第二章 第一話     手形     (投稿者:大阪府 M.I.さん)

 私が18歳の春、車の免許を取った時の話です。
 余り腕に自信もなく、お金も持っていなかったので、安い中古車で練習をしてから、
 がんばって新車を買おうと、まずは中古車を購入する事にしたのです。 
 私は何件か中古車センターを回ってみましたが、いい車は中古車といえどもさすがに高く、
 色々な車を見れば見る程、欲も出てきます。 半ば諦めかけていたその時、
 「今月の目玉商品」と書かれた大きな垂れ幕が目に飛び込んできました。 
 中を覗いてみると、赤のスポーツタイプの2ドアの車で走行距離も、5、000kmと
 そんなに走ってないにも関わらず、車両価格が10万円と非常に安い車があったのです。 
 しかも、エアコン等もフル装備で自分の欲求を十二分に満たしてくれる車に一目惚れし、
 すぐに契約する事にしたのです。

 楽しみにしていた納車日、中古車センターへ行くと、すぐに私のピカピカの赤い車が
 目に止まり、私はすぐに駆け寄り、車を見ていましたが、フロントガラスに白い手形が
 5、6箇所、付いているのです。 ほこりが付いて白いのか、雲っているのか、判断できず、
 触ってみようと、手を伸ばした時、担当のディーラーが私を見付け、「いらっしゃいませ!
 お待ちしておりました!」と営業独特のスマイルで話掛けてきました。
 私は、手形の事を言うと、「おかしいですね。 先程、洗車したばかりなのに・・・」と
 首を傾げ、「申し訳ございません。」と謝りながら、すぐに拭き取ってくれました。
 私達は、中に入り、契約書にサインをし、暫く、雑談しておりましたが、
 私は、早くドライブに行きたくて仕方なく、会話が途切れるのを待って席を立ちました。
 私はディーラーにお礼を言い、店を出ると早速、ドライブに出掛けました。
 道を知っている訳でもなく、ただ、気の向くままに車を走らせていたのですが楽しい時間は
 過ぎるのも早く、あっという間に、夕方になり、私は一旦、家に帰る事にしたのです。
 ここまで、車は何事もなく、走行していたのですが信号待ちで停車し辺りの風景を見ていると、
 ふと助手席の前のフロントガラスに目が止まり、私は目を疑いました。 
 先程、確かに拭き取ったはずの手形が2つ、また、付いているのです。
 今まで運転してきて、手形があるなら、気付かないなんて、到底、考えられず、不思議に
 思いながらも、車を走らせました。 暫く、走っていると、体を引き摺っているような、
 ずずっずずっという音が聞こえて、何の音だろうと、不振に思っていると、手形が薄らと2つ、
 フロントガラスに浮かび上がってきているのです。 私は驚き、側道にゆっくりと車を止め、
 じっと、見ていると、除々に濃度を増して、完全な白い手形へと、変わっていきます。 
 私は呆気に取られ、今、見た事が信じられずにいたのですが、また、どこからともなく、
 ずずっずずっという音がし、新たな手形が二つ、浮かび上がってきたのです。 
 私は得体の知れないものに恐怖を覚え、全身、鳥肌が立ってきました。
 体を引き摺っているような音は、どこから聞こえてくるのか見当もつかないのですが、
 はっきりと聞こえてくるのです。 私は手形が増えていくのを見て、ようやく
 「運転席に近付いてきてるんだ!」と、気付き、ドアを開けようとした瞬間、
 フロントガラスに両手を押さえ付け、頭から、血を流している女性が私を、すごい形相で
 睨み付けていたのです。 私は悲鳴を上げ、ドアを開け、無我夢中で逃げ出しました・・・。

 暫く、走って幾分か冷静さを取り戻し、携帯電話で中古車センターに電話を入れ、
 事情を話すと、私の言う事を疑いもせず、迎えに来てくれるというのです。
 ディーラーを問い詰めると・・・表情を曇らせ、渋々、話し出しました。
 「実を言うとあの車、事故車なんですよ。
 軽い接触事故だったんですけど、打ち所が悪くて・・・」