこの作品は、
落語雑誌の編集長と新人女子のコンビが事件に巻き込まれる…というシリーズの、
初長編になります。
一大門下の跡目争いにからんで連続殺人が起こります。
門下ゆかりの地は山奥で、
台風で下界と断絶。
その中で、古典の「七度狐」を使った見立て殺人と、
落語界が舞台という点に頼らず、本格の味わい十分です。
読了してみると、、、
殺人事件以外の謎、
犯人のキャラクター、
動機、
被害者たちの相関関係、
謎の少女、
などなど、色々な同様のモノが用意されてるあたり、
京極夏彦の『鉄鼠の檻』と、相当ソックリな気もしないでもないですが、
(たとえば事件以外の謎:鉄鼠→この寺は何派? 本作→完全版の七度狐の筋立ては?)
マ…よしとしましょう!
ただ執拗に“芸の道を追求することへの業”が描かれます。
芸のためなら女房も泣かす、どころじゃないですからね。
あ!
もちろん、落語に興味のない方でも楽しめますよ!
さてこの特殊シリーズ、どれくらい続くのか…。
『ゲームの名は誘拐』東野圭吾
映画化もされましたね。
誘拐モノ、これも俺大好きなんですよ〜!
東野圭吾はさすがに、ふたひねり。
異様に読みやすい文体も相変わらず。
この人はホントに得意ジャンルを持たない、オールラウンダーですね。
でもこの作品の一番よいトコは、
意外な展開が待つプロットではなく、
各キャラクターがじつにイキイキと実在感がある点でしょう。
こーゆーのが、プロ。
アマはキャラをこうも描ききれないものです。
おもろいプロットはアマでも考えられます。
さて映画ではオチを変えた、と聞いています。
ハッキリと「こういう方向に変えたのだろうな」と想像つきますね。
あまっちょろい変更ですよ。
『サウスポー・キラー』水原秀策
お次はプロ野球選手が、事件に巻き込まれます。
八百長冤罪をくらって、ご本人自らハードボイルドして、
事件を解決します。
実在の選手にあえて主人公のモデルを探すと、
左利きの先発頭脳派ピッチャーといえば…。
ルックスそこそこ、細身で、アウトローでふてぶてしさもあり。
和田?杉内?帆足?八木?林?高橋尚?
どれもちがうなー。。。
さかのぼって探せば、、、
マイク仲田とか今中、川口か?
ちなみにこれもけっこう気軽に読めます。
野球界の内幕はもう少しあっても良かったのではと思う。
俺はけっこう知ってる世界だからね。
「ゲームの名は〜」と違って、
映像化を喉から手が出るほど欲しがってるのが、感じられますね。
ベタなヒロインが出てくるし、
真犯人も魅力的に描いてます。
(続く)