第五章 第一話    友達からの電話 (投稿者:東京都 N.N.さん)

 2年前、私が18歳の頃の話です。
 慣れない仕事のせいか、毎日、神経を使い、疲れ果てて帰ってくる日々が続きました。
 そんなある日、会社が終わって、携帯電話を見てみると朋美(仮名)からの着信履歴が
 入っていました。 朋美は小学生からの私の親友でしたが、高校を卒業してから、
 彼女は勤め先の寮で一人暮らしを始め、家も遠くなり、なかなか、会う事が出来なく
 なっていたのです。 私はすぐに朋美に電話を掛けてみたのですが、繋がりません。
 呼び出し音が鳴って、電話が繋がった音がするのですが、すぐにツーツーと
 切れてしまうのです。 何度か掛けたのですが、繋がらず、電波の調子が
 悪いみたいなので諦めて家に帰る事にしました。 満員電車に揺られながら、
 広告を見ていたのですが、何気なく、視線を落とすと5〜6m先に朋美の顔が見えました。
 「あっ!」と思った瞬間、電車は大きく揺れ、朋美は人込みで見えなくなりましたが、
 きっと、私に会いに家に訪ねてきてくれたんだと思うと嬉しくて仕方がありません。
 駅に着くと、急いで朋美を探したのですが、見つからず、携帯に電話を掛けても、
 相変わらず、繋がりません。 仕方なく改札を出ようとした時、駅の前を朋美が
 歩いているのを見つけ、私は慌てて後を追い、走りながら、「ともみぃーっ!」と大声で
 呼んだのですが、全く気付かない様子で朋美は交差点を左に曲がり見えなくなりました。
 私もすぐ、交差点を左に曲がったのですが、そこには誰もいません。
 人が隠れるような所もないのです。 朋美はいつものお気に入りの白のミニに可愛い花柄の
 シャツを着ていて、見間違えるはずもありません。
 私が立ち尽くしていると、携帯が鳴りました・・・朋美からです。 
 「朋美? 今、どこにいるの?」、朋美は、かすれるような小さな声で
 「会いたい・・・、会いたい・・・」と繰り返し言うのです。
 私は心配になり、「どうしたの? 何かあったの?」と話かけたのですが、もう、電話は
 切れた後です。 すぐに電話を掛け直してみると、なぜか、朋美の母親が泣きながら、
 電話に出たのです。
 おばさんの話によると・・・昼過ぎ、会社の備品を買いに出掛けた時、信号無視で
 突っ込んできたトラックに跳ねられて即死だったというのです。
 驚きとショックで私は涙をこらえきれなくて、道路の真ん中で泣いていると、私の目の前に
 朋美が悲しそうな顔で、こちらを見ているのに気付き、「朋美・・・?」と呼ぶと、
 朋美は小さく頷いたかと思うと、すーと消えていきました・・・。