第七章 第一話    真夜中の訪問者 (投稿者:福岡県 Y.S.さん)

 私は小さい頃から体が弱くて何度も入退院を繰り返していました。
 小学校3年生の頃だったと思いますが私は風邪をこじらせ肺炎になり、
 近くの大きな総合病院に入院する事になったのです。
 学校も休みがちだったせいか、特に親しい友人も出来ず、寂しい毎日を
 過ごしていました。 クラスの子数人と先生が代表でお見舞いには、
 来てくれましたが、義理で来ているのだろうと少しひねくれていたような
 気がします。 健康な普通の子供達のように外で長く遊んでいたりすると、
 突然、倒れてしまったりと、なかなか他の子供達と一緒に遊ぶことも、
 出来なかったのです。
 入院してから、数日は普通に何事もなく、過ぎていったのですが、
 ある日の夜、昼間、眠っていたせいか、なかなか、寝つけずにいたのです。
 時計を見ると夜中の2時を少し回ったばかりで、辺りはシーンと
 静まり返っていました。 そんな静寂の中、いきなり、コンコンと部屋を
 ノックする音が聞こえてきたのです。 看護婦さんが見回りにきたのだろうと、
 思い、とっさに寝た振りをしましたが、ドアを開ける音もしなければ、
 人の気配もありません。 気のせいだったのかなと思い、目を開けようと
 すると、「ねえ!」と誰かが、私の体を揺すり、起こそうとするのです。
 私は、ビクッとしましたが、目を開けてみると、そこには、三つ編みを
 していて、水玉のパジャマを着た同じ年頃の女の子が立っていました。
 ニッコリと微笑むとえくぼの可愛い女の子です。 私は、なぜ、こんな
 夜中に知らない女の子が尋ねてくるのか、不思議でしたが、無邪気に
 微笑む笑顔に親近感を覚えました。 その女の子は「一緒に遊びに
 行こ!」と私の手を引き、屋上に行き、夜景を見ながら、今までの私では、
 考えられない程、たくさんの話をしました。 女の子の名前は、
 綾(仮名)ちゃんといって、私と同じ3年生で、なんとなく、一緒に
 いるだけで、楽しく安心できたのです。 多分、綾ちゃんも私と同じで、
 体が弱く、入退院を繰り返す生活を送っていて、お互いの気持ちを
 理解できたのだと思います。 
 私達は毎日、夜中、2時を回ると必ず屋上で楽しい時を過ごしました。
 ある日の事、その日も夜中2時を回り、屋上へ行こうとして、パジャマの
 上に羽織るものを着ていると、突然、病室のドアが開きました。
 綾ちゃんが立っています・・・でも、その日は、いつもと様子が変で、
 とても、悲しそうに、涙を浮かべていました。 「どうしたの?」と
 聞くと、「ごめんなさい。 今日でお別れなの・・・。」とポツリと
 一言、そう言いました。 「今まで、一緒にいてくれて、ありがとう。
 とっても、楽しかったよ。」と綾ちゃんは、そう言い残すと、スッーと
 部屋を出て行き、私は訳がわからないまま、綾ちゃんの後を
 追い掛けたのです。 
 綾ちゃんは階段を下り、一番奥の部屋へ入っていきました。 私もすぐ
 部屋の前まで行くとドアは開いたままになっており、中をそっと覗いて
 みると女性がベットの横で泣いている姿が見えました。 私はそっと中に
 入り、綾ちゃんを探していると、ベットの上に綾ちゃんが横になって
 いるのを見付けたのです・・・。

 後日、聞いた話ですが、綾ちゃんは2年程前から植物人間で動く事も出来ず、
 喋る事もできなかったのです。
 では、私と一緒に話していた、あの綾ちゃんは、生霊だったのでしょうか?
 あの日以来、綾ちゃんに会う事はありませんでした。
 亡くなる前に最後に会いに来てくれたのだと、そう思います。