第四章 第一話  海にあがった水死体 (投稿者:鳥取県 N.M.さん)

 私は幼少の頃から海辺の近くに住んでおり、家から3分程、歩けば、海があったのです。
 私は海が大好きで夏は海水浴をしたり、父と釣りへ出掛けたりと海辺の生活を満喫して
 いたのですが、海は楽しいことばかりではなく、時には悲しい出来事も起こりうるのです。

 私が10歳の頃、海で溺れた男の人の死体があがったと言う話を聞きました。
 それ以来、海で亡霊を見たとか、そういう噂が広まりました。 その日も夜釣りに
 行っていた私の父と父の釣り仲間が真っ青になって慌てて帰ってきたのです。 
 大人達は夜中、私の家に集まり、海で見た幽霊の話をしていました。 子供心に大人達の
 話に耳を傾けていたのですが、私は、余り、そういう事を信じる方ではなかったので、
 大して気には、していませんでした。
 でも、大人達は子供が海へ遊びに行く事を止めるように言ったのです。
 私は海が好きでしたから、親には内緒で近所に住む友達と、いつものように、海へと
 出掛けていきました。 その日は波も穏やかで日射しも眩しいくらいの天候で、この海で人が
 溺れて死んだなんて、とても、思えないくらいの穏やかさです。
 私は友人と二人で岩場の方まで行き、岩と岩との間にいる小魚を採ったりして遊んでいました。
 いきなり、友人が死体があがった所を見に行こうと言うので、私も多少、興味があったので、
 軽い気持ちで行く事にしたのです。 もう少し先へ行くと釣りの絶好のスポットがあるのですが、
 その辺りに水死体が浮いていたとの事でした。 私はその場所が近付くにつれ、なんとなく、
 嫌な予感がしてきて、恐怖感でいっぱいになり、「やっぱり、やめようよ。」と、私が言うと、
 「なんだよ? 怖くなったのか? 根性ないなぁ。」と笑いながら、言うのです。 
 その場所に着くと人一人いなく、風も強くなってきて、さっきまで、穏やかだった波が
 高くなっているようでした。 私は急に寂しく不安になり、その空気を感じとったのか、友人も
 「帰ろう」と言い出したのです。 私達は、今来た道を逃げるように帰ろうとすると、
 ずぶ濡れの青白く変色した顔の男の人が私達の前に道を塞ぐようにして、立っているのです。 
 唇が紫色になっていて、少し、開いた口が何かを言っているようですが、私達の耳には、
 その声は届かず、ただ恐ろしくて声も出ず、慌てて、その場から離れようと
 走って逃げ出したのです。逃げる時、「助けてくれ〜」という声を
 聞いたような気がしたのですが、私だけではなかったようです。

 あの男の人は父が話をしていた海で亡くなった男の人だったのでしょうか?
 あの日の事は親には言えず、私と友人だけの秘密にしていました。