闇に潜むもの(1)



「タイクツだな。何か面白いことはないか、ゼロ」
「ゼロではなく零です。れ・い。それに面白い話なんてそう簡単にありませんよ」
部室の机に突っ伏して暇を持て余す巫子。
退屈している巫子に話しかけられた零は、いつものようにツッコミを入れる。
「そんなことはどうでも良い。飲み物を買ってきてくれないか?」
「いきなり何ですか、話に脈絡がないですよ」
「あ、私にも買って来て貰えますか?」
文句を言う零にかすみも飲み物を買ってくるように頼んだ。
ここはとある街にあるとある学園の奇妙な部活、オカルト研究部。
別名オカルトG。オカルトジーメン、オカルトガーディアンの略とも言われている部の部室である。
学校や街で起こる怪奇現象を研究しているというなんとも奇特な人たちの部活だ。
そんな怪しげな部活に入部することになった秋田零は、相変わらず部活内での扱いが悪い。
雑用から使いっぱしりなど、下僕、僕、奴隷に近い扱いを受けている。
実際、かすみは零を下僕として扱っている。
入部届のサインのどさくさにまぎれて奴隷契約を結んだのだ。
嘘か本当か解らないが、契約不履行の場合は魂を取られてしまうと言う悪魔の契約。
以後、かすみは零を下僕として扱っているのだった。
それはさておき、零はぶつぶつ言いながらも飲み物を買いに行くのであった。

「大スクープです!」
飲み物を買いに購買部のそばにある自動販売機に向かう零の耳にそんな声が聞こえた。
声のする方を見るとそこには、新聞部に所属している同じクラスの浅葉奈々子が新聞を配っていた。
その新聞には号外と言う文字がでかでかと書かれていた。
「奈々子、見てしまいました。
 実は夕べ忘れ物をして学園に取りに来たんですけど、その時窓の外に怪しい影を見かけたんです。
 慌てて宿直の先生に報告に行ったんですけど、先生もその怪しい影を見かけたらしく追いかけていくところでした」
そんなことを言いながら、その時のスクープ記事が載った新聞を配り続けている。
「詳しくは、この新聞を読んでください……あ、零ちゃん。新聞あげるね」
浅葉は零を見つけると、そう言って新聞を零に手渡す。
零はクラスの女子から、零ちゃんと呼ばれている。本人は嫌がっているが。
男子からは、零と呼ばれている。ちなみに一部からは零ちゃんと呼ばれ、密かに男の娘計画が発動中だとか。
それはさておき、新聞には先ほど浅葉が話していた以外に、他の宿直の先生や巡回している警備員の目撃情報が載っていた。
「零ちゃん、ちょっと調べてみてくれない?」
「えー、僕は高校生探偵とかじゃないよ?」
突然そんなことを言われた零は、驚きの声をあげてそう答えた。
そんな零を見て浅葉がニヤッと笑う。
「記事にもあるけど、怪しい影は人のような姿をしているけど人じゃないみたいなの。
 動きが人間らしくなく、気配もしない。おまけに奇妙な音を立てているらしいの」
「なるほど。幽霊かもしれないってこと?」
「そういうこと。だから零ちゃんに調べてって言ってるの」
ニコニコしながら零に顔を近づけて言う浅葉。今にもキスをしそうな近さである。
「零ちゃんは、あの、オカルト研究部でしょ?」
『あの』の部分を強調して、さらにずいっと顔を近づける。
零は思わず後ずさって頷く。後ずさられて一瞬悲しい顔をする浅葉だが、すぐに笑顔に戻って話を続ける。
「じゃあ、お願い。あ、詳細は後で教えてね。記事にするから」
浅葉はそう言うと、零から離れてまた新聞を配り始めた。
「はぁ、なんか大変なことを頼まれちゃったなぁ」
拒否する間もなく、引き受けざるを得なくなった零。
溜息をつきながら独り言を言うと、再び記事に目をやった。
退屈していた巫子が喜びそうな内容に、別の溜息が出そうになる。
「とにかく、部長に相談してみよう」
零はそう言うと部室に戻ろうとして、飲み物を買っていないことを思い出し自動販売機の元へと向かった。



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