1章(3)



 女の買い物は長い。
 俺は入り口付近でイライラしながら待っていた。
「お客様、何かお探しですか」
 入り口付近でうろうろしていたので店員が声をかけてきたらしい。
「いや、あそこのつれを待ってるんだけど」
「そうですか、でしたらこんなのはどうですか。こういうのが似合うと思いますよ」
 店員はそう言って俺の指差した方を見ながら、一着の服を俺に見せる。
「サイズもこれくらいでいいと思いますし、彼女にピッタリです」
 そういうと店員は綾のほうに向かっていく。
「へ?」
 思わず声を出してしまう俺。どうやら店員は綾を俺の彼女だと思っているらしい。
「いや、彼女は恋人じゃなくて妹で」
「あ、そうなんですか。失礼しました。可愛い妹さんですね」
 そう言って優しく微笑む。この店員、笑うと意外と可愛いかも。
「どうですか? たまには妹さんにプレゼントされては」
「そうだなぁ……」
 たまには良いかもしれないが、持ち合わせあったかな。
 あ、でももうすぐ雅の誕生日だし、プレゼントを買ってやらないといけないからな。
「お安くしますよ」
 そうだな、雅の誕生日は給料日後だからな。今回バイト代多そうだし、いいか。
「あや〜」
 俺は服を選んでいる綾に声をかけた。
 綾はすぐさま俺のところにやってきた。
「この服どう思う?」
 突然聞かれて首をかしげて戸惑う綾。
「似合いそうだから買ってやろうと思うんだけど」
 そういうと驚いた顔をして服と俺の顔を見比べる。
「いやなら、別にいいんだけど」
 綾は首を振って服を手に取り、自分に合わせて似合うかどうか聞いてくる。
「うん、いいんじゃないか」
 隣にいた店員も俺の返答に頷く。
「気に入ったんなら買ってやるぞ。サイズも問題ないな」
 嬉しそうに首を縦に振ると、店員に服を渡した。
「じゃ、お願いします」
 俺はそう言って店員とレジに向かった。

 店を出ると、綾は嬉しそうに俺が買ってやった服を抱えている。
「ずるいなぁ綾ちゃん。良平、私にも買ってよ」
「なんで俺がお前に買ってやらなければならないんだ」
「幼馴染みじゃん」
「答えになってねぇ」
「十分答えになってるよ」
「お前に買ってやるものなぞない。
 もうすぐ雅の誕生日だしな。そっちに金をまわす」
「ケチッ」
「ケチでけっこう。彼氏にでも買って貰え。
 ま、い・れ・ばの話だけどな」
「むぅ」
『まあ、まあ、二人とも…』
 俺と奈緒のやり取りを止めに入る綾。小さい頃からの変わらないやり取りだ。
『ねぇ、どこかで休まない?』
「そうだな。喫茶店で一息入れるか」
「良平のおごりでね」
「おごらん!」
 そう言いながらも、おごらされることになるだろうなという気がする。
『じゃ、あそこにしよう』
 綾が指差したのはいつもの店「憩い」だった。




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