第三章 第一話    一緒に遊ぼうよ (投稿者:大阪府 S.T.さん)

 その日は朝から雨が降っており、あいにくの空模様だったのですが、以前より、
 紅葉を見に行く予定を立てていた私達夫婦は、他にする事もなく、とりあえず、
 行ってから考えようと、安易な気持ちで出掛ける事にしたのです。

 紅葉で有名な観光地であっても、雨のせいか、人も疎らで、ひっそりとしていましたが、
 幾分か雨も小降りになっており、私達は散歩がてら、傘をさして歩く事にしました。 
 私達は紅葉を見ながら、奥へ奥へと進んでいき、木ばかり見ていたせいか、気が付くと、
 すっかり、道に迷って、どこをどう帰っていいのか、分からず、途方に暮れていました。
 道を尋ねたくても、周りには、人が一人もいなく、私達は勘を頼りに戻るのですが、
 歩けば歩く程、深みにはまっていくような気がしてなりません。
 私は妻に心配をかけたくなく、平静を装っていましたが、内心、不安で仕方なかったのです。 
 そんな時、子供達のはしゃぎ声が聞こえてきて、人がいる事にほっとして、
 声の出所を探したのですが、どこにも、子供らしい人陰はないのです。
 鳥の声と聞き間違ったのか、半ば、諦めて、歩いていると、木の間から見える下の方の川で、
 子供達は水遊びをしていました。 子供達を見つけると私達は枝に邪魔されながらも、
 細い道を下って、なんとか、川に降りていったのですが、今まで、子供が遊んでいたはずなのに、
 どこにもいないのです。 私は諦めきれず、川伝いを歩いて行ったのですが、子供達の姿は
 見つからず、子供達が遊んでいた痕跡すら、見つける事ができませんでした。
 私が困惑していると、妻が顔を強ばらせ、「ねぇ、あなた。 不思議に思わない?
 今、11月よね? 今時分、いくらなんでも、あんな格好で川で遊ばないよ。」と言うのです。
 そういえば、11月半ばで雨も降っており、肌寒い中を海水パンツだけで、川で水遊びなんて、
 冷静になって、考えてみると、確かに、異常な話です。
 私達は怖くなり、山道に戻ろうとした瞬間、後ろから、声が聞こえてきました・・・
 「一緒に遊ぼうよ!」。
 振り返ると子供が4人、青白い顔でこちらを見ています。 明らかに生気のない子供達なのです。
 私は怖くなり妻の手を取り、その場から逃げ、どこをどう走ったのか元の駐車場に戻っていました。
 辺りはもう、夕暮れで雨はすっかり、上がっており、車に乗って、二人とも、ほっと、一安心して
 いました。 私は無言のまま、エンジンを掛けようとしましたが、掛かりません。
 ふと、ルームミラーを見ると先程の子供達が後部座席に座っているのです。
 私は反射的に後ろを振り向きました、すると、子供達は笑みを浮かべ、
 「ねぇ、一緒に遊ぼうよ!!」と、こちらをじっと、見つめていたのです・・・