第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(11)



 下の階には男が言う通り、吟遊試人の姿があった。
 吟遊詩人に話しかけるとカザーブの村のはるか西にシャンパーニの塔があると教えてくれた。
 そしてカザーブの村が北にあることを聞き、俺たちは村を目指して出発した。
 ……だが。
「なんだ、この森は! 魔物だらけじゃないか!」
 俺たちは北に抜ける森に入って何度目かの魔物に遭遇する。
 アルミラージに魔法使い、キャタピーにポイズントードなどなど……。
 休む暇もなしといった感じだ。
「わわっ、今度はアニマルゾンビ! こんな気持ち悪いのカイトに任せる!」
「俺一人で四匹も倒せるわけ無いだろ!」
「こっちは引き受ける!」
「ミリアは下がってください。迷える魂に静なる安らぎを!」
 ユズハは神に祈りを捧げながら、アニマルゾンビに鋭い一撃を与える。
 レイラも一匹を相手に互角の戦いをしている。
「アオーン!」
 俺のところには二匹のアニマルゾンビが襲ってきた。
 一匹の攻撃を交わしてもう一匹に攻撃を与える。だがそれはあっさり交わされ、二匹が連携して襲い掛かってくる。
「腐った脳で連携してくるとは……」
 俺はうまく避けながら反撃のチャンスを窺う。そのとき、一匹の足が止まりチャンスが訪れた。
「おおおぉぉぉっ!!」
 気合一閃とばかりに襲い掛かったが、それは巧妙な罠だった。
「ボミオス!」
 まさかアニマルゾンビが魔法を仕掛けてくるとは……。
 魔法がかかった俺は、身体が重く感じきが鈍くなってしまった。
「大丈夫ですよ。今魔法をかけます」
 そう言ってユズハは呪文を唱え始める。
「ピオリム!」
 ユズハのかけた魔法は素早さを上げる魔法だったようだ。
 鈍くなった動きは元に戻り、体が軽く感じられる。
 そこにすかさずアニマルゾンビが襲い掛かる。
 素早さが元に戻ったおかげで、その攻撃を難なくかわして逆に攻撃を仕掛ける。
 まさか素早さが元に戻ると思わなかったのだろう。
 俺の一撃をかわすことが出来ず、首と胴が離れ離れになった。
「ユズハ、危ない!」
 魔法を唱えていたので無防備になっていたユズハに向かって、アニマルゾンビが攻撃を加える。
 それを辛うじてミリアが間に割って入り、アニマルゾンビの攻撃を受け止めた。
「こんな気持ち悪い相手に、なに手間取っているのよ!」
「すまない、もう一匹を倒したら駆けつけるから頑張ってくれ」
 俺は残った一匹を倒すために剣を振るう。
 一対一なら負けるつもりはない。相手の動きを見切って入れた一撃は、アニマルゾンビの胴を真っ二つにした。
 二匹目を倒した頃、レイラもアニマルゾンビを倒していた。
 俺はそのままミリアの元へと駆けつけミリアに目配せをすると、囮となって残った一匹に襲い掛かった。
 ミリアとは小さい頃、一緒に剣の修行を受けていた。連係技も何度もやったことがある。
 そんな俺たちにかかれば、アニマルゾンビの一匹くらい簡単に倒せる。
 俺たちの連係技で、アニマルゾンビはミリアにあっさりと倒されたのだった。
「いま回復いたします」
 ユズハがそう言ってホイミをかけてくれる。傷ついた場所が癒され回復していく。
 俺の治療が終わるとレイラにもホイミをかけ始める。
「まさか魔法を使うとは……油断したな」
「でも、ユズハのピオリムのおかげで助かった」
「この辺りの魔物の情報を仕入れなかったのがまずかった」
「私も気持ち悪がらずに早めに戦うべきだった。旅に出たときからこういう敵がいるのもわかっていたはずなのに」
「だが、俺たちの戦い方が見えてきた。俺にミリアにレイラが前衛になり、ユズハが後衛で俺たちの補助をする。
 直接攻撃は三人で行い、魔法支援を後方でしてもらえば苦戦することはほとんどないと思う」
 俺はそう言って地面に陣形を描く。バラバラで戦うより効率がいいはずだ。
「確かに、回復できるユズハが武器を振るっていては回復することが出来ない」
「そうね。せっかく四人でいるのだから、力を合わせないと」
 レイラの言葉にミリアも納得して頷く。
「とにかく今はゆっくり休もう。連戦続きで疲労がたまっている。これからの戦いに支障が出るからな」
 俺の言葉にみんな頷き、アニマルゾンビの死体が見えなくなる場所まで移動し休憩をとることにした。
 休憩の間、俺はこれからのことを考えていた。
 三人での連携技を考えること、そして自分自身を鍛え上げること。
 今のままではバラモスを倒すことは出来ないのだから。

 森を抜けるとそこは山岳地帯だった。
 森を抜けるまで頻繁に魔物と遭遇し、その都度戦いあるいは逃げて来た。
 あと少し森を抜けるのが遅かったら、俺たちは全滅していたかもしれない。
 とにかく早くベッドで眠りたいと言うことでカザーブへ向かった。とはいえ疲労が激しいのでこまめに休憩を取りながら先を進んでいく。
 森の中とは違いこのあたりはあまり魔物の姿が見えなかった。おかげでなんとかカザーブの近くまで来ることが出来た。
「あれがそうなのでしょうか?」
 村が見えたところで、ユズハがそう言ってほっと一息ついた。
「村に着くまで油断するな、ユズハ。油断していたら魔物に襲われたとき命を落とす」
「後一歩と言うところで全滅なんていやだからね」
「気を引き締めなおして進むことにしましょう」
「褌を締めなおして進むってやつだな」
「カイト、下品っ!」
「もう少し考えて話せ」
「………」
 ちょっとしたジョークなのに……一斉に攻めなくてもいいじゃないか。
 疲れを取ろうとウケを狙っただけなのに。
「カイトのせいで余計疲れちゃったじゃない」
 ミリアがそう言って俺の頭をはたく。
「こんな馬鹿は放っておいてさっさといきましょ」
 ミリアがそう言って先頭に立って歩き出した。二人も後について歩き出す。
「俺のウェットにとんだギャグを理解できないなんて……」
 そんな俺の言葉は前を歩く三人には聞こえていなかった。
「ウエット? ウィットじゃなくて? じっとりしたギャグだからウェットなのよ」
 なんて一人ツッコミをしても虚しいだけ。
 俺はトボトボと後を追いかけた。



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