落ちると怖い怪談話(1)
「ねえ、聞いた?
旧校舎の焼却炉のそばにある階段の話」
「聞いた聞いた。13階段の話でしょ?」
「あれ、本当らしいよ。部活の先輩が試したんだって。
下から数えると13段あるのに上からだと12段だったって」
「えー、私が聞いたのとは違うな。
上ろうとすると永遠と上り続けるって話だよ」
「ええ……」
とある街にあるとある学園。
その学園にある奇妙な部活、オカルト研究部。
別名オカルトG。オカルトジーメン、オカルトガーディアンの略とも言われている。
学校や街で起こる怪奇現象を研究しているというなんとも奇特な人たちの部活だ。
そんな怪しげな部活に入部することになった男の子。
名前を秋田零(あきたれい)という。
背が低く女の子のような顔立ちに体つき。
声変わりしたの?と聞きたくなる可愛らしい声。
他の女生徒のようにブレザーを着ていたら、間違いなく女の子に見えるだろう。
そんな零にも奇妙なところがある。
『霊媒体質』
なぜか子供の頃から霊に好かれ、霊に取り憑かれることもしばしば。
たいていが女性、しかも年上って言うんだから羨ましいと思うものもいるかもしれない。
しかし当の本人にとっては、迷惑以外のなにものでもない。
こんな体質早く治れば良いと思っている。
それはさておき、今は逃げることに頭がいっぱいの零。
無理やり入れられたオカルト研究部からどうやって逃げるかしか頭に無い。
音楽室での事件から一週間。
毎日捕まっては研究と称して、降霊させられては除霊されることの繰り返し。
今度こそは……。
タッタッタッタッタ……
廊下を勢い良く駆ける零。
ホームルームが終わるとすぐに教室を抜け出し、昇降口へ急ぐ。
最近良く見かける光景。
逃げないと何をされるかわからない。
廊下を抜け、階段を降り、もう少しで昇降口というところで、体が急にいうことを利かなくなる。
「私から逃げることはできませんからね」
にっこりと微笑みながら零に近づくかすみ。
「いやですよ。今日こそ帰るんですっ!」
走る格好で止まったままの零がそう答える。
「ダメですよ。下僕は主人のそばにいないと。それに副部長としても部に出てもらわないと」
「その下僕って言うのはなんですかっ! 僕はそんなの認めてません!」
「あら? ここに契約書がありますよ」
そう言って零に契約書を見せる。
「契約書って、そこの変な人形で僕を操って書かせたんじゃないですか」
零が言う人形とはかすみの右手にある人形のことで、どことなく零に似てなくもない。
「今もそうやって僕を操ってるし……」
そう、走る格好で動けないでいるのはかすみの操る人形のせい。
ある理由から身に付けた魔術を使った傀儡。
それを零に使用しているというのだ。
ちなみに操ってサインをしたのは入部届け。下僕の契約は自分の意思、半分自棄だけど。
「ま、そんな些細なことは気にせず部室に行きましょう」
「些細なことって……い、いや〜っ」
どこにそんな力があるのか。かすみはいとも簡単に零を抱き上げると部室へと向かった。
「部長、零君を連れてきました」
「遅いわよ、ゼロ。授業が終わったらさっさと来なさいっ」
「部長、僕の名前はゼロじゃないです。れ・いです」
「そんなことはどうでも良い、授業が終わったらすぐに来なさい!」
「はい」
これまた毎日繰り返される会話。
初めて会ったときから零は巫子からゼロと呼ばれている。
そしてその都度、訂正するが未だにゼロと訂正されない。
「さて、ゼロくん。最近の噂は知っているか?」
「……最近?」
「ていっ!」
「あて」
「部員としての自覚が足らん!
常に噂話には注意し、オカルトに関係のある話を収集しないと」
巫子はそう言って零に説教をする。
「部則、一.噂話には常に注意し、必要ならば取材をするべし。
この前渡した冊子に書いてあります。見ていないのでしょうか?」
かすみが残念そうな口調で、零に訊ねる。もっとも残念そうなのは口調だけで顔はニコニコしているのだが。
「すみません、まだ読みかけです」
「キチンと読んでください」
かすみの言葉に何かを感じたのか、零がコクコクと頷く。
「仕方がない。かすみ、説明しなさい」
「わかりました。実はかくかくしかじか、というわけなんです」
「それじゃあ、わからないです」
「冗談ですよ、冗談。漫画とかだと良くあると思いますけど」
そういいながらかすみが、今噂になっている話を語って聞かせた。
目次
続く