落ちると怖い怪談話(3)



さっそく旧校舎に来てみると噂どおり校舎の横に階段が中途半端に作られていた。
地面から一階部分までしかない階段。手すりも無く一階部分には裂くも無い。
階段の横には工事が始まるのか鉄骨などが積み上げられたままになって後ろに回りこむことは出来なかった。
「ゼロ、さっそく上ってみろ」
巫子がそう言って零を促す。零はあからさまに嫌そうな顔をしてしり込みをする。
「ま、待ってください。もう少し調べてからの方が良いと思いますよ」
「調べるためにも上ってみろって言ってるんだが」
「あうう……」
零は観念して階段の前に向かった。
「うう…このまま逃げたい……」
小声でそう言いながら階段の前で一旦止まる。
階段を見るとやたらと長く階段が延びているように感じた。
もちろん錯覚なのだが、零は階段から圧迫感を受けてそう感じるのだった。
「やっぱりいわく付きの階段なのかな?」
一歩後ずさり、ちらっと後ろを見る。
後ろでは巫子が腕を組んで仁王立ちで零を見ていた。
その時初めて零は異変に気がついた。
「部長、かすみさんがいませんよ」
零はそう言って辺りを見回した。だがどこにもかすみの姿は見えなかった。
「本当だ、かすみのやつどこに行ったんだ?」
「もしかして、幽霊の仕業でしょうか?」
「それはない。かすみなら大丈夫だろ」
「でも……」
「かすみのことだ、心配はいらん」
そう言うとさっさと上れと零を睨みつける。
零は溜息をつくと、
(かすみさんのこと信用してるんだ)
そんなことを思ったり、
(ただ単に探すのが面倒なだけだったり……)
なんてことを思ってみたり。
「さっさと……いけっ!」
ゴンと頭を殴られる零。頭を抑えて涙目になる。
涙目になりながらも、階段を上り始めた。
「1…2…3…4…」
下を向きながらゆっくり数えて上っていく。
慎重に周りに気を配りながらゆっくりと。
「そういえば、今日は何日だっけ?」
「え? 24日ですけど……25、26ってあれ?」
「階段は13段までだぞ。しっかり数えないとダメじゃないか」
「酷いですよ、部長。わざとやったでしょう」
「あははははっ……『時そば』を知らんのか?」
「知ってますけど……」
「それより、最初から数えなおしだ」
「はーい」
零は最初の段まで戻り、もう一度数えながら上りなおした。
今度は巫子も零の後ろを上って行く。
「5…6…7…」
順調に数えていく。
「8……9……」
順調に……。
「10………11………。部長、後ろから突っつくの止めて下さい」
零はそう言って後ろ手に巫子の手をはたく。
巫子はそれをかわすと再び腰の辺りを突っついた。
「12…じゅうさ……」
最後の段を数えながら顔を上げる零。
完全に顔を上げると、目の前に誰かの顔があった。
「うわっ!」
驚きの声を上げて身体を仰け反らす零。
片足を上げていた状態のためバランスを崩してしまう。
「わわわわっ……」
「おいっ、ゼロ! 落ちてくるなよ」
「ダメです、おちるうううぅぅぅ……」
手をばたつかせ耐えようとしたが、そのまま後ろに倒れこんでしまった。
そうなると巫子が零を支えなければならないのだが、逃げようとして下に降りていたため支えることが出来ずそのまま巻き添えに。
しかも完全に下りていたわけではないので、そのまま一緒に転げ落ちてしまった。
「階段を上るときは、気をつけないといけませんよ」
「か、かすみさん!」
階段を見上げた零はかすみの姿を見て、驚きの声を上げた。
「なんでそこにいるんですか?」
「この階段の後ろは梯子がかけられているんです。
 そこから上がってきたんです」
かすみはそう言って笑顔を見せた。
零は続きを説明してくれるかと待っていたが、かすみは笑ったままだった。
「でも、この後ろへは回れないんじゃ……」
「この後ろは焼却炉なんです。
 ですから校舎から出入りが出来るんです」
そう言われて零は思い出した。
噂の階段は焼却炉のそばにあるということを。
「実はこの階段は間違えて作られたものなんです。
 非常階段を作る予定だったんですが、設置場所はこことは反対側なんです。
 でもここに設置してしまって取り壊そうとしたのを、学園長が記念にと残すように言われたそうです」
何の記念なのか?
零は眉間に皺を寄せてコメカミを揉み解し始めた。
「噂話は学園長の話を聞いた当時の生徒が作った話だそうで、
 先ほど焼却炉で紙を燃やしていた学園長に教えていただいたんです」
真相はあっけなく解明された。
しかもこんなオチだったとは……。
幽霊などとはまったく関係が無かったことに、ほっとしたような残念なような……。
「ゼ〜〜ロ〜〜……」
地獄のそこから響くような声が零の下から聞こえてくる。
「いつまで人の上に……乗ってるんだ!」
そういわれて下を見ると、自分の下に巫子がいるのに気がついた。
「ああ、ご、ごめんなさい!」
慌ててその場から離れる零。巫子は起き上がると埃を払い零を睨みつけた。
「ゴメンで済むか! お仕置きしちゃるっ!」
言うが早いか零に向かってお札を構える。
「不可抗力ですっ」
「問答無用!」
「うわあああっ、ごめんなさいいいぃぃぃ!」
零は一目散に駆け出し、その場から逃げ出した。
「逃がさんっ!」
それを巫子が追いかけていく。
残されたかすみがポツリと呟く。
「落ちると怖いことが起きるって本当でしたのね」


後日判明したことだが、
一番下の段は土に埋もれて上から見ると段差がわかりにくく、石の土台に見えるらしい。
土台の方は土に埋もれて見えないのだが。
しかし下から上ぼる時は段差がわずかに見えるため数える時に、数に入るのだそうだ。
つまり目の錯覚により12段になったり13段になったりするだけだったのだ。
それと学校に来なくなったという生徒は問題を起こして退学になっただけ。
転校したの生徒も父親の転勤で転校しただけだった。
オカルトとはまったく関係なく、調査報告をされた生徒会も拍子抜けしたらしい。
事の真相は害は無いということで公表はされなかった。
ただ……

「ゼロ、飲み物を買って来い」
「はひっ」
「ゼロ、肩を揉め」
「はいぃっ」

零にだけ被害があったことだけを付け足しておく。


終わり

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