初めて八重山諸島に行ったときのことである。北海道で生まれ育った私にとっては、沖縄は、夢惑う未知の島々であった。初めて見る昆虫たちに胸膨らませて強い日射しの中を歩き回ったものである。まだ慣れない亜熱帯の旅は、旅の仕方、歩き方を一つずつ身をもって覚えるものだった。

　そして八重山では、大きな楽しみがあった。それは、海外の国から風に乗ってやってくると云われている迷チョウとの出会いもその一つである。亜熱帯のチョウ、それも海外から訪れる日本のチョウとはひと味違うチョウたちに出会えることを楽しみにしていた。

　イリオモテヤマネコの棲む西表島の大原部落に宿を取り、昆虫採集に向かう。大富部落でジュースを飲んで畑の間の農道を通り、大富林道へと入ってゆく。大富部落から仲間川展望台へと続く大富林道は、様々な昆虫たちに出会える素敵な林道であった。道を半ば歩き、また薄暗い林内の道に入ろうとしたとき、黒い陰が背後から追い越してゆく。ふと上を見上げると大きなチョウが通り過ぎようとしていた。思わず網を振ると手応えがあった。網の外から見ると、初めてみた迷チョウのリュウキュウムラサキである。“すごい！”フィリピン亜種の大きな雌であった。

　リュウキュウムラサキは、毎回八重山諸島を訪れる度に掴まえるごく普通の迷チョウである。もしかするとリュウキュウムラサキは八重山諸島に、棲み付いているようにも思えた。

　今まで採集したリュウキュウムラサキは、次の通りです。ただし、雄の亜種名は、少し怪しいですが。