北極圏を超えよう! アラスカ コールドフット 


この日は殆ど写真を撮っていません。
文字ばかりで見づらいページになっていますが、ご了承ください

2005年3月22日

今朝青空が広がっている。が、風の強さは相変わらずだ。
今日は、帰国の日。
飛行機の出発は10時の予定。9時45分に空港まで送ってくれるということになっているのだが、飛行機は飛ぶのだろうか・・・

9時を過ぎた頃、スタッフから連絡があった。やはり、コールドフットの空港は閉鎖しているとのこと。連絡が入り次第、出発するのでそれまでカフェで待機して欲しいので、9時半にカフェに集まってくれとのことだった。今日、ここを発つのは私たちのほか、日本のツアー客と、初日に一緒にここにきたメアリーとマーリーンの2人である。

9時40分 コールドフットからは飛行機が飛ばないので、ここより南にいったところにあるProspected Creekというところにある飛行場を目指すことになった。
そこだと風の向きが変わってくるので、飛行機が離発着できるかもしれないとのことだ。
車2台にわかれて、Prospected Creekを目指すことになった。
空は青空が広がっているのに、道路は地吹雪というのかかなり風が強い。山の天気は不安定だ。少しでも状況が回復してくれるといいんだけど・・・。

衛星電話で連絡を取ります。
普通の携帯から比べるとアンテナがでかい
Prospected Creekに着いたのは、11:30頃だった。飛行機は到着していなかった。
ドライバーのブレットは、衛星電話で連絡を取っている。北極圏を超えたこの地では、普通の携帯電話は使うことができない。車には無線が搭載しているけど、無線の入る距離はかなり狭いものだ。あとは、この衛星電話だけが頼りなのだ。
情報によると、15分前に飛行機がここの空港に来たのだけど、結局着陸できずに、そのまま引き返してしまったとのことだ。

「車で南を目指そう」 ブレットが出した結論はそれだった。
飛行機が飛ばないのなら、陸路でフェアバンクスまで行こうということだ。というか、それしか手段がないのだから。
電話で、峠を越えたYukon Riverに、食べ物と飲み物を届けてくれるよう手配もしてくれた。

私たちは、17時にフェアバンクスからアンカレッジに向かう飛行機のチケットを持っていた。本当はコールドフットを10時に出て、フェアバンクスには11時に着く予定なので、こんなに遅い時間のチケットを取らなくてもいいんだけど、小型飛行機は天候によって大幅に遅れることがあるので、余裕を持ってチケットを取ったほうがいいと旅行会社からアドバイスを受けていたのだ。
多分、このまま何事もなくフェアバンクスまで到着できれば、5時の便にギリギリ間に合うかどうかっていう感じである。
ツアーの皆さんは、14:00の便でフェアバンクスを発つ予定なので、こちらは便の変更をしなくてはならない。

Arctic Circleまでは何の問題もなく到着。天気もいいし、風もずいぶん収まっていた。Arctic Circleでトイレ休憩をとり、再び出発。
「大丈夫そうだね」と私がいうと、ブレットは「ここから20マイルが一番風が強いところなんだ」と真顔で言う。


確かに彼の言うとおり、Arctic Circleを出てからは、地吹雪が強くなった。私は助手席に座っていたのだけど、道路が全然見えなくなるくらいの地吹雪のところもある。
ガードレールも中央分離帯もない道路、はっきり言って本当に怖かった。それでも、私たちは南を目指さなくてはならない。スピードを落とし、ゆっくりゆっくりになりながらも南に向かって車は走っていった。
途中、大きなトレーラーが道路脇に横転していた。強風のせいなのか、それとも運転を誤ったのか・・・。

13:30 Old Manというところで、車が止まった。
前に、一台の乗用車がスタックして動けなくなっていたのだ。ちょうど風の吹き溜まりになっているらしく、車のまわりにはかなりの雪が積もっていた。
ブレットが様子を見に行くが、私たちの車で引っ張ったとしても、とても脱出は無理だろうということだ。
すぐに無線で状況を知らせる。幸い、近くに除雪車が来ているそうで、その除雪車を待つしかないようだ。とんだ足止めである。
ま、こうなったらどうしようもないよね。このときは、まだ余裕があった。

1時間くらい待っただろうか。ようやく除雪車が到着した。
まずは、スタックしている車を引っ張りあげ、雪が積もった道路を除雪してくれる。これで、前に進める。

・・・と思ったが、現実は厳しかった。
この先の峠では、雪が1メートルを越えるほど積もっていて、この除雪車ではパワー不足で除雪ができないのだそうだ。もっと大きな除雪車が来ないと、道路は通れないままなのだ。
私たちの目の前で、ダルトンハイウェイはクローズになってしまった。
このままここで待機して、その除雪車が来るのを待たなければならない。除雪車がどれくらいで来るのかわからないし、峠の向こうから来るのか、こちらから来るのかもわからない。
さまざまな情報が無線で入ってきて、ブレットもいろいろなところに連絡をしている。
どうやら峠の頂上で、大型のトレーラーが雪に埋もれてしまっているらしい。除雪作業はかなり難航しそうだ。
そして、衝撃的な情報が入ってくる。私は英語が堪能なわけではないし、無線の状態もあまりよくないので、すべてを理解することはできないのだが「Track driver had heart attack」という部分ははっきり聞こえた。トラックドライバーが心臓発作を起こしたようだ。ブレットが「聞こえた?」と静かに私に聞いた。「うん・・・」
どうやら、ここから数マイル先のトラックドライバーらしい。それが雪に埋もれたトレーラーのドライバーなのかどうかはわからないが。
「どうなるの?レスキューがくるの?」と聞いてみると「I don't know.」という答えだった。
天気さえ良ければ、ヘリコプターでレスキューがくるのだが、この天気ではヘリが飛ぶのは難しいのではないかということだ。
・・・これが、冬のアラスカなんだ。そう思うと身震いしてしまいそうな恐怖感を覚えてしまった。

本来なら、今日は小型飛行機でフェアバンクスまで戻るはずだったので、私たちはなるべく荷物を減らそうとして、水も食べ物も持ってきていなかった。当然ながら、車の中にみんなの水や食料は積んでいるはずもない。
すると、同じ車に乗っているツアーのお客さんが、「みんなで分けましょう」と持っていたオレンジを分けてくださった。ほんの数房だったけど乾いた口にはとてもおいしかった。
他の方も、「少しだけど」と持っていたおせんべいやキャンディを分けてくださる。たまたまここに居合わせただけのご縁なのに、貴重な食料まで分けていただいて本当に嬉しかった。

ここで道路がクローズ。この先は除雪できていないのだ。
空は青空なのにねぇ・・・
1時間が過ぎ、2時間が過ぎても、状況は変わらなかった。空は青空が広がっているのになぜ・・・。みんな、そんな気持ちだっただろう。
私の後ろに座っていた添乗員さんが「Prospected Creekまで戻って飛行機を待ってみたらどうだろう」と提案してみるが、ブレットはここで待つのが一番いいという。

当然だが、トイレにも行きたくなる。しかし、外は一面の銀世界。隠れるような茂みや木陰などあるはずもない。私たちの車の後ろには、後続車が列をなして道路が開くのを待っている。
男性なら、向こうをむいて用を足すことができるだろうが、女性はそうはいかない。
結局、2台の車を後ろ向きに駐車して、その間で用を足すことした。道路がクローズしているので対向車がこないから、これで他の人から見られる心配はないしね。

ブレットは、フェアバンクスの旅行会社に電話をして、我々のチケットを最終便に変えるように手続きをしてくれた。最終便は夜の21:00。この時間までにフェアバンクスに到着できるだろうか?
私たちは、アンカレッジ到着後、午前3時の大韓航空でソウルに向けて発つ予定だ。なんとか最終便に乗れれば、予定どおり帰国できる。
しかし、もし最終便に乗れなければ・・・。大韓航空は毎日は飛んでいないのだ。ビジネスクラスといってもディスカウントチケットだ。他の航空会社にエンドースできないはず。
どうなってしまうのだろう・・・。時間がたつに連れて、だんだんと心配になってくる。
ツアーの皆さんと、私たちのチケット変更は、フェアバンクスの旅行社に依頼してくれたが、ブレット→旅行会社→航空会社と何段階かにわけて連絡を取っているので、今後どうなるのかはすぐには回答が来ないのも、イライラしてきてしまう。

無常にも時間はどんどん過ぎる。時計は18:00を指した。私たちは4時間以上もここで待ったのに、道路はオープンしなかった。
もう、9時の飛行機にも間に合わない。「コールドフットへ帰ろう」と、ブレットは言った。朝、9時半からずーっと車に座りっぱなし。食事も飲み物もなし。に加えて、精神的な緊張もあって、みんなの精神状態も多分限界に来ていたのではないだろうか。「帰れない」とわかったら、正直ホッとしたというか、あきらめがついたような感じである。
もう、じたばたしてもなるようにしかならないのだから・・・。

来た道をUターンして、コールドフットに向かう。
途中、Arctic Circleでトイレ休憩。

ちょうど陽が落ち始めた頃で、とてもきれいな夕焼けを見ることができた。みんなも、気持ちが切り替わっているのか「今夜はオーロラが見れそうね」「もう一日、ここにいることができるのも、ラッキーかもしれないわね」
そう、帰れなくなったのは大変だけど、逆に考えれば、ラッキーなのかもしれないね。
ブレットから飛行機について回答が来た。大韓航空の次のフライトは2日後。この飛行機の座席を確保してもらえた。やっぱり他社の便には振り替えてもらうことができないということだ。
ということは、帰国が2日遅れるということだけど、これは仕方ない。

20:00 Arctic Circleを出て少ししたところで、車が止まった。
コールドフットのロッジのスタッフが食べ物を持ってきてくれたのだ。
ローストビーフのサンドイッチと、暖かいコーヒー、冷たいソフトドリンク、チップス類。
相変わらずのアメリカンな食事だけど、本当においしかった。そりゃそうだ。朝ごはんを食べて以来の食べ物なんだもの。

ロッジについたのは21:00を回った頃。長い長いドライブだったなぁ。
さすがに、今日はワイズマンへのツアーはなし。ブレットも一日大変だったので、さぞかしお疲れのことだろう。

しかし、私たちにはまだやらなければならないことがあった。アンカレッジで予想外の1泊をしなければならないので、その手配である。
冬のアラスカは、ハイシーズンではないので部屋が取れないということはないだろうけど、やっぱり予約をしていたほうが安心だし。
アラスカに来るといつもヒルトンに泊まっていたので、ヒルトンホテルの予約を取ろうと思ったが、電話番号がわからない。仕方ないので、今回利用したフェアバンクスの旅行会社に電話をして、ホテルの予約をお願いした。
ちなみに、本日のコールドフットの宿泊代&食事代は無償で提供してもらうことができた。


あとは、最後にオーロラが出てくれればいいのだけど・・・。
そう思って支度をするけど、またまた空には厚い雲が広がってきていた。雪も風もないけど、灰色の厚い雲が空を覆ってしまっている。
お願い・・・みんな祈るような気持ちで空を見上げていた。
気温はもちろん氷点下で寒いのだけど、オーロラが見たいという一念で、外で待ち続けた。

雲の切れ間に現れたオーロラ
すると、そんな願いが通じたのか2時頃に、雲が切れ、オーロラが現れた。
雲の切れ間からだから、写真的にも絵にならないし、パワーも弱く、決していいオーロラとはいえないけど、それでもその姿を見れてとてもとても嬉しかった。

そのオーロラが消えた後、「少し部屋で暖まってくるね」と部屋に戻った私。それからの記憶は全くなかった。
あまりに私が戻ってこないので、心配になって部屋に様子を見に来たダンナがいうには、布団のように重い防寒具も、足が疲れてしまうほどの重い防寒靴も脱ぐことなく、私はベッドの上で行き倒れていたそうだ。
昼間の緊張と、夜の寒さでかなり疲れてしまったようだ。

ひとくちメモ
冬のアラスカの天候はとても不安定です。コールドフット発の小型飛行機は、遅れやキャンセルがでることも多いようです。
もし、同日にフェアバンクスで乗り換えて、他の目的地に向かう場合は、余裕を持ってチケットを取ることをお薦めします。できることなら、フェアバンクスで1泊するように日程に余裕を持たせたほうが懸命だと思います。コールドフットはまだ陸路がありますが、ベテルスなど飛行機でしかアクセスできない場所はなおさらです。
ツアーでいく場合はいいですが、個人旅行の場合は航空会社の連絡先も、忘れずに控えていきましょう。また、旅行会社を通して手配する場合は、会社だけでなく、担当者の自宅や携帯の番号も聞いておくと、夜や休日などは安心です。

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