(こちらはNo89:我ままの続編です。)







正直、ある程度の予想はしていた。拒絶か侮蔑か、あるいはアイツらしからない暴言か。
でも苦し気に薄く開いた唇から、音には成らずに滑り出て来た言葉は余りにも意外で、でも俺の神経を逆撫でするには充分過ぎる程の効き目を持っていた。

「・・・面白いモノを聞いたぞ」

ソレは俺がこの学園の人間で唯一、頭を垂れても良いと思った相手、そして俺ともコイツとも近しい存在。
だから別におかしくはナイ。でもまさかこんな状況のコイツから、しかも名字では無く名で聞くとは思わなかった。
正に思い掛けない、告白。
ねじ伏せた身体に覆い被さり、すらっとした首を咬みながら薄笑い。
でもソレは本当の笑いじゃ無くて、込み上げて来る苦い感情に表皮が引き摺られてるだけ。

アイツを”哲也”と呼ぶのは俺だけだと思っていたが、まさかお前までそう呼ぶとはな。

言葉に、びくっと身体が震える。その様子からどうやらコレは、無意識のヒトコトだったらしい。
だから尚更に苛立ちが募る、ソレがお前の本心なのか、と。

「アイツと寝たのか?」

鼻先を掠める、敢えて解いてやった利き腕の右手が作り出した風。その手が俺の肩を掴んで、必死に押し返そうとする。
でもソコにあの強い弓を引ける程の力はこもっていない。
ソレもその筈、コイツは明らかに動揺していた。しかもかなり酷く。
見下ろした先の、真っ黒い双瞳。忙し無く左右に揺れて、何とかこの状況からの脱出を測ろうとしているのがありありと判る。

「どうなんだ」

アイツの腕は逞しかった?愛撫は優しかったか?つらつらと並べられる単語に、かあっと走る淡い赤。
突っ込まれて感じたか?そしてちゃんとイかせてやったか?

「バカにするなっ!」

俺はアイツとそんなコトはしていないっ!誰もがお前みたいだと思うな!!

再び振り上げられた手の固い指先が、俺の頬を勢い良く引っ掛ける。
キチンと切り揃えられたお前の爪は薄皮一枚だけを器用に剥ぎ取り、赤い筋を一瞬で走らせた。
じわっと滲む鈍い熱、そして次いで感じたひりひりする刺激は、俺の中に密やかに溜まっていた澱(おり)をだらだらと吐き出させて滴らせる。

「そうか、ソレは悪かったな」

口先だけの短い謝罪。

だが実際にしていなくても、頭では考えたんじゃないのか?アイツにかき回されて、犯されるコトを。

言いながら、なだらかな隆起に冷えた手を這わせる。

「こんな風に」


きっかけは些細なコト、単に興味が沸いただけ。
綺麗な顔をしていたとか高潔な性格が鼻に付いたとか、でも思い付く理由はドレもコレも正しくは無い気がする。
そしてふと思いつく、そうだ、俺はただ単にコイツを汚したかっただけだ。
あの取り澄ました顔を身体を手荒く引き裂いて、真っ赤な中身に俺を突き立てたかったんんだ。
きっとそうだ、そうに違い無い。
・・・じゃあ、じゃあ今、言葉と共に身体の中でふつふつと沸き上がる、表現出来ないこの感情は何なのだろう。
酷くどろっとして重たくて、でもそのクセ突如さらっと込み上げて喉を脳をじりっと焦がす。
伴う熱は四肢を麻痺させ、正常な思考を俺から奪って彼方に押し流す。
そして後に残されるのは、俺を見ない瞳、俺を呼ばない唇。
俺を拒む心と身体。
篠宮から俺への告白は、アイツへの無自覚の執心。ならば俺の告白は何だ?
俺から篠宮への告白はナンだ?
背筋を走る、信じられない程に冷えた感覚。
その痛い程の冷ややかさに導かれて、俺はようやくお前を見る度に腕に抱く都度に荒れ狂うこの感情に与えられてる、愚鈍な
名前を思い出す。
既に何万回も使い古され、手垢や汚れに塗れてくすんだ、でも未だに輝きと魅力を失わないその言葉。
そして自分は絶対に口にするコトはないだろうと思っていた、反吐が出る程に腐りきった二文字。
その二文字が今、俺の喉を醜く焼き焦がしながら吹き出そうとしている。俺の告白、篠宮への告白。
しかし俺は、その言葉をもう口には出せない。
まだ早い、この気持ちに確信が持てない。そう思っていた。でも。



『哲也』



でももう、遅かった。




no.33 『告白』





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こちらは、葉月ましゃさんのお題SSです〜v前回の我がままの続編となっています。
フフフ、いよいよ『丹羽VS中嶋×篠宮』の片鱗が垣間見えてきましたよ!
実は、このお話しの影のテーマのひとつなのであります>丹羽VS中嶋×篠宮。
中嶋が認めたくない篠宮に対する感情が切ないです。
しかも、篠宮があんな事を口走ったからなおの事。今後どんな展開になるんでしょうかね〜v
えへへvそして、絵は『哲也』と呼ぶ篠宮で!と、また読んですぐに決めてました。
がしかし、今回は絵、てこずりました〜・・・。篠宮の表情がなかなか決まらずに・・。

余談ですが、絵の挿入箇所をかえてみました。(ホントに余談だ・笑)

まだ続きますので、楽しみにお待ち下さいませvv(黒須ねこ)




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