第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(14)



 洞窟の中は今までの魔物よりかなり強く、苦戦の連続だった。
 途中、旅の神官と出会った。
 神官はこの洞窟のどこかに体力や気力を回復してくれる聖なる泉があると言っていた。
 どうしてこんな所にそんな泉が湧いたのか謎だと言っていた。
 その謎を調べに来ていたようだが、最後の言葉が気になった。
「私には悲しげな呼び声が聞こえます」
 それを聞いたユズハが、
「まさか……。いいえ、まだそうと決まったわけではありません」
 と呟いていた。その言葉に俺もピンとくるものがあった。
 その後下へ上へと移動しながら、先を進んで行く。
 その先で柱に囲まれた光る泉を見つけた。たぶん、あそこが聖なる泉なのだろう。
「あそこで休憩しよう」
 俺はそう言うと泉を目指して歩き出した。

「つ、疲れた」
 聖なる泉の力で体力や傷、精神力が回復した。
 聖なる泉の力によるものなのか、泉の傍には魔物たちが近づいていくることは無かった。
「さすがに疲労は回復しないな」
「体力が回復しただけでも良しとしよう」
 俺の言葉にレイラがそう答える。確かにここまで回復したのは良かった。
 この先に進むのがきつくなってきたところだから、この泉があるのは渡りに船だ。
「これからどうするんだ?」
 水袋を取り出して喉を潤すレイラ。隣ではミリアが携帯食を取り出して食べている。
「そうだな……」
 腹が減っていたことを思い出した俺は、果物を取り出して口に入れた。
 疲れた体に糖分が染み渡るようで、疲労が回復した気がする。
「今の私たちではこの先に進むのは厳しいです」
 ユズハは同じように果物を取り出していたが、丸かじりの俺とは違い丁寧に切って食べやすい大きさにしていた。
「何とかなる……ってレベルじゃないわ」
 ミリアがそう言って俺の方を見るが、そんなことは言われなくとも分かっている。
 今の俺たちのレベルでは、この先に進むのは難しいだろう。
「ここで苦戦するようなら、カンダタには敵わない。
 回復する場所もあることだし、しばらく泉の周りで個々のレベルを上げるしかない」
「あたしは構わないぜ。ここで戦うのは修行になるしな」
「私も問題ありません。慢心して先に進んで全滅というわけには行きません」
「ミリアは?」
「異議なし。だけど、こんなに魔物が強いところに本当にいるのかしらね」
 ミリアはそう疑問を投げかける。
 確かに一理ある。俺たちでも苦戦するのに一般人がこの先に勧めるとは思えない。
「確かにそうですが、エルフの女性がいるのです。
 私たちの知らない魔物を寄せ付けないエルフの道具を持っているのかもしれません」
 ユズハはそう言って俺たちの顔を見る。
 確かにエルフについては、ほとんど知らないと言っていい。
 だから俺たちの知らない道具を持っていても不思議ではないかもしれない。
「なんにしても先に進んでみればわかるさ」
 レイラがそう言って話を纏める。
「とにかく今は体をしっかり休めよう」
 俺の言葉に全員が頷いた。
「それにしても、なぜこの洞窟に来たのでしょう」
 ユズハはそう言って首を傾げる。
 確かに駆け落ちなら洞窟に来るより他の町に行った方が良い。
「心中でしょう」
 ミリアが自信を持ってそう答える。
「現世ではエルフと人間は一緒になることは出来ない。
 それならばあの世で一緒になればいい。
 そんな風に考えたとしてもおかしくないわ」
「まさかそんなこと……」
 否定しようとするがミリアの言葉に納得できる部分もあるようで、ユズハはそのまま言葉を続けられないでいた。
「そうでなければ、こんな洞窟に逃げ込むようなことはしない」
「確かにそれはありえる」
 ミリアの言葉にレイラは素直に納得する。
「人間でいえば、姫様と一市民が恋をするようなもの。
 叶わぬ夢をあの世で叶えようと思ってしまっても仕方がない。
 もっともあたしなら、そんなことはしないね」
「それが本当なら、この恋はとても悲しい恋ですね」
 ユズハはそう言って祈りを捧げる。
「でも、まだ確認したわけではないわ。奥に進んで確認するしかない」
 ミリアの言葉にみんなが頷く。
「とにかく、今は自分たちのレベルを上げることに専念しよう。
 パーティーの連携を深め、俺たちの戦い方を考えた方が良い。
 前衛と後衛の連携が今後の鍵になると思う」
 俺はそう言って、話を打ち切った。
 俺は話には加わらず、ずっと考えていた。俺たちに足りないものを。
 もちろん個々の技術が足りていないのは事実である。
 だがそれだけではなく、魔法使いがいない俺たちなりの戦い方を身に付けなければならない。
 そしてそれには連携が必要になってくる。
 ここの洞窟の俺たちにとってうってつけの場所だ。
「戦いを始める前に俺たちの戦い方を考えよう」
 俺たちは前衛三人に後衛一人の戦闘に特化したパーティーだ。
 しかも後衛は回復専門の僧侶である。
「ここまで来る間に俺は二フラムを覚えた。
 できればメラ以外の攻撃系の魔法を覚えたいが……」
「あたしは、戦士だからな。
 魔法は覚えないから、勇者のカイトが羨ましい」
「私はルカニまで覚えました。
 出発の時に司祭さまに頂いた聖書に、僧侶が覚える魔法が記載されています。
 それによれば、敵を眠らせるラリホーが使えるようになるとか。
 敵を眠らせられるようになれば、戦いが楽になりますね」
「せめてそこまでは覚えたいな」
 ユズハの言葉に俺はそう答えた。
「私はお城で習った剣術に磨きをかけるわ。
 私の持っている剣は特別性で、軽くて扱いやすいのよ。
 その代り強度は、通常の剣よりも劣るんだけどね」
「それなら素早さに特化した戦い方を身に付ければいい。
 相手より早く動き、先制の攻撃をする。
 敵の出鼻をくじいて、こちらが有利に運べるようにする」
「確かに、相手より先に動いて相手の戦力が削れれば、こちらが有利になりますね」
「うんうん、私向きね」
「動きが早いから相手をかく乱できるし、牽制が出来る」
「ますます私向きの戦い方」
「注意しなくちゃいけないのは、ミリアの剣では防御力の高い敵には致命傷を与えにくいこと。
 だからこそ、敵を翻弄して戦う」
 確かにその戦い方の方がミリアにあっているかも。
 さすが戦士だけあってレイラはいろんな戦い方を知っている。
「私の場合は、重装備で盾になるのが基本になるかもな。そして一撃必殺を」
 指二本を剣に見立てて振り下ろすレイラ。
 確かに戦士の戦い方は、防御力と攻撃力を駆使した戦いになるだろう。
 そのために金がかかっていると言っても過言ではないと、知り合いの戦士も言っていた。
「ミリアと組めば、ミリアが惑わし私が一撃必殺を決める。
 そんな戦い方ができるな」
「重装備で動きの鈍い戦士と、軽装備の戦士のコンビという感じですね。
 そこに私の回復が加われば、ほぼ無敵です」
「ちょ、俺は?」
「カイトはいらないんじゃない? 三人で十分よ」
 ひどっ!
「カイトは魔法も使えるからね。
 前衛というか中衛で戦う感じになるな。
 あたしたちと肩を並べつつ、ホイミが使えるようになったからユズハの補佐もして欲しい。
 回復が二人いるのは心強いからな」
「ああ」
「本当は魔法使いが居ればスクルトとか補助魔法で防御力を上げたりできるのだが、居ないものは仕方がない。
 あたしたちでやるしかない」
「とにかくこれで俺たちの戦い方が見えてきた。あとは連携を深めて、個々のレベルを上げていこう」
「でしたら私は先ほど言ったようにラリホーを覚えられるようにしたいと思います」
「私は素早く相手を攻撃できるようにするわ」
「あたしは一撃必殺の技を身につけることにする。
 父さんが身につけたというここぞと言うときに使う渾身の一撃の技。
 きっと自分のものにしてみせる」
 父さんの技か……そういえば、母さんが出発の時に渡された本があったな。
 父さんが書いたと言う剣術書が。
 すっかり忘れていたけど、見てみるか。
「こ、これは……!?」



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