TopNovel Index>暮れぬ宵・明けぬ夢・2


…2…

 

「岡様」とは、「道行き様」と対にして使われる呼び名だ。旅の宿を取る者が「道行き様」ならば、「岡様」は…この土地に住んでいる地元の客だ。宿場を中心にして、この界隈には十いくつの小さな町や村があった。

 何時訪ねてくるのか分からない旅の客に対して、月に何度か定期的に店に足を運ぶのは上客で、店主も喜んだ。

 

………

 夕はまた天窓を見た。自分の中に湧いたほのかな期待をかき消すように。望んではいけない、だって、自分はそのような身の上ではないのだから。買ってくれる客に抱かれ、店主の好きにされる。そのために生まれてきたと思わなかったら、ここでの生活には耐えられない。

 しかし、先の店主のものとは全く違うやわらかい足音が近づいてくると、もうたまらずにふすまの所まで駆け寄っていた。

「…夕」

 その人は、小さく名を呼ぶと足早に部屋に入り、ふすまをぴっちりと閉めた。薄青の小袖にぱりっと手入れをされた袴を履き、薄茶の髪はこざっぱりと上の方でまとめられていた。

「…木根(キネ)様っ…!」
 夕はもう自分を押さえることが出来なくて、男に抱きついていた。ほっそりした腕が男の身体に回る前に、夕の方がしっかりと抱きすくめられていたが。

「木根様っ…木根様…! お会いしたかった…!」
 夕は逞しい胸に顔を埋めて、涙声で言った。木根の方もたまらない感じで、額に口づける。

「すまなかった、寂しい思いをさせたな…夕…」
 そう言いながら夕の顔を見つめる、男の瞳も濡れている。大きな手のひらが細い輪郭をやさしく包み込むと、静かに唇を寄せる。夕もそれに応える。ふたりはお互いを味わいながら、しばし懐かしい香に酔った。

「…ね、木根様っ…!」
 湧きあがる激しさに息が上がる。お互いの息を顔に受けながら、相手を見つめる。夕は震える唇を動かして訴えた。

「早く、抱いてっ! あたしを木根様でいっぱいにして…!」
首に腕を回してすがりつくと、涙がぼろぼろとこぼれ、男の衣の肩口を濡らす。なだめるように背中をさすられても、夕はいやいやと首を振った。

「そんな、急がなくても…今日はずっと一緒にいられるんだよ? ゆっくり話でもしよう…」

「…やっ…! そんなの、嫌っ…!!」

 夕は聞き分けのない子供に戻ったように、何を言われても首を横に振った。木根の顎の辺りが少しこけた気がする。務めが忙しいのだろうか? だからなのだろうか…? いつもは月に二度は訪れていた足が遠のいていた。一月以上経っているかも知れない。あまりの悲しみに途中から日を数えるのもやめた。

「夕…っ!」
 男は観念したように深いため息をついた。

「困った子だね、お前は…」
 そう言いながら、もう一度、口づける。やわらかい語らいを繰り返した後、深く重ね、舌を差し入れた。

「うんっ…」
 夕の身体から力が抜けていく。男に支えてもらわなかったら、そのまま崩れ落ちてしまいそうだ。抱きかかえられてしとねの上に運ばれる。折り重なるようにそこに身を横たえた。

「恨み言なら…何でも聞くのに…」
 細い身体をまたいで顔をのぞき込みながら、それでもまだ男は言う。夕は静かに微笑むと首を横に振った。

「…木根様が、来てくださったから…それでいいの…」
 伸ばした手のひらが絡みあって、しとねに落ちる。指と指の隙間に深く入り込んで、繋がり合う。空いた男の手が衣の前を開き、たわわな果実を露わにする。そして色付き始めたその場所に唇を寄せる。夕は久々に味わう甘美な感覚に酔いしれた。

 

 …同じなのに…。

 

 他の客人であれ、この男であれ。夕を前にしてすることに大差ない。あのおぞましい店主にしても。それなのに、夕は他の者が決して起こすことのない波を、木根に感じる。しっかりはまった鍵穴と鍵のように、抱き合うたびにこの人しかいないと思ってしまう。…どうしてなんだろう、そんなことは考えられない。それでいい。

 このひと月は、いつもに増して人恋しかった。早く会いたかった。それなのに、運命はまるで夕のそんな想いを見透かしているように意地悪する。木根をここによこしてくれない。

「あっ…、あんっ、…ああん…!」

 耐えずに花色の口元から、甘い声が漏れる。決して作っているわけではない、腹の中から湧き出る音色。甘美な酔いの中に吸い込まれていく。最初はためらいがちの愛撫を繰り返していた男も、同じ波に巻き込まれていく。夕の銀の髪がうねり、男の腕を引き留める。
 それは辺りを揺らす気が起こす自然の現象であったが、夕にとっては自分の心の高鳴りだと思えてならなかった。妖しの力を持つ銀の髪なら、それが出来ても不思議ではない。いや、そうであって欲しかった。

 口づけられて、やわらかく揉みほぐされて。夕の身体が息を吹き返す。死人のように息を潜めていた細胞の一粒一粒が鮮やかな音を立てて弾けていく。沸き立つ生命の息吹に白い肌が染まっていく。その上をさらに滑る手のひら。濡らす舌。

 しばらくは熱い息づかいだけが、狭い部屋を支配した。

 

………


 夕が生まれ育った土地を出ることになったのは、例外もなく近年の不作が原因であった。もともと痩せた土地に実る作物もなく、御領地に納める年貢どころか、村人が口にするものも事欠いた。
 農村の常で夕の家も兄弟がたくさんいた。男は働き手としてどうしても必要な存在だ。手が多きに越したことはない。働きの良い者なら、奉公に出ても可愛がられるし言うことなしだ。…しかし。

 夕は8人兄弟の5番目だった。上には兄と姉がふたりずついる。ふたりの兄は幼い頃から両親を手伝って畑仕事をしていた。一方、女子である夕や姉たちは山に薪やかやを集めに行き、木の実を取った。染料になる木の皮を剥いてくることもあれば、珍しいきのこを葉の陰で見つけたりもした。しかし、子供の手でどんなに懸命に行ったところで、男手には敵わない。

 上の姉も次の姉も10になると隣村の庄屋に奉公に出た。だから夕もいずれはそうなるのだと思っていた。姉たちがいなくなったのは寂しかったが、年に二度は暇を頂いて戻ってくる。懐かしさのあまりにまとわりつくと、少し痩せた身体が痛々しかった。顔色も良くない。でも姉たちはにこにこ笑って夕を自分の布団に招いてくれた。甘い香りがして、嬉しかった。

 夕は奉公には出されなかった。庄屋ではもう手は足りていると言われてしまったらしい。姉たちの報告を聞いて、両親はとても困っていた。灯りを消した囲炉裏端で、熾き火にゆらゆらと顔を染めながら、ふたりがいつまでもぼそぼそと何か話し合っているのを布団の中から聞いていた。
 下の姉が庄屋様の口利きで、ある商家の後妻に入ることになった。その支度のこともあったらしい。夕は奉公先も決まらぬまま、次の正月で14になる。もう、嫁に行ける年だ。しかし、この貧しい農村では余計な穀潰しを増やしたい者などない。もしも嫁に貰うなら、がっしりした健康そうな女子がいい。夕は身体も細く、たくさんの兄弟の中で特に見目かたちが美しいとは言われていたが、それは野良仕事に役に立つことではなかった。

 あたしも…逞しい身体や、太い腕が欲しかった…。

 働きの悪い我が身を始終恥じていた。夕は日中、近所の子供たちの世話をするくらいしか仕事がなかった。細い力無い指では作物を摘み取るのもおぼつかない。夜、布団に入っても涙が止まらなかった。両親にも申し訳なくて仕方なかったのだ。

 

 そんなある日、見知らぬ男が村にやってきた。きらびやかな装束に身を包んでいて、目がくらむかと思ったほどだ。頭には不思議なかたちの烏帽子を被っていた。その者は村中の家を一軒ずつ周り、大人たちに話をしていた。もちろん、夕の家にもやってきた。どんな話がされたのかは知らないが、その晩、両親は空が明けるまで何か話し合っていた。

 そして、翌日。夕はその男に連れられて村を出ることになったのだ。

「奉公先を、紹介してくれると言うからね…」
 年齢よりもずっと老いた母親は夕に新しい正月用の晴れ着を着せながら、そう言った。若い頃はとても美しい人だったと聞いていたが、もうその面影すらなくなっている。貧しいとは、人間の造作すら変えてしまうのだ、悲しく侘びしいことだと母のしわだらけの手が告げていた。

「お務め先のご主人様の言うことをよく聞いて、よく奉公しなさい」
 そう言いながら、見上げた母親の瞳が濡れていた。どうしてなのか分からなかった。分からないと言うなら、どうして今、正月用の着物なんて着せされるのかも分からない。姉たちは正月明けの休みには暇を貰って戻ってきた。その時に晴れ着を渡される。だったら、自分だって正月に戻ったときでいいのに…。
 色々腑に落ちないこともあったが、とても訊ねられるような感じではなかった。まとわりつく弟妹たちに笑顔で別れを告げ、里を後にした。

 

 男は夕を連れ、その後も近隣の村々を回っていった。そして、その先々で何人かの女子を預かる。その数が10人を越えたとき、男は「出発する」と言った。

 山をいくつも越え、半月ほどの道のり。野宿同然の状態で休むことも多かった。民家に身を寄せることもあった。そう言うときに不思議なことが起こる。もう寝ようと言う時間になると、夕たちをまとめているあの烏帽子の男が幾人かの女子を呼ぶのだ。そして、その者たちは夜が明けるまで戻らなかった。
 翌朝、ようやく戻ったその者が、真っ赤に泣きはらした目をしたまま力無くよろよろと歩いているのが気になった。「どうしたの」と聞いても、生気のない笑顔で首を振る。その向こうで烏帽子男が怖い顔で睨んでいた。
 途中で、逃げるようにいなくなる女子もいる。しかし、どういう訳か、その者は次の宿場に泊まるときにちゃんと合流する。顔は綺麗なままだったが、身体に大きな痣がいくつかあるのを着替えるときに見てしまった。

 不思議なことがたくさんあったが、それでも広い街道にある宿場に着いた。そこで烏帽子の男はいくつかの店や宿を回りながら、そこの店主と話を付けていた。そして、話がまとまると幾人かずつ女子を渡していく。最後は最初のように烏帽子男と夕のふたりだけになっていた。

 同い年くらいの娘たちとの旅もあまり記憶に残らなかった。皆、無口に下を向いていることが多く、夕が何かを話しかけても、ぽつりぽつりと答えるだけ。すぐに会話が途切れた。家族の話をすると、本当に辛そうな表情になる。だから、段々そのような話も避けるようになっていった。同じような背格好の可愛らしい顔の子たちだった。とは言っても、どんな顔だったのかも今となっては記憶にもおぼろだが…。


 やがて男は夕をある店の前に連れて行く。建物のすぐ際まで垣根が巡らされているという、とても不思議な建物だった。窓も少なく、上の方にしかない。こんな造り、今までに見たことがない。これでは部屋の中は深く掘った穴の中のように薄暗いんじゃないだろうか。
 夕はそこで、小さな畳敷きの部屋に案内された。こぎれいに片づけられたそこに招き入れてくれたのは、姉と同じくらいの女子。なんだか懐かしくて、ドキドキした。

「あんた、新入りね」
 彼女はぱきぱきとそう話しながら、夕に敷物を勧めてくれた。赤茶色の髪を長く伸ばして、山吹色のてろんとした衣を着流していた。帯もだらりと結んでいたが、それが流行なのかな? と、夕は納得した。何より、こんな明るい人が同じ場所で働くなら楽しいかも知れないと嬉しかった。

「こっちですぜ、兄貴…」

 年長の女が去った後、ひとりで待っていると、程なくして聞き慣れた烏帽子男の声がした。どかどかとこちらに向かってくる足音はふたり分。夕は慌てて立ち上がった。

「ほお…」

 部屋に入ってきたのは、小太りの初老にも中年にも見える男だった。烏帽子男に比べると簡素な服を着ていたが、ふたりのやりとりを見た感じでは確かな上下関係が形成されているらしい。
 脂ぎっている顔にぼつぼつとがまガエルのようなできものが付いている。それが恐ろしいな、と一瞬思って、すぐに打ち消す。この男が自分の「ご主人様」なのだ、きっとそうだ。奉公先ではきちんと働くようにと母に言われてきた。

 男は夕を見ると嬉しそうに笑った。口元をくっと上げて、そこからちらと見えた舌で分厚い唇を舐めた。

「こいつは…上玉だ。おめえにしては、いいのを見つけてきたな」
 そう言うと上機嫌で烏帽子男をねぎらう。今まで自分たちを顎で使い、怒鳴り散らしていた男が、へこへこと姿勢を低くしているのが可笑しかった。

「へえ…、兄貴。ちっぽけな農村には似つかわしくないべっぴんがいると聞き及びまして、足を棒にして出向きましたぜ。ひとめ見た途端、こりゃ、兄貴に必ずお届けしようと。…実はね、そこら中でこの娘を所望されたんですわ、でも渡したりはしませんでしたわ。だって、そうでしょう。俺は兄貴に一番世話になっているんですっから…」

「…ふうん」
 男の視線が、舐めるように夕を頭のてっぺんからつま先まで眺めている。それから、もう一度、烏帽子男を見た。

「で、岩。そんな風に言っといて、実はお前が宜しくしてんじゃないだろうね。…手癖の悪さでは右に出るもんがないと言われているからな…」

「め、滅相もない!」
 烏帽子男は大きな声で叫ぶと、大袈裟な動きでかぶりを振った。

「酷いですわっ! とんでもない言いがかりです。兄貴、だったら、試してみてくださいよっ…俺だって、据え膳はたまらなかったんですっから…信じてくださいよ〜」

 ふたりのやりとりが不思議で仕方なかった。分からない言葉がたくさんある。でも、それよりもこの主人は夕のことを気に入ったらしい。それならいいと思った。意に添わずに追い返されたらどうなるんだろうと不安だったから。夕は出来るだけの笑顔を作って、こちらを見た男に頭を下げた。

「…宜しくお願い致します。頑張ってご奉公します」

「おお、…おお…」
 男は夕に歩み寄ると、肩に手を置いた。男の触れたその場所が湿っていくような不快さを胸に覚えたが、知らない振りをした。

「…じゃ、兄貴。俺は、下がりますぜ…また」

 烏帽子男はさっさと行ってしまった。もう話は済んだのだろうか。これでいいのだろうか。ぼんやりしたまま閉められたふすまの方を眺めていると、男がどっかりと上座に移って座り、夕にも座を勧めた。

「遠いところをご苦労さんだったな…」

 男はぶわっと感情を噴き出したような顔で夕に向かった。何故だか、辺りの気までがおぞましい色に染まっていくような気がする。これ以上、この男に近寄ったら、それに飲まれてしまう。怖い、と思った。

 夕が青ざめたまま、そちらを向いて身体を固くしていると。男はずるずると酒の道具を並べた盆を引き寄せ、自分で器に注いでぐいっとあおった。白いものがたくさん混じった青黒い髪。赤らんでくすんで茶色に近い肌。その時はあまりにもそれが奇異に思えた。
 西の集落の外れで育った夕にとっては、髪の色とは銀を基調にしたものだったし、肌の色は薄いものだった。あまりにも有色のこの店主は恐ろしい魔物に思えた。でもこの者が…自分のご主人様なのだ。

 どくどくと波打つ胸。どうしたらいいのか分からない動転した状態の夕をちらと見て、男は言った。

「俺は、この店の主だ。お前は今日からここに置く。店の女どもは俺を『親父様』と呼んどるから、お前もそう呼べばよい…」

「…お…親父様…」
 夕は口の中でもごもごと反芻してみた。父親以外の男をそう呼ぶなんて、合点がいかない。でも仕方ないのだろう。

「注げ。これから客を接待する手順を教える」

 男…店主は少しぞんざいないい方になって、とっくりをこちらに差し出した。夕は慌てて膝を進めると、それを両手で受け取った。

「ほう…綺麗な肌だ。俺も生粋の西南の女子を見るのは久しぶりだが…美しいものだねえ…」
 頬の辺りに視線を感じて緊張する。とっくりを持つ手が震えて止まらない。

 そして。次の瞬間――ふたりの間にそれがごとりと落ちた。

「…ひっ…!」
 思わず、小さく叫んでしまった。店主の手が夕の細い腕をぐっと捕らえたのだ。いきなりのことに、身体が引いたが、押さえられた腕をぐいと引かれて倒れ込む。真っ暗になった視界、酒臭い体臭が鼻を突いた。

「あ…、何をっ!? …やあっ…!」

 ぐるりと身体を仰向けにされる。店主が自分に覆い被さっているのが分かった。抵抗する暇もなく、着物の前をぐっと開かれる。あまりの出来事に必死で身をよじり、逃れようとした。

「何をなさるのですっ! やめてっ…、やめてくださいっ!!」

 恐ろしかった、どうしてこんなことをするのか。夕には男と女の秘密など、全く知るものではなかった。店主は自分を殺めようとしている、本気でそう思った。だから、涙声で叫んだ。

「…静かにしろっ!!」
 ドスのきいた声で叫んだ店主は、鬼の形相で夕を睨み付け、片手で細い両腕を畳に押しつけた。

「お前は俺が買った女だ、俺の言いなりになるのが当然なんだ、つべこべ言うんじゃねえっ!!」
 ぐっと胸元に腕が入り込む。片方の乳房をぐっと掴まれた。

「…っ、やあっ! やっ…! 触らないでぇ…!!」

「うっせえんだよっ!!」

 ぱあんと、頬を叩かれた。じいんと熱くなって、視界も霞む。そのすぐ側で、男の分厚い唇が動いた。

「ははん…、おめえ…閨のことも何も知らんな? ぐふっ…そうかい、そうかい…じゃあ、教えてやらないとなっ…! 岩の奴の言ったことは本当だったのか…あいつも可愛い奴さ…ふふ…」
 そう言って着物の上から夕の身体を探る。ぞわぞわと湧きあがる嫌悪感。必死で堪えようとしても止まらない。

「…いっ、いやあああああっ!?」

 帯の結び目に店主の手がかかったとき、もうこれ以上は嫌だと、叫んだ。嫌だ、こんなことっ! 絶対に嫌っ! 誰か、助けてっ…さっきの女の人は? どこにいるの!?


「――あの…?」

 その時。

 すううっと、ふすまが開いた。夕はゆるゆると首を向けて、そちらを見る。そこには若い男がひとり、立っていた。初めて見る顔。立派な身なりで、優しげな顔だち。涼しい緑の瞳が優しく夕を見つめる。烏帽子の男とも、店主とも全く違う人種だった。

 

 夕も突然の人影に驚いたが、それは店主も同じだったらしい。今までのあの勢いもどこにやら、しばらくは言葉もなく、呆けた顔で男を見つめていた。


 

<<前幕へ   次幕へ>>

 

Novel Index>暮れぬ宵・明けぬ夢・2