1章(2)
放課後、俺は奈緒と綾を迎えに高等部へと向かった。
高等部も今日は午前授業で終りなので、下校する生徒が多く綾を見つけるのが難しく思われた。
だが、集団が過ぎ去ると同時に俺は誰かに腕を掴まれた。
「綾、いつの間に来たんだ?」
「さっきから居たわよ。あんた鈍いんじゃない?」
「へ?」
俺は思わず間抜けな声をあげてしまう。
さっきから居た? 今の集団の中に綾の姿は見なかったぞ。
「さっきの集団が来る前に、ここに来たわよ」
うぞ……まぢで?
『お兄ちゃんのことだから、かわいい女の子に見惚れてたんじゃないの』
「ありえるわね」
そう言って二人は、軽蔑したような眼差しで俺を見る。
「そんなわけないだろ」
「どうだか」
奈緒の言葉に頷く綾。
「綾、お兄ちゃんのこの澄んだ瞳を見てくれ。俺が嘘をついているように見えるか?」
「濁っていて、嘘をついているように見える」
奈緒がボソッと呟く。
「奈緒には聞いていない!」
『嘘ついているように見えるよ』
「あ、綾までそんなこと言うのかあ?」
『冗談よ、お兄ちゃん』
綾はそう言ってくすくすと笑う。
その横で奈緒がぶつぶつと何かを言っている。
俺はそれをあえて無視することにした。
「じゃ、さっさと行くとするか」
『うん』
「たくさん買うぞぉ」
綾が可愛く頷き、奈緒がやたら気合を入れる。
「おまえのための買い物じゃないぞ」
俺はとりあえず釘を刺しておく。奈緒は意に介していないだろうが。
「いいじゃないねぇ、綾ちゃん」
案の定、気にとめた様子はなく綾に同意を求めている。
「俺は綾の分の荷物しか持たないからな」
「なにそれ。差別はんた〜い!」
「公然と差別する」
「ぶぅぶぅ」
ぶうたれている奈緒を放っておいて、さっさと歩き出す。
歩き出した俺を見て綾が遅れないようにと歩き出した。
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
奈緒がそう怒鳴りながら、慌てて追いかけてきた。
「早くしないと、店が閉まるところもあるんだろ」
「そうだけど・・・・・・」
「じゃ、文句いうなよ」
俺はそれだけ言うとさっさと歩き出した。
笑いを堪えながら綾も続いて歩き出す。
「もう!」
奈緒はまだ不服そうだが、そのまま後を追いかけてくる。
俺は奈緒の足音を聞きながら振り向かずに、駅前へと向かった。
目次
戻る
続く