第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(9)
森を抜けると俺たちの目の前に広い草原が見えた。
「カイト! あそこに城がある」
レイラがそう言って指差した方を見ると、確かに遠くに城影が見えた。
あそこに行けば、ここがどこなのかわかるだろう。
それにバラモスの情報が手に入るかもしれない。
「とにかく行ってみましょう」
ユズハに促され、俺たちは城の方へと歩いていった。
森を抜けたときは夕方だったが、城のそばに来たときは夜になっていた。
途中ポイズントードと出くわして戦ったりしたが、なんとかここまでやってきた。
さすがにこのあたりの魔物は手ごわい。それにしても虫は苦手でも蛙は平気なんだな。
「カイト、遅れているわよ」
そんなことを考えていたら歩くのが遅れたらしく、ミリアに怒られてしまった。
「ああ、すまない」
俺はそう言って遅れを取り戻そうと早足で歩いた。
「!?」
だが俺はすぐに足を止め辺りを見回す。何か変な気配を感じたからだ。
「どうし……」
レイラが異変を感じ戦闘体勢に入る。
他の二人も同じように緊張した面持ちで周囲を警戒する。
「ケケケケケッ!!」
突如空から奇妙な笑い声が聞こえてきた。
「ニンゲン…ヒサシブリ…エサニ……」
クッ、エサになんかされてたまるか。
「あれはこうもり男! マホトーンを使って呪文を封じ込めてくるぞ!」
レイラがそう言って二匹のうちの一匹に突進していく。
呪文を唱える暇が無ければ、封じ込められることも無い。
俺も同じようにこうもり男へ向かっていった。剣を抜きざまに斬り付ける。
だがこうもり男は飛膜の翼を羽ばたかせて華麗に避けて行く。
続けざまに剣を斬り付けるが空を飛ぶ相手に上手くいくわけも無く、簡単に避けられてしまう。
「クソッ! どうすれば……」
魔法で何とかしようにも、俺のレベルでは簡単に避けられてしまう。どうしたら……。
「はあああっ!」
突然ミリアが駆け出し、俺の方に向かってくる。
そのまま俺の背を踏み台にすると、一気に高くジャンプした。
「やああぁぁっ!!」
フェイントを入れてから一閃するとこうもり男の羽が片方切り裂かれ、そのままこうもり男は落下して行った。
「空中戦はフェイントを入れないと、こちらが不利。さそりばちとの戦いで学ばなかったの?」
確かに言われてみればそうだ。こいつは盲点だったぜ。
って、感心してる場合じゃない。もう一匹の翼を切り裂かないて地面に落としてやらないと。
レイラが相手にしているこうもり男の後ろに回り込んで不意を突く。
フェイントではないが、相手の死角を突いて攻撃すれば避けられないだろう。
レイラを攻撃しようと空中で停止した瞬間を狙って、ジャンプして斬りつけた。
さすがにこれは避けきれず、俺の剣はこうもり男の翼を切り落とした。
地上に来れば倒せない相手ではない。気がつけば魔法を封じられることも無く、こうもり男を撃退した。
「空中をテリトリーにする魔物の対策を考えないといけませんね」
ユズハがそう言ってみんなの傷を癒していく。
「とにかくもうすぐだ。急いで城に行って宿を取ろう」
俺はそう言うと再び城へ向かって歩き出した。
他のみんなもまた襲われると厄介だと、休むまもなく歩き出した。
「はあ…厄介なことを頼まれたわね」
ミリアが溜息をつきながら呟いた。
「でもおかげで正体がばれなくてすんだけどな」
「確かにそうだけど……」
ミリアはロマリア国王に正体がばれ、アリアハンに報告されるのを恐れ正体を隠していたのだ。
「厚化粧して変装までしたのに…だははは」
「うるさいっ!」
「いくら顔を知られてるからって、あんな…あんな…だはははは。ピエロはねぇよな。まさに遊び人だぜ」
「カイトぶっ殺すっ!」
ミリアが剣を抜いて俺に斬りかかってくる。俺はそれを難なく交わすとその場から離れる。
いくら兵士に習っていたとはいえ、子供の頃からの付き合い。クセとかでミリアの動きは読める。
でも殴られるときは動きが読めないんだよな、なぜか。
それでも最近は危ないときもある。
どうやら魔物との戦いで剣技が成長しているようだ。
なんて感心している場合じゃない。
「街の中では止めた方がよろしいかと思いますが。レイラ、止めてください」
「痴話喧嘩はほっとけばいいって。それよりロマリア国王の頼み事の方が大事だ」
「そうね」
『良くぞ来た。勇者オルテガの話は聞き及んでおる。
そなたに頼みたいことがある。
カンダタという者がこの白から金の冠を奪って逃げてしまったのだ。
わが国の兵士では歯が立たぬ。良いな、頼んだぞ』
「まったく、一方的に押し付けやがって」
「なんだ、もう痴話喧嘩はいいのか?」
「「痴話げんかじゃない!」」
「それはどうでもいいとして……」
「どうでもいいわけ……」
文句を言うミリアを無視してレイラは話を続ける。
俺も今のは聞き捨てならないんだが、文句を言っても無視されそうだな。
だいたい、ミリアはタイプじゃないんだよな、姫らしくないし。
どうせならドラゴンに捕らわれているお姫様を助けるなんて感じのほうがいいよな。
「まずは、情報収集が先だと思うんだが、カイトはどう思う?」
おっと、話を聞いておかないと。
確かにレイラの言うとおり、カンダタの居場所がわからないと金の冠を取り返しに行けない。
「保存食とか残り少なくなりましたので補充した方がよろしいかと思うのですが」
とはユズハ。一理あるな。
「カンダタは強いみたいだから、装備を整えなおすべきよ」
ミリアはそう言って武器屋を指差す。武器ねぇ…金はそんなに……って、
「あっ!」
「なに、突然大声出して!」
「所持金、少ないんじゃないのか?」
俺の言葉に慌てて皮袋を確認するミリアたち。
収入は宝箱で見つけた分とモンスターが落とす分だけだったはず。
それもたいした金額ではなかったはずだ。
「これだけしかない」
みんなが合わせたゴールドはやはりたいした金額ではなかった。
「情報収集より何より、まずは生活費を稼がないといけないな」
「私の身に着けているものを売れば何とかなるけど、それでもその場しのぎにしかならないわよ」
「王様から貰った分も底をつきかけているからな。金の冠を取り返したら報酬を貰わないとな」
それでも、それまでの生活費は必要になるな。
「まずは情報収集したほうが良いかと思います。
場所を知らないとどれくらい掛かるのかわかりませんから、必要なお金がいくらになるのかもわかりませんよ」
ユズハはそう言って俺たちの顔を見回す。確かにせっかく工面しても足りないじゃ、意味がないからな。
「じゃ、まずは情報収集からはじめるか。ついでに金儲けになりそうな話も探してくるということで」
俺の言葉に三人が頷く。
「じゃ、夕方頃昨日の宿屋の前でってことでいいわよね」
ミリアはそう言うとすぐに駆け出して言った。
レイラもユズハも、それぞれ情報収集へと向かった。
さて、俺はどこに行こうかな。
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続く