第六章 第三話  吹雪きのペンション (投稿者:京都府 A.T.さん)

 去年の冬、私は友人と一緒にスキーに行きました。
 一泊二日の短い滞在ではありましたが、私も友人も仕事が忙しく、
 久しぶりに二人揃ってとれた休日という事で大好きなスキーを
 満喫しようと、喜び勇んで旅支度をしていました。 宿泊を予定している
 ペンションは友人の叔父が経営している事もあり、無料で招待してくれると
 いう事であり、何の心配もなく旅は始まったのです。
 スキーシーズン真っただ中で宿泊施設も軒並み満員になっている中、
 突然、まいこんだ嬉しい出来事のはずだったのですが・・・。

 いざ楽しみにして行ってみると、スキー場は吹雪きで強風のために、
 リフトが動かず、悪天候は明日も続くというオーナーの話にすっかり、
 私達は気を落としてしまい、部屋に行き、ベットに横になっていました。
 わざわざ、夜中から車を走らせ遠出をしてきたのに、スキー場に
 来ているのに、スキーが出来ないなんて・・・と思っているうちに、
 すっかり、眠りこんでしまい、目が覚めた時には、夕方6時を少し、
 回っていました。 窓の外を見ると、さらに強く吹雪いているようです。
 夕食を済ませて、少し話をしているうちに、今度は友人の方が
 眠りこんでしまいました。 私は夕方、遅くまで、眠っていたせいか、
 なかなか、寝つけなくて何度も寝返りを打ち、深夜になって、やっと、
 うとうとしてきたその時、外の方から声が聞こえてきました。
 一人ではなく複数の男女の声です・・・。 やっと、眠りにつけると
 思ったのに、時計は深夜2時を回っており、こんな夜中に騒いで
 いるなんて、非常識だなと思っていると腹立たしくなり、一言、注意を
 しなければ、気が済まなくなり、私は飛び起き窓に近付き、勢いよく
 開けると、肌を刺すような冷気が顔全体を被って、雪は相変わらず、
 吹雪いていて、私の顔に容赦なく冷たい雪が降りそそいできました。
 聞こえていた男女の声はせず、辺り一面、雪だけで人の影など、全く
 見えません。 私は窓を閉め、不思議な気持ちに捕らわれ、確かに
 人の声だと思ったのですが、こんな真夜中に、しかも吹雪きの中、
 人の声等、聞こえるはずもありません。 ただの空耳だと言い聞かせ、
 冷えた体を布団で包み込みました。 するとまた、さっき聞こえた、
 男女の声が聞こえてきて、私は視線を窓に向けました。
 窓には男女の顔が張り付いていて、こちらをじっと、見ているのです。
 全身冷たいものが走り、私は布団を頭まで被り、一人、布団の中で
 怯えていました。 目をつぶり、体を丸めて、恐ろしい気持ちを
 押さえているうちに、いつの間にか、眠ってしまった様子で朝、友人が
 私を起こしてくれるまで、眠りの中にいました。

 昨夜の事を友人に話すと何かの見間違いだろうと取り合ってくれません。
 「第一、窓なんて、凍りついて開かないよ。」、そう言って、窓を
 開けようとしてくれましたが、確かに凍り付いてビクともしませんでした。
 私が見た窓に張り付いていた男女の顔はいったい、何だったのでしょうか?