ディスク一覧
2004年3月25日 作成
2004年5月25日 レイアウト変更
2004年8月29日 改訂
2004年9月 5日 コメント追加
2004年9月15日 誤字訂正(殷承宗の宗の字をまちがっていました)
2007年4月20日 ラン・ラン盤ほか4枚のディスク情報を追加(コメントは未)
2007年10月8日 ラン・ラン盤のコメントを追加、および殷盛忠盤のコメントを修正
2009年10月31日 殷承宗の新盤2枚およびカラメラ盤のコメントを追加、リストも若干追加
2009年11月3日 ラン・ランのDVD,民族楽団盤2種などのコメントを追加。これで手持ちの全部のディスクにコメントをつけたので、写真の追加以外とうぶん更新はありません。
※左端の記号をクリックすると、そのディスクへのコメントに飛びます。
※録音年に*があるものは表記がないためCDの発行年またはライセンス表記年を示しています。
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ピアニスト |
指揮者 |
オーケストラ |
録音年 |
レーベル |
CD番号 |
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殷盛忠 |
李徳倫 |
中央楽団 |
1971 |
HUGO(香港) |
HRP903-2 |
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殷承宗 |
エイドリアン・リーパー |
スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 |
1990 |
NAXOS |
8.554499 |
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殷承宗 |
湯沐海 |
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団 |
2003* |
中駿集団(香港) |
K2-060 |
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殷承宗 |
曹鵬 |
上海交響楽団 |
2002 |
上海音像出版社 |
CD2002-2 |
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石叔誠 |
陳佐湟 |
中国中央交響楽団 |
2001(?) |
中国唱片広州公司 |
番号なし |
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石叔誠 |
韓中杰 |
中央楽団交響楽団 |
1985 |
Philipps(日本)
Olympia(英) |
UCCP9438
OCD701 |
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孔祥東 |
麦家楽 |
中国中央交響楽団 |
1992 |
RCA(日本) |
BVCF1512 |
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孔祥東 |
胡詠言 |
広州交響楽団 |
2000? |
MarcoPoro(香港) |
8.225951(HDCD) |
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李堅 |
湯沐海 |
ベルリン放送交響楽団(西) |
1990 |
巨石/鐘石(台湾) |
RM/1343 |
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アイリーン・ファン |
胡炳旭 |
中国中央楽団 |
1998* |
ASV(UK) |
DCA1031 |
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ラン・ラン |
余隆 |
中国フィルハーモニー管弦楽団 |
2006 |
Deutsche Grammophon |
477 6229 |
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郎朗(ラン・ラン) |
余隆 |
広州交響楽団、深圳交響楽団
広州珠影楽団、星海音楽院交響楽団(広州) |
2005 |
Deutsche Grammophon
(DVD) |
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蕭奕慶
(Ytkin Seow) |
林克昌 |
群馬交響楽団 |
1980-81* |
Hong Kong Records
広州市風林文化伝播 |
6.240055(LP)
番号なし(CD) |
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ダニエル・エプステイン |
ユージン・オーマンディ |
フィラデルフィア管弦楽団 |
1974 |
RCA(日本)
RCA(香港)
RCA(LP、日本盤) |
BVCC38297
8.240158
SRA2923 |
|
イレーナ・ヴェレッド |
エルガー・ハワース |
ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団 |
1973 |
LONDON(日本) |
POCL-3449 |
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宮崎 剛 |
牧村邦彦 |
大阪シンフォニカー |
1998 |
Victor Entertainment(日本) |
PRCD1629 |
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リッカルド・カラメラ |
袁方 |
北京放送交響楽団 |
1992* |
Nuova Era |
#6722 |
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瞿建青 (揚琴) |
瞿春泉 |
上海映画中国管弦楽団 |
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Yellow River(香港Naxos系) |
82026 |
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段皚皚(二胡) |
姜小鵬ほか |
上海交響楽団 |
|
中国唱片広州公司 |
JCD4525 |
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王磊 |
夏飛雲 |
上海音楽学院民族楽団 |
1992* |
揺籃唱片(香港) |
YKCD-9102 |
|
鮑蕙蕎 |
閻惠昌 |
中央民族楽団 |
1991* |
百利唱片 |
BCD-91039 |
各ディスクコメント
*末尾の数字は各楽章ごとの演奏時間(CD表記のもの。実測値ではない)。
ライナーノートに説明がないので断定はできませんが、ジャケットの記載が正しいとすれば、おそらくほぼ初演の雰囲気を伝える貴重な録音です。演奏者も初演者です。ピアニストは実は殷承宗で、團伊玖摩がラジオで語ったところによれば、文化大革命当時「忠義を尽くせ」とのことで改名を強要されたとのこと。李徳倫はこの時代の中国を代表する指揮者のようです。
全曲を通じてみられる、ピアノの乱暴といってもよいたたきつけるようなタッチは、殷承相の再録音にはまずみられないものです。これがまさに時代の雰囲気なのでしょうか。強奏部で音の響きを殺し、レガートを極力避けた演奏は、結果としてまさに「がんがん」というピアノの鳴らし方になっています。しかし、決して雑な演奏ではなく、はやめのテンポ(特に第二楽章は他の多くの録音よりずいぶん短い)でオーケストラの縦の線がよく揃っているので切れ味のよい勢いがあります。モノラルですがじゅうぶん鑑賞に耐える音質です。ただ、ピアノそのものが上等でないうえ、調律が十分でないことが録音からでもわかってしまうのは、悲しいところです。
オーケストラは中央楽団ですが、腕前は80年代の録音より上だと思います。弦のアンサンブルも確実で、金管はfffでも安定感があります。以前からのメンバーが演奏している「文革」中のほうがレベルが高いと言うことは、その後の世代で人が育っていないことを示しているのでしょう。ここにも、傷跡があるのかもしれません。
なお、下のジャケットは、中国唱片(国営レコード会社)のレコード(M905)で、おそらく同じ録音です。当時の雰囲気が感じられるジャケットですね。なんでも、当時訪中した人がよくおみやげでもらったそうです。私もオークションで入手しました。また香港Marco
Poloのカタログに出ている8.008(ナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴けます)も同じ録音かもしれませんが、時間表記はこの盤と異なり、確認できていません。HUGOレーベルのCDは内山書店で注文できる可能性があります。(3.27, 3.37, 6.27, 6.12)
初演者殷承宗が90年代に入ってからヨーロッパで再録したもの。このピアニストの本領は叙情性にあるのだなあと感じる録音です。オーケストラも含めて激情を抑制した、非常に柔らかい印象をもつ演奏です。録音がよいこともあって聴きやすいのですが、反面この曲の劇的な側面がかなりそぎおとされていて、曲本来の魅力の一部が失われているようにも思います。オーケストラが中国のものでないため、共感が不足?しているのかもしれません。もちろん、決して手抜きとは感じませんので、まだこの曲を聴いたことのない方は、現在もっとも入手しやすいこの盤でまずは一度聴いてみてください。有料ストリーミング・サービスのナクソス・ミュージック・ライブラリーでも聴くことができます。
併録されているのは多くが民謡をモチーフにしたピアノ・ソロの小品ですが、これはいずれもピアニストの叙情性がいかんなく発揮されたもので、魅力的です。むしろ私はこの小品集をもってこのCDをおすすめします。(3.28, 4.16, 6.45, 6.28)
殷承宗のおそらく最新録音。上記のナクソス盤よりはいくぶんハードなタッチで、角のはっきりした楷書の演奏です。時に「爆演指揮者」扱いされるテミルカーノフのもとでムラヴィンスキー時代とは様変わりしたサンクト・ペテルブルク・フィルが金管楽器などをばりばりならしていることも、そうした印象を強めています。世界市場むけのナクソス盤と、中国のレーベルがプロデュースしたこの盤では少し感触を変えているのかもしれません。
強いて言えば、第2楽章末尾で柔らかく響いてくる人民共和国国家のファンファーレがややストレートで、もう少し平原の彼方から響いてくるようなところがほしい気はします。しかし、全体として粗雑なところはなく、オーケストラも暴走はしていないので、安心して力強い響きを堪能できます。フィナーレも、「インターナショナル」のフレーズを高らかにならしていて、演奏者の内心には複雑な思いがあるかもしれませんが、それを感じさせません。なお録音時間は第三楽章を除きほとんどナクソス盤とほぼ同じで、殷の演奏が安定していることを示しているといえるかもしれません。
併録はチャイコフスキーの第1番。あまたの名演と比べても遜色はなく、じゅうぶん聴き応えがあります。なお、録音は日本の最新技術を使ったことがジャケットで強調されています。(3.32, 4.16, 7.06, 6.28)
2002年1月2日、上海大劇場でのライブ録音。殷承宗が中国のオーケストラとこの曲を共演した録音は私の知る限りはじめてです。それで期待も大きいのですが、残念ながらあまりお薦めできるものではありません。一つには、ライブのせいかミスタッチがめだつこと、特に前半です。もう一つは、オーケストラがいまひとつです。上海交響楽団の技術水準は高く、その点で問題は感じないのですが、わりとルーティンな感じで、あまり音楽にのっていません。リズムが重く、ややもたついた印象があります。ピアノが鮮明なのにオーケストラがこもりぎみの録音がそれに拍車をかけています。
演奏はやや早めで、おそらくライブで大向こう受けをねらったためか、テンポや強弱の幅が最近の彼の録音にくらべ大きくとられていて、どちらかといえば70年代の録音に近い盛り上げ方もされています。しかしそれがかえってやや雑な感じになり、ミスタッチを誘発しているようにも感じます。
殷にはすでに上記のよい演奏があるので、著作権上の問題もあるらしい(殷がレーベルを訴えているようです)このCDをあえてとりあげる必要はないでしょう。(3.37, 4.03, 6.55 7.12)
石叔誠(pf)、陳佐湟(指揮)、中国中央交響楽団
制作メンバーの一人石叔誠によるピアノ演奏。そして石の「改訂版」楽譜による演奏です(詳しくはこちら)。彼がこの楽譜での録音をはじめて行ったのは1989年というので、それ以降の録音とみられます(ある中国のCD通販サイトでは2001年発売との標記)。
演奏は力強いもので、構えの大きさは下記の石の旧録音と同じです。特に、ピアノが実にたっぷりとなっていて、この人のラフマニノフとかも聴いてみたい、という感じです。しかし、決してケレン味はなく、直球勝負といってよいでしょう。特に、問題の第4楽章フィナーレの部分は、同じように改訂版を使っている李堅の演奏に比べると格段に力がこもっていて迫力があり、こちらの演奏なら説得力があるという感じがします。さすがに、「これこそベスト!」という確信でしょうか。ただし録音はこもり気味でいま一つです。鐘信明のヴァイオリン協奏曲第1番を併録。(3:36,
4:26, 7:06, 6:05)
石叔誠(pf)、韓中杰(指揮)、中央楽団交響楽団
石叔誠の演奏ですが、こちらは現行版の演奏です。このころ(1985年)までは石も現行版で演奏していたのでしょう。
全体に演奏時間が長めであることからも予想されるように、大きな構えでゆったりと演奏されています。それは決して弛緩しているわけではなく、大陸的というとやや使い古された言葉ですが、そういった魅力を感じます。特に第3楽章は冒頭の竹笛からピアノにメロディーが渡されていく部分の静かな叙情にうたれます。ただ第4楽章ではやや管楽器が非力(技術的にも音量的にも)で、ピアノの響きの大きさとかみあっていないのが残念です。香港ポリグラムと中国国営レコード社の共同制作です。「晩会」「森吉徳馬」などポピュラーな管弦楽小品を併録。限定盤です。なお、営業を中止したOlympiaのOCD701はおそらく同じ音源と思われますが、併録曲が若干違います。(3:37,
4:27, 7:32, 6:30)
孔祥東(pf)、麦家楽(指揮)、中国中央交響楽団
現在中国で活躍中の孔祥東による録音。テレビなどにも登場しているようです。あるサイトで、「かっこつけすぎるのがたまに傷」と評されていたのですが、彼のピアノは確かに大向こう受けをねらった感じがあります。遅いところは「ため」を効かせてテンポを自在に動かし、大きな音はたっぷり聴かせる、という演奏です。第一楽章冒頭のピアノソロなども、若干装飾音もいれながら華麗に弾いています。第三楽章では、冒頭の竹笛から民族色豊かに吹き上げ、その後のピアノも民謡のアレンジのような軽やかさで登場するなど、あまりうるさくいわなければそれはそれで楽しめます。
オーケストラはうまいとはいえません(フィナーレで金管のミス多発)が、金管や打楽器が無責任といってもいいくらい大々的に鳴っており、迫力はあります。全体として「脳天気」な演奏といってよいかもしれません。逆に言うと、時代の緊張感などとは無縁ですが。併録はこれまた中国でもっとも有名なヴァイオリン協奏曲「梁祝(梁山泊と祝英台)」を許可が二胡で弾いた演奏。(3:29,4:20,6:39,6:35)
孔祥東(pf)、胡詠言(指揮)、広州交響楽団
孔祥東のおそらく再録。まるでアイドルスターのようなジャケットにちょっとびびります。
演奏は基本的に上のCDと同じ調子で、より「ため」「キメ」が磨かれている感じです。オーケストラや竹笛のソロも同じ調子ですが、腕前はこちらのほうが上かもしれません。HDCDで録音がよいせいか(?)金管や打楽器の炸裂ぶりも拍車がかかっています。中国伝統楽器の演奏に見られるお祭り音楽の感じでしょうか。中国国内の演奏会では聴衆に大受けというのもなんとなくわかる気がします。有料ストリーミング・サービスのナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴くことができます。(3:40,4:06,6:44,6:33)
李堅(pf)、湯沐海(指揮)、ベルリン放送交響楽団(西)
台湾で発売されたCDですが、ピアニストと指揮者は上海出身。帯には「中国人なら聞かずにおれない!」と書かれています。「文革」礼賛といえる曲が台湾で民族を代表する音楽としてアピールされていることに驚きます。
とはいえ、ピアニストはそれなりにがんばっているものの演奏全体はあまりよいとはいえません。特にオーケストラが全体として冴えない印象があります。併録のラフマニノフ・ピアノ協奏曲第二番では、それなりに気合いが入っているので、民族性・政治性の強い曲に楽員が今一つ共感できていないのではと勘ぐります。オーケストラとピアノの縦の線がそろわないあたりは、指揮者の力量によるのかもしれません。
なお第四楽章は、冒頭が高い音からはじまること、フィナーレで「東方紅」の代わりに第一楽章の「舟歌」のメロディーが使われるあたりは石叔誠の「改訂版」に似ています(詳しくはこちら)が、若干違います。ライナーノートによれば、フィナーレは杜鳴心の作とのことで、よくわかりません。このフィナーレはややとってつけたような感じがあり、同じ改訂版なら石/陳盤のほうが私は迫力があって好きです。(3.50, 4.35, 7.07, 6.24)
ピアニストのアイリーン・ファンは中国出身で現在はアメリカ市民権をもつ人です(本人の公式サイトはこちら)。北京音楽院に入学した年に「文化大革命」がはじまったため在学中に下放された経験をもち、「毛沢東からモーツァルトへ」という副題をもつ著書もあるそうです。
ファンのピアノは響きに深みや重さがなく、軽やかな感じです。録音のせいもあるのかオーケストラもやや線が細い印象があり、全体として柔和な表情の演奏です。演奏時間がやや長いことにも示されているとおり、ところどころかなりゆっくりと演奏されていますが、たっぷりと歌い上げるという感じではなくむしろ叙情性を感じます。意識的に激しさや思い入れをさけたのかもしれません。迫力に乏しいと感じる人もいるでしょうが、これはこれで魅力的です。(3:46, 4:25, 7:03, 6:59)
なお、併録されている「中国青年協奏曲」(中央音楽院作、1959年)も注目に値すると思います。中国民族楽器を西洋クラシック音楽のオーケストラのように配置した管弦楽団とピアノによる協奏曲で、民族的なメロディー、リズム、ハーモニーを用いながらも音楽の構成上は西洋クラシック音楽の和声法や作曲法に即して作曲されています。単一楽章ですが、急ー緩ー急の3部構成で、最初の主題が最後にも現れるあたりはソナタ形式が意識されているのかもしれません。中間部は叙情的ですが、全体として屈託のない明るく楽しい曲です。
最初聴いたときはチャルメラの音がトランペットのように鳴り響くことに笑いがこぼれます。音楽としても稚拙な面が残ることは否めません。しかしここには、ちょうど日本で外山雄三や小山清茂が民謡をモチーフとした管弦楽曲を作曲したのと同じように、民族的なものと西洋的なものとを融合させようとした真摯なとりくみがあります。まだ「文化大革命」が始まる前、音楽院に集まった若い作曲家たちが、自分たちのオリジナルな新しいものを作りだそうと工夫を重ねる姿を想像しながらこの曲を聴くとき、私はやはり感動を覚えます。ASVも最近品薄ですが、まだ輸入CD通販で手にはいることがあります。
欧米でも大活躍中、現在の中国におけるピアノ・ブームの起爆剤であり、クラシック音楽界初の中国が生んだ世界的スター、ラン・ランが満を持して全世界に問うた「黄河」。それは、期待に違わないできばえです。個人的な好みはともかく、現在ふつうに入手できるディスクの中では、音楽の内容と技術の両面でもっとも安心してお薦めできるものです。
全体はやや早めのテンポで快活に演奏されます。しかし、中間の二つの楽章などではところどころで彼の得意とする深く、少し粘りのある響きを聴かせることで、音楽そのものも深みを与えています。多少ためを効かせているところもありますが、決して下品にはならず、自然な感情の発露とうけとれます。ここには、ごく率直な賛歌があると思います。
第4楽章の金管の響きなどはいくぶん抑制されていて、全部中国勢の演奏とはいえ、21世紀ともなるとさすがにオーケストラにも洗練が感じられます。もちろん、技術的には文句ありませんし、フィナーレの迫力にも不足しません。
正直、いささか陶酔ぶりが鼻につくときのあるラン・ランの演奏の映像などを以前に見ていたせいもあり、欧米のオリエンタリズムに媚びたような演奏になることを危惧していました。しかし、私は彼を誤解していたと思います。見た目には演出もあるのかもしれません。しかし、ピアニストとしての彼は本物だと思いました。それは、このCDの併録曲の選択にも現れています。もちろん、定番となっている民謡もはいっています。しかし、大半が中国の現代作曲家の作品なのです。それらは、中国の伝統的な音楽の語法をふまえながらも、オリジナルな作品がほとんどです。ここには、西洋(そして日本にもある)のオリエンタリズムに媚びるのではなく、中国の「現代」を伝えたいという彼と、スタッフの思いがあるのではないかと思うのです。
私自身の好みからいえば、「黄河」そのものは両端楽章でももう少しゆっくりしたと、ふくらみのある演奏のほうが好きです。しかし、併録曲も含めて、私はこのCDを強力に推薦します。(全20'44)
このDVDは、仏独共同の文化番組テレビ局であるArteとバイエルン放送が共同制作したラン・ランのドキュメンタリーをメインに、上記のCDに収録された曲の演奏ビデオが収録されています。私が入手したのは中・英版です。
小品のほうはスタジオ収録なのでCDとほとんど違いはない(あるいは同時収録)のですが、「黄河」はCDがスタジオ収録なのに対してこちらはライブ、しかも広州での広東省政府・党の幹部が顔をそろえた巨大イベントでの演奏が収録されています。なにしろお祭りなので、4オーケストラ合同のうえに、ラン・ランのほかに100人の「美女ピアニスト」が登場するというものですから、演奏をうんぬんするようなものではありませんが、インパクトは大きいです。ドキュメンタリー番組のほうが、ラン・ランの演奏ツァーを縦糸にインタビューを横糸に構成されており、ツァーでは各地で「黄河」を演奏するシーンが登場しますので、そのいわば「集大成」としてこのライブが選ばれたのでしょう。ラン・ランのエンターテーナーぶりがよくわかるのと、中国におけるこの曲の位置づけが実感できるというところでしょうか。念のためふれておけば、ドキュメンタリーは中国のヒーローとしてラン・ランをとりあげた非常にまじめなもので、こういうイベントをやってしまう中国を揶揄しているわけではありません。
なお、タイトルの「黄河之子」の文字は、中国の人気作家金庸の筆によるものです。若手ピアニストのDVDタイトルを、現代を代表する作家が揮毫するというあたりも、ラン・ランがただものでない扱いをされていることの表れのようです。
もともとはHongKong Recordsがプロデュースした録音で、日本でもLPで発売されたことがあります。
演奏としては、アンサンブルに定評のある群馬交響楽団の特質が生かされていて、特に弦の響きの美しさが印象に残ります。第3楽章の抒情的なところはもちろん、フィナーレの「東方紅」がこれほど感動的に響く演奏はあまりありません。中国風の節回しの装飾音もとても上品です。金管楽器も、炸裂こそしないものの深い響きが力強さを感じさせます。群響にとっては「請負仕事」だったはずですが、それを微塵も感じさせない丁寧な演奏ぶりで、指揮者の力量もかなりのものと感じました。ピアニストの弾きぶりは、どちらかといえば呼吸の浅い、少し速いテンポで走らせる感じです。逆に言うと朗々と歌う感じはやや弱いです。技術的には文句ありません。琵琶も入っているので民族的感興もあり、おすすめできる演奏です。
中米国交回復を記念してアメリカから文化使節として,1973年にフィラデルフィア管弦楽団が訪中したのですが、そのときにこの曲を演奏しました。この録音はその訪中公演の記念盤で、中国の「労農行進曲」、アメリカ国歌などそのときの演奏曲目の一部を収録したLPに含まれています。
> 演奏は、いかにもフィラデルフィア管弦楽団らしい華麗でドラマティックなものです。ピアニストのエプスタインはこの録音以外で耳にしたことはありませんが、これまた腕がたつ人のようでオーケストラと互角にきり結んで華やかさをもりあげています。冒頭からして一流オーケストラの響きのすばらしさを感じさせ、これと並べて聴くと、中国中央楽団の演奏が技術的には見劣りするのは否めません。安心して楽しめる演奏といえるでしょう。
ただ竹笛と琵琶を録音上強調しているので民族的な感触もありますが、基本的には完全に西洋音楽のフィールドに引き込んだ演奏なので、愛国的な情感や、民族的なリズム感などはやや後退しているといえるかもしれません。なおジャケットはLPのものですが、現在はオーマンディの一連のシリーズCDの一枚として別なカップリングで発売されています。(3.25,4.17, 6.15, 6.03)
すべて欧米勢による演奏。竹笛はおそらくフルートで代替、琵琶は入っていない模様。マニアックなピアノ協奏曲ばかり集めたヘンなCD(他にはアディンセルのワルソー・コンチェルトやゴットシャルクの「勝利の大幻想曲」などを収録)ですが、れっきとしたLONDON(DECCA)盤です。
演奏は、アメリカのオーケストラらしい金管の鮮やかさが印象的です。ピアニストともども明るい音色でまとめてあり、もともと楽天的に作られた曲をさらに屈託なく演奏しています。それだけに所々にある深い響きを要求される部分では多少物足りない気もします。また、第二楽章の終わりの方で登場する人民共和国国歌のファンファーレを、他の演奏の多くが遠くから響いてくるように柔らかく鳴らしていて効果的なのに対して割合ストレートに吹き上げてしまっていて、そうしたところもやや単調さを感じさせます。
余談ですが、この演奏はロンドンで録音されています。なぜワシントンのナショナル・フィルはわざわざイギリスまででかけていってこんなCDを録音したのでしょうか・・・。(3.32,
4.15, 6.45, 6.10)
※・・・と書いたのですが、どうやらこのオーケストラはロンドン・レーベルのスタジオ・オーケストラで、ワシントンのそれとは別物のようです(2009/10/30加筆)。
宮崎剛(pf)、牧村邦彦(指揮)、大阪シンフォニカー
オール日本勢による演奏。宮崎は大阪を中心に活動するピアニスト。このCDはビクターの発売ですが、本人のオフィシャルサイトで発売されています。
日本人初録音ということで期待するのですが、ライブのせいかミスが多いのが惜しまれます。また、この曲の政治性をなるべく抑えて、中国の大陸的な叙情を前面にだして演奏しようとされたのではないかと思いますが、結果としてはやや力の弱い印象が強く、オーケストラが曲にのりきれていないこともあって、残念です。演奏時間を見るとわかるようにゆっくりした演奏なのですが、内部にもう一歩力がないと、間延びした感じになります。併録のハイドンでは、叙情を重視するピアニストのアプローチが効果をあげているように思うので、相性の問題かもしれません。
なお、ジャケットではこの曲を「作曲者不詳」とされていますが、これは困ります。(4:01, 4:35, 7:17, 7:27)
リッカルド・カラメッラ(pf)、袁方(指揮)、北京放送交響楽団
イタリア人ピアニストと中国勢の共演。Wikipediaによれば1988年に両者は共演しているとのことなので、その頃の録音でしょう。 演奏は非常に遅く感じます。特にピアノがそうで、ほとんどのピアニストがレガートで弾いている部分で、一つ一つの音をはっきり弾いています。ほかの人の演奏が坂道なら、この人の演奏は階段です。しかし、それが機械的な印象にはならず、なんともいえない魅力を感じます。たとえば冒頭、ファンファーレのあとにいきなりピアノが華麗に高音と低音のあいだをグリッサンドで往復するカデンツァ風の部分が登場しますが、ここを彼はグリッサンドでなく、スタッカートがついているのかというほど一音一音をはっきり打鍵しています。しかし音楽はもたつかず、むしろ一歩一歩をしっかりと歩んでいく感じなのです。
オーケストラも、技術的に不満はないのですがなんとなく垢抜けない響きで、それがピアノとあっています。もちろん、間延びしているわけではなく、質感はあります。ただ迫力でおしまくるというわけではないので、人によってはやや弱いと感じるかも知れません。しかし、私は気に入っています。とうに絶版ですが、AmazonUSAのマーケットプレイスで2年以上探し続けたかいはありました。(25.32)
瞿建青(揚琴)、瞿春泉(指揮)、上海映画楽団民族楽団
ピアノの代わりに揚琴、オーケストラは民族楽器オーケストラという一風変わった編曲による演奏。しかし、けっこうおもしろく聴けます。民族楽器オーケストラは、管、弦、打それぞれ西洋楽器に対応した楽器で編成されているので意外に違和感がないですし、揚琴も打弦楽器という意味ではピアノと本質的に似ていますから、実はびっくりするほど違う印象にはならないのです。
とはいえ、揚琴はピアノほど多様な和音が構成できませんから、そのぶん装飾音のアドリブなどで楽しませようとしますし、伝統楽器で無理に五線譜どおり演奏しようとして超絶技巧を弄することになったりして、民族的なような西洋的なような、その中途半端感が私は大好きです。なお、第4楽章の後半はかなりはしょっていて、中盤からいきなりとってつけたようなフィナーレ(通常版のどれとも異なる)に飛んでしまいます。たぶん、変奏曲の部分をずっと展開し続けるには、民族楽団では音色の変化が不足するのでしょうか。有名な「将軍令」など揚琴のソロ曲を併録。残念ながら絶版ですが、有料ストリーミング・サービスのナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴くことができます。(全19:04)
段皚皚 (二胡)、姜小鵬ほか(指揮)、上海交響楽団
こんどは二胡協奏曲版です。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をピアノに編曲したものはありますが、ピアノを弦楽器に置き換えるとは大胆です。とはいえ当然音が足りず、独奏の低音部は結局ピアノが弾いていて、二胡は旋律線を担当しています。
二胡とはいえそうとうがんばって迫力のある演奏を追求しています。早弾きのところなどは、「これが二胡か?」と思うほどです。しかしやはり聴きどころは第二、第三楽章の叙情的な部分で、独特の情感が胸に迫ります。逆に、フィナーレなどはやはりちょっと物足りなさがあります。このCDは壷天路で注文できます。(3:51, 4:00, 6:27, 6:03)
王磊(pf)、夏飛雲(指揮)、上海音楽学院民族楽団
ピアノと民族楽器オーケストラとの組み合わせに編曲した版による録音(馬文編曲)。民族楽器オーケストラは、一部音の足りないところは西洋楽器で補っているようですが、おおむね対応する楽器がありますし、編曲もオーソドックスなもので、それほど違和感はありません。弦楽器の中国風のふしまわしなどは当然堂に入ったものですが、ところによってはちょっと無理のあるところもあります。特にこの編曲は、金管楽器をいわゆるチャルメラ風の音の出る楽器に置き換えているので、やや甲高く細い音が中心になり、トロンボーンの太い響きなどがなきため、ちょっと軽い感じになります。
ピアニストの演奏はオーソドックスなもので技術的にも不足はありませんが、やや一本調子かもしれません。なお、第4楽章は一番最後の部分から「東方紅」のメロディーの部分を外し(1小節分だけの断片が曲の最後で数回繰り返されます)、「インターナショナル」のフレーズの部分だけを石淑成の改訂版に置き換えたものです(詳しくはこちら)。併録はポピュラーな「二泉映月」に加え、もともとは揚琴協奏曲である「延河暢想曲」をピアノ協奏曲にしたもの、およびアイリーン・ファン盤のところで紹介した「青年協奏曲」です。
鮑蕙蕎(pf)、閻惠昌(指揮)、中央民族楽団
こちらもピアノと民族楽器オーケストラとの組み合わせに編曲した版です(劉文金編曲)。こちらのほうが、管弦楽部分が上記の盤よりも厚みがあるように感じます。弦楽器の中低音を、琵琶のトレモロで奏で続けている部分が多いことや、金管に対応する楽器の音が太いためかと思います。。技術的にもこちらの楽団のほうがわずかに上のように感じます。
特に、ほんらい音があわせにくい民族楽器で、縦の線と和声の両方がかなり揃っているところに感心します。多くの琵琶がいっせいにメロディーをつまびいたり、弦楽器のかわりにトレモロで奏でたりすると、音色にふくらみがでて、魅力的です。このタイプの編曲ならこちらのほうがおすすめでしょうか。ピアニストもダイナミックで「ため」もところどころ効かしていますが、雑な感じはありません。なお、第4楽章は石淑成の改訂版が用いられていますので、冒頭と、最後の部分が違います(詳しくはこちら)。併録は「梁祝」の柳琴協奏曲版と小品です。(3:44, 4:12, 7:10, 6:40)
なお、うえのCDもこのCDも台北で入手したものですが、こちらは「黄河大合唱」と抗日戦時の愛国歌集が収録されたビデオCDと2枚組になっています。文化大革命とぬきがたく結びついた「黄河」はもちろん、「黄河大合唱」や愛国歌も基本的には共産党と結びついたものとイメージされるものが多く、かつてであれば台湾でこういうCDが発売されるというのはあまり考えられなかったのですが、時代は変わっていますね。ちょっと北京と台北がぎくしゃくするとすぐにも台湾海峡をミサイルが飛び交うような危機感をもつ人がいますが、現実は少し違っているような気がします。