第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(10)



 しばらく街を歩いていると奇妙な店を見つけた。
 路地から外れた薄暗い場所。人通りも少なくとても繁盛しそうにない。
 何故そんな場所に店が……。
『魔物の死体買います』
 近づくとそんな看板が見えた。どういうことだ?
「お客かい?」
 突然声をかけられて俺は後ろを振り向く。そこには男とも女とも区別のつかない老人が立っていた。
 先ほどの声もしわがれていて判別がしにくい。
「ここはどんな店なんだ?」
「ヒッヒッヒ。ここは魔物の死体を買い取り、防具にしている店だよ」
 老人はそう言って口元に笑みを浮かべる。だが目は笑っていない。
 俺を値踏みしているようだった。
「例えば買い取ったドラゴンの死体の一部を盾や鎧に加工しておる」
 まさか魔物の皮で、皮の鎧が出来ているとか?
「毒蛾の粉もモンスターから取っているのじゃよ」
 道具までも。なんか知りたくないことを知った気がする。
 でも、アリアハンにそんな店はなかった気がするが……。
「うちは買い取るだけで加工は別の場所でしておるよ。各町や村にひっそりとあるのじゃ」
 俺の考えを見透かしたように老人は答えた。
「魔物を買い取っているなんて知ったら気味悪く思う連中もいるからの」
 確かに言われてみれば……。
「もし、お主がお金に困ったら売りに来ると良かろう。ただし、会員になってもらうぞ」
「かいいん?」
「秘密保持などの制約を交わしてもらうのじゃよ。契約する代わりに証書を渡し、どの町でも売ることが出来る」
「だから会員というわけか。会員でなければ買い取らないと」
「そういうことじゃ。よければこれにサインを書いていかぬか?」
 う〜ん……旅を続ければ金は必要になる。そのために会員になるべきだと思うが。
「魔物の一部で良いのか? 全部でなく」
「ドラゴンのような大きなものを街の中に運べんじゃろ?」
「これは犯罪ではないよな?」
「一応国には話を通して許可も貰っておる」
 ………そういうことなら、会員になるか。怪しくはあるが。
「契約内容を確認させてもらう。それと買い取り価格などを記したものはあるのか?」
「基準となるものならの。ただし痛み具合によっては値引きさせてもらう」
 ま、そりゃそうだ。
「仲間にも話してはまずいのか? 仲間も全員契約しないとまずいとか?」
「お主が代表で契約すればかまわぬぞ。ただし、会員証がなければ取り引きはしない」
 つまり、この会員証があれば俺でなくても誰でも取り引きは出来るわけだ。
 トラブルがあれば責任は俺になると。失くさないように気をつけないとまずいな。
「わかった、契約しよう。契約内容も問題ないようだしな」
 俺は会話しながらも契約に目を通し、サインを終えた。
「では、これが会員証となるコインじゃ。これを見せれば誰でも取り引きは出来る」
 渡されたコインには表に鎧の模様が、裏には魔物らしき模様が刻まれている。
「では、何を持ってくるか楽しみにしておるぞ。それから店の場所を知りたいときはコインに聞くと良い」
 老人はそう言うと店の中に入っていった。
「コインに聞けってどういう意味だ?」
 意味がまったく分からん。が、とりあえず金を作る方法は見つかった。
「さてカンダタに関する情報収集でもするか」
 俺はコインを弾きながら、人通りの多い場所へと向かった。
「あんたよその国の人だね?」
 人通りの多い場所に出ようと歩いていたら突如声をかけられた。
「アリアハンから来たんですが」
「だったら教えておいてやるよ。ここの王様はお調子もんだぜ。気をつけたほうが良いぞ」
「はあ……」
「そういえば、城の牢屋に誰かが捕まっているって話だぜ。カンダタの仲間かもな。行ってみな」
 男はそれだけ言うといなくなってしまった。
 良い情報を聞いたぞ。他の者たちを呼んで行ってみるか。

「本当にこのような所に居るのでしょうか?」
 城の北西にある階段を俺たちは上っている。確かにユズハの言う通りこの先に牢屋があるとは思えない。
 だが城の者に確認したら、ここの階段の先に牢屋があると言われたのだ。それを信じて行くしかない。
「居なかったらカイトをシメるということで」
「なんでだよ」
 ミリアはいつも一言多い。ったく、ケンカ売ってるのか?
「着いたみたいね」
 レイラがそう言って指差した先には、確かに牢屋と見られる鉄格子があった。
 近付いてみると、中で髪もヒゲも伸び放題のみすぼらしい男がうろうろしていた。
「あの……」
 ユズハが声をかけると、男は睨むようにこちらを見て格子に手をかけた。
「うるせえな! 俺はカンダタの仲間じゃねぇって何度言ったらわかるんだ!」
 男は噛み付かんばかりに、怒鳴り散らした。だが、次の瞬間、
「あれ、おめえら誰だ?」
 拍子抜けするような驚きの声を上げる。忙しいヤツだ。
「俺たちは旅の者だ」
「俺はてっきり、ここの城の兵士がまた聞きに来たと思ってな。まあ、いいや。気にするな」
 一方的に怒鳴っておいて気にするなとは……。まあいい、聞きたいことを聞いてしまおう。
「カンダタってヤツは、俺よりもっと悪人なんだぜ。
 シャンパーニって塔に子分を集めて住んでるって話だ。
 見たところ相当の手練れのようだが、自身があるなら行ってみるといい」
 聞きもしないのに、自分からカンダタの情報を話してくれた。
「この方の言っていることは、本当なのでしょうか?」
 ユズハが耳打ちをしてくる。確かにガセネタかもしれないが……。
 行ってみる価値はあるかもしれない。それに塔なら旅に役立つ宝があるかもしれない。
「行ってみる価値はあるだろう。カンダタが居なくてもバラモス討伐に役立つ宝があるかもしれない」
「確かに……旅費の足しになるのがあるかもしれないわね」
 俺の言葉にミリアが同意する。レイラも問題ないようだ。
「おめえら、バラモスを倒しに行くのか?
 おもしれぇ、気に入ったぜ。下に居る吟遊詩人に話を聞きな。
 シャンパーニの場所を教えてくれるはずだ」
 男はニヤリと笑って俺を見る。歯が欠けて耳もつぶれ、獰猛な目を光らせて笑う男。
 悪人ではあるが根は良いヤツなのかもしれない。情報も信頼できるだろう。
 俺たちは礼を言うと、下の階へと向かった。



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