第二章 第二話    死へのドライブ (投稿者:東京都 T.N.さん)

 当時、私が付き合っていた恋人とドライブに出掛けた時の話です。
 その日は天気もよく、とても暖かい日でした。
 朝早くから出掛けて行き、観光地等、見て回っていたのですが、楽しい時間は過ぎるのが早く、
 あっという間に日が暮れて帰る頃にはすっかり、夜になっていました。 
 国道も次第に山道に入り、カーブもきつくなり、私は運転に集中し、彼女はいつの間にか、
 疲れて眠っていました。 私の車の回りには一台の車も見当たらず、街灯もなく、ただ、
 暗闇だけが広がっており、闇に吸い込まれそうなそんな感じのする、とても、寂しい道です。
 調度、車がトンネルを抜けてカーブに差し掛かったその時、助手席で眠っていたはずの彼女が、
 いきなり、「あっ! 女の人!!」と叫びました。
 私も彼女の言葉でガードレールの外側の木の下に女性が立ってこちらをじっと見つめているのに
 気付き、私は無意識に車を停車させました。
 その女性は24〜25歳のスリムなスタイルで白のワンピースを着ており、髪は肩下くらいの
 ストレートで、とても綺麗な人でしたが、ただ、雰囲気は、どことなく寂し気で、
 とても暗い印象を受けます。 こんな時間、山の中で女性が一人でいるなんて、常識では全く、
 考えられず、何か事件に巻き込まれた可能性もあり、興味本意で声を掛ける事にしました。
 私は彼女に了解を得ると車のドアを開け、彼女の方に近付き、「どうしたんですか? 
 こんな山の中、一人で・・・」と声を掛けたのですが、女性は無表情で黙ったまま、こちらを
 じっと見つめています。 車のライトに照らされているせいか、より一層、その女性は綺麗に
 見え、私は女性が余りにも、綺麗なせいか、諦めず、「送っていこうか?」と声を掛けると、
 その女性は無表情のまま、小さく頷きました。
 私は女性を後部座席に乗せ、「どちらまで、送っていけばいいですか? 家はどこですか?」と
 声を掛けるのですが、全く返事がありません。 私と助手席の彼女は無言で顔を見合わせ、
 私は渋々、車をスタートさせました。
 その時は、このまま女性が無言で手に負えなく、面倒なら、梺の街で交番にでも、
 引き渡そうと安易に考えていたのです。
 暫く車内は無言のまま、気まずい空気が漂っていたのですが、急に後部座席の女性が
 「そこを左に曲がって下さい。」と澄んだ綺麗な声で言うのです。
 私は地元の人なんだなと、少し安心しましたが道は険しくなる一方で、こんな所に民家が
 あるのか、単なる、抜け道なのか、不安は高まる一方です。 私は不安を隠しきれなくなり、
 「あと、どれくらいですか?」と訪ねましたが相変わらず、返事がありません。 
 不振に思い、ルームミラーで後部座席の女性に目を向けると、さっきまでいたはずの女性が
 いなくなっているのです・・・
 私は人が消えるなんて、そんなバカな事が現実に起こるものかと我が目を疑い、ルームミラーに
 気を取られていると、彼女が大声で、「あぶない!!」と叫び、私は彼女の声に驚き、反射的に
 身を屈め急ブレーキを掛け、急停車させました。
 私は恐る恐る、顔を上げ、前を見てみると、そこには、もう道はなく、目の前は崖で、ただ、
 闇が広がっているだけです。
 私はすぐに助手席の彼女の安否を確認し、後部座席を見たのですが、やはり、女性の姿は
 どこにもありません。 私達は、どうしようもなく怖くなり、一刻も早く、その場から
 逃げ出したく車をバック、させようと後ろを振り返ると、いなくなっていたはずの女性が
 座っているのです・・・
 私は声も出ず、生唾を飲み込み、動けないでいると、その女性は、ニヤリと笑い
 「死ねばよかったのに・・・」とかすれる様な声で言うとすっーと消えていきました。
 彼女は悲鳴を上げ、私もパニックになり、無我夢中で来た道を引き返しました。

 国道との合流の三叉路まで戻ってみると、先程とは打って変わって街灯もあり、車も走っており、
 明らかに、先程の道とは雰囲気が違うのです。 私は幾分か冷静さを取り戻し、車を本線に
 戻そうと、車の途切れるのを待っていると、彼女が、怯えたような声で「あれ!」と
 指差すのです。 私は彼女の指の差す方を見てみると、「立ち入り禁止」という壊れた
 ボロボロの標識が垂れ下がっていました。

 私は、いったい、どこを走っていたのでしょうか・・・?
 今でも、あの女性は誰かそこを通る人を地獄に引き込もうと、あの場所に
 立っているのかもしれません・・・