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…「花になる」番外・2…

「玻璃の花籠・新章〜鴻羽」

 

 奥の間を出たら、最初の角を右に。次に突き当たったら今度は左、その次も左。そしてしばらくは道なりに真っ直ぐ進んだあと、今度は右手の方へ。その後、えーと、えーと。

 どうにもこうにも。

 何でここまで入り組んだ造りになっているのかしら。そりゃ畏れ多くも御領主様のお住まいになる館だもの、相応にご立派で構わないわ。だけど、……ここまで迷路のように複雑にしなくてもいいと思うの。部屋と部屋を繋ぐ渡りという通路はいちいち履き物で庭先に出ることなく移動できるから便利であることは確かなのだけど。だからって、ここまで来ると逆効果というものよ。
  毎回指折り数えて確認しつつ進んでも、ハッと気がつくと全く知らない対に迷い込んでいることも少なくない。何だかいつもと風景が違うなあと思って後戻りすると、今度はもっと分からなくなったりして。そうしているうちに振り出しの場所まで戻ってしまうのだから、がっくり。
  これって絶対、苦労しているのは私ひとりではないと思うの。こちらにお住まいになる皆様やお仕えする侍女の方々は皆取り澄ました感じで危なげなくこなしているように見えるけど、内心はとても困っているんじゃないかな。うん、私だけが人並み外れた方向音痴って訳じゃないと思う。

 こちらの本館を今のようにされたのは、先の御領主様。今は皆から「ご隠居殿」と呼ばれているその御方は人並み外れて女癖が悪く、行く先々で新しい女子を見つけては連れ帰って館に住まわせたのだと言う。その数、もう数え切れないほど。そのたびに新しく部屋を建て増ししていったというのだからすごいわ。やっぱり、お上の考えることって分からない。
  そういう感じで、いつの間やらからくり屋敷の出来上がり。領民が汗水垂らして働いて治めた年貢がこんな風に使われているのかと思うと情けない気もするけど、まあ今更私などがあれこれ文句を言っても始まらないしね。

 そんなこんなで。ただでさえ女人様の元から退出するのが遅れたのに、またしても暇が掛かってしまった。慣れない衣は重いし、息は上がるし、足は棒のようだし。それでもどうにか戻ってきたわよ。誰か文句あるっていうの。

 ―― いや、多分約一名。今頃、手ぐすね引いてお待ちかねだろうな。

「遅いぞ」

 あ、早速始まったか。まだこっちが声も掛けてないって言うのに、気が早いんだから。毎回飽きもせず、良くやるわよね。だけど駄目よ、ここで相手の術中にはまっては。

 縁に一度膝をつき、大きく深呼吸。それから出来る限りの平静を装った声で告げた。

「貴子です。ただいま、戻りました」

 あの不機嫌な声色から察するに、すでに人払いは済ませてあるみたい。まあ、それは分かっていても、とりあえずはかたち通りに。そうしておかないと、また山盛りにお小言を頂くことになってしまうから。
  返事が戻ってこないのだから、このまま入室しても構わないってことよね。そう判断して、ゆっくりと障子戸を開ける。これも力加減を間違えるとするっと走りすぎるから、慎重に慎重に。その後、もう一度深く頭を下げたあとでようやく顔を上げる。うん、ここまでは合格点の立ち振る舞いだわ。

「いつまで油を売ってるんだ、のんびりするにも程がある。全く……このまま夜が明けてしまうかと思ったぞ」

 中庭に面した「表の間」と呼ばれる一室。その一番奥まった場所にしどけなく佇む御方。すでにお召し替えになった寝装束の上から薄物を一枚だけ羽織り、肘置きに身体を預けていらっしゃる。何というか……相変わらず滅茶苦茶偉そうなのよね。ええと、ふんぞり返っているって感じかな。

 そのお姿を眺めていたら、私の中で何かがぷつっと切れた。うん、前触れもなく突然に。

 以前の私だったら、即座に取り繕う言葉を並べ立ててお臍を曲げた方のご機嫌を取ろうとしたかも知れない。でも、こちらに移って早二月。それなりに度胸も据わってきた。やるなら今だわ、そうよ絶対そう。

「あ、……あら。これは失礼いたしました」

 一歩前に出た足をわざとらしく引っ込めて、静かに座り直す。こっちはね、まだ昼の装束をがっつり着込んでいるのだから。何気なく振る舞っているように見えても、かなりの重労働なのよ。それなのにご覧なさい、この流れるような立ち振る舞いを。

「私としましたことが、帰る部屋を間違えてしまったようです。ご安心下さいませ、すぐにおいとま申し上げますわ」

 そう言い終えたあと、元通りに障子戸を閉じる。ま、こんなもんでしょ。いいわよ別に、ここより他に部屋がない訳じゃないんだから。普通の神経の女子ながら、ここでしくしく泣き出したりするのかもね。でも私はそんな柄じゃないわ。

「―― おい」

 今渡ってきたばかりの道を数歩戻り始めたところで、先ほどの障子戸が内側から開いた。

「どこへ行く気だ。ふざけるのもいい加減にしろ」

 さすがに表に出るのは憚られる格好だと言うことを、ご本人もよく分かっていらっしゃるのだろう。かくれんぼをしているように戸の内側に潜んでいる。でも、これにはちょっとびっくり。漬け物石のようにどっしりと構えていた御方が、何て身軽なこと。お得意の踊りの技はこんなところにも生かせるのね、恐れ入ったわ。

「ふざけてなんて、おりませんわ」

 いやいや、まだよ。今振り向いては駄目。そう自分に言い聞かせて、もう一度深呼吸。ここで声が震えてたりしたら、一巻の終わりだもの。

「だって、私はこの館で一番お美しく慈悲深く、どこを取っても非の打ち所がない御方の元に戻る予定でしたの。こちらにいらっしゃる方は残念ながらそうではありませんもの」

 さすがにね、ここまで言い切るのは度胸がいるわ。もう、こうして立っていても足はガクガク、口から泡を吹きそう。でも、私だっていつまでもやられっぱなしでいるのはたまらないの。だいたい、ここまで疲労困憊で戻ってきたそもそもの原因は誰にあるというのよ。たった今、私に悪態をついたその人を置いて他にいないじゃない。

「何だ、それならばこの部屋で間違いないだろう。そのような場所でいつまでうろうろしているんじゃない、もうとっくに夜も更けているぞ。夜警の番の者たちが見たら、またあることないこと噂をされるのだからな」

 全く、よく言うわ。そんな憎まれ口を叩く方のどこが「慈悲深い」のかしらね。

 そりゃ、皆が口を揃えて言うわ、私はこの上なく幸せな女子だと。こちらにいらっしゃる三番目の若君は、御父上のお若い頃にそっくりなお美しさでありながら少しも気取ったところがなくて、明るく気さくな方。下々の者たちにもお優しく、しかも跡目に決まった兄上を立てて少しも出過ぎたところがない……などなど。本当に呆れちゃうわ、皆様の目は一様に節穴なのね。
  あ、……この言い方はちょっと違うかな。確かに素晴らしい方でいらっしゃるのは間違いないの。部屋付きの侍女や侍従にもきめ細やかな心配りをなさるし。確かにあんな風にしていたら、評判はどんどん良くなるわよね。だけど、実際はすごく意地が悪いんだから。本当に、どうしてやろうとおもうぐらい最悪なんだから。

 うん、そう。つまるところ、それが私限定で。全く持って、面白くないわよ。

 そこまで評判の良い若君だから、一体どんな方がお相手に決まるのかとこの数年は館中がその噂で持ちきりだったらしいわ。「是非我が娘を」と売り込んでくる有力者も跡を絶たず、その対応をするために御館では新しく人を雇ったとか雇わなかったとか。まあ、どこまでが本当の話かは分からないけどね。どっちにせよ、庶民の身の上では想像すら出来ない話があとからあとから出てくる。
  あっちの村長の娘が本命だと思っていたとか、いいえ向こうの娘の方が女人様の覚えめでたかったとか。いやいや、大臣家の姫君も名乗りを上げていたとか。そう言う話をいちいち聞かされる私の身にもなってよ。だいたい、そんなの本人を前に言わないわよね。本当に遠慮がないって言うか、何というか。「あなたって、話しやすいんだもの」って、絶対誉め言葉じゃないから。

 そうよ、こちらでの「敵」は女人様おひとりじゃなかったの。ちょっと部屋を出てみれば、あちらこちらで声を掛けられて緊張の連続なんだから。もう、この辛い立場を少しは分かってくれてもいいのに。何で駄目押しをしてくださるのかしら。

「……噂なんて、もう今更怖くも何ともありませんわ。人の口に戸は立てられないと申しますでしょう、その言葉通りです」

 私、自分でも驚くくらい頑張っていると思うの。そりゃ、もともと持ち合わせているものが少ないのだから努力はしてもし足りないくらいだけど……ほんの数月前に実家の部屋でだらだらと毎日を送っていた頃からは絶対想像が付かないわよ。高貴な方の元に上がれば、たくさんの使用人に囲まれて上げ膳据え膳でのんびり優雅に過ごせるのだと思ったら大間違い。

 今日だって、一日遊んでいた訳じゃないんだからね。

 朝餉もそこそこに女人様のお呼び出しがあって、二刻ほど琴と踊りの稽古。丁度時間だからということで、昼餉までごちそうになってしまった。あそこのお部屋にはそうそうたる顔ぶれの年季の入った侍女が揃っていて、彼女たちの私を見る目の恐ろしいこと。ああ、思い出しただけで恐ろしい。
  その後は一度おいとまを許されたのだけど、そうしたら次は奥の居室の義母上様からの使者がやって来て。秋冬物の装束がいろいろ仕上がっているので見て欲しいとのこ。有り難いお誘いに早速伺うことにした。こちらはお仕えしている者たちも少なくそう言う意味では楽なのだけど、その……義母上様ご本人がそれはそれは素晴らしい方で大袈裟なたとえではなく目が眩みそう。
  声を掛けられたのは私だけかと思っていたら、末の姫君の藤華様と跡目殿の奥方である志津様もご一緒であった。そうなると私ひとりが先に戻ってくることなんて出来ないわよね。美味しいお茶とお菓子で楽しく談笑しながらも、これ以上遅くなったらまたお小言かと気が気じゃなかったわ。
  ようやっと退出して戻ろうと思えば、そこでまたまた女人様のお使いの者が登場。そのまま本館の奥の間に連行されてしまったわ。結局は花見へのお誘いだった訳だけど、そのお話が出るまでにゆうに半刻は掛かったわね。女人様、とにかく前置きが長いんだもの。

 まあ、ともあれ。御領主様一族の皆様は皆とても気持ちの良い方ばかりで、新参者の私のことも温かく受け入れて下さる。何しろこれだけ広い敷地であれば毎日顔を合わせるのも難しい方もいらっしゃるし、早々にうち解けることは難しいけど。こちらに上がってすぐは、本当に生きた心地がしなかったもの。それから考えたら大きな進歩だと思う。

 なのに、どういうことかしら。誰よりも一番労をねぎらって欲しい方が、このように意地が悪くて。もちろんご本人も日中は様々なお務めで大変だったのは分かるけど、でも……もう少しこちらの立場を分かって欲しいなと思ってしまう。そりゃ、うん。端から見ても、私自身が考えても有り得ない「今」であることは間違いない。だけど、それでも。

「そうか、ならば止めはしないから好きにしろ」

 この期に及んでも、声色ひとつ変えないのだから嫌になる。どんなときでも絶対に最後までご自分の非を認めない御方。ああ、どうして私はこんな偏屈な方を背の君に選んでしまったのかしら。いいわ、別に。ここより他に部屋がない訳じゃないのよ。最近では空いた対がいくつもあるし、そこを一晩くらいお借りしても構わないと思う。

 そう思って、腹をくくりかけたとき。

「ただ、ひとつ知らせておく。先ほど文使いの者がやって来て、これを置いていったぞ。お前宛だが、放っておいていいのか? 暁高の家からだぞ」

 思わず振り向いてしまうと、障子戸の隙間に何やら白いものが見え隠れしている。えー、暁高兄上から? それは是非、すぐに読みたい。でも、ここで誘い言葉につられてすごすご戻るのも情けないし。どうしよう、足音を忍ばせて障子戸の向こうに気付かれないように引き返そうかしら。うん、それがいいわ。文を手にしたら、すぐに立ち退けばいいんだから。

 そろりそろりと用心しながら進み、ようやく届くところまで引き返すと目的のものに手を伸ばす。でももう少しで指が触れると思ったそのとき、それは音もなくすっと遠のいた。

「……」

 また意地悪なさるのね、本当に懲りない方。いいわよ、今度はもっと素早く。もうその手には乗らないんだから。いちにのさん、で勢いを付けて―― 。

「……っうぎゃあっ……!」

 次の瞬間。まるで頭のてっぺんから突き抜けたみたいな奇妙な声が出た。だってだって、それまでは腕一本がかろうじて入るくらいだった戸の隙間が、突然大きく開くんだもの。あまりのことに驚いて、思わず身体ごと前にひっくり返っちゃったわ。顔面を思い切り板間にぶつけて、痛いこと。

 それでもどうにか文は手に入れて、体勢を立て直す。そのまま後ろに下がろうと思ったら、背後に違和感を感じた。

「何やってるんだ、このボケ」

 障子戸はとっくに閉ざされていて、その前に立ちはだかる不機嫌顔。あー、もう。私が目にするのは圧倒的にこの手の表情なのね。分かっているけど、ちょっと口惜しい。

「……そっ、そちらこそっ! 何をなさっているのですか」

 こんなだまし討ち、許せない。聞き分けのない子供じゃあるまいし、勘弁してよ。まあ、それにまんまと引っかかってしまった私の方もどうかしてるけど。うう、もうちょっとよく考えてから行動すれば良かった。

「何をしたわけではない、ただお前の帰りが遅すぎることを指摘したまでだ。どうして素直に謝らない、可愛げのない女子はいただけないぞ」

 うわー、いきなり正攻法で切り込んでくるし。何か自分が全部正しいみたいな言いぐさだし。だいたい「可愛いげのない」性格なのはそちらの方でしょうが。
  こうしていると、数ヶ月前に竹林の庵でお目に掛かっていた頃から双方の関係は何ひとつ変わってないのよね。いい加減、どうにかならないのかしら。「性懲りもなく」って言葉がここまでぴたりと当てはまる状況も情けないわ。

「い、……いただけなくて結構です。すぐにおいとま申し上げますから、ちょっとそちらをどいて下さいません? 正直言って、とても邪魔なんですけど」

 顔を合わせればこんな感じの私たちのことを、誰も知らないなんてどうかしてる。壁に耳あり障子に目ありとか言うじゃない、使用人の盗み聞きとかそう言うのも日常茶飯事なんじゃなかったの? そりゃ、始終見張られているのは嬉しくないけど、ここまで猛獣を野放しにされては面白くない。ああ、誰かこの化けの皮を剥がしてよ。

「駄目だ、ならばこれは返してもらうぞ」

 えっ、ちょっと待って! 気付けばしっかりと胸に抱いていたはずの文があっという間に取り上げられてるし。

「な、何をなさるのですか! それは私に届いた文です。……お返し下さいませ!」

 思わずムキになって詰め寄ったのが裏目に出た。あっという間に両腕の自由を奪われて、気がついたら板間の上に仰向けに倒されている。そして、その上に覆い被さってくる影。

「こっちは待ちくたびれていたのだぞ。文などいつでも読めるではないか。さあ、その生意気な口に蓋をしなくてはな」

 ―― っ、ちょっと、待って! いきなり何を始めるんですか……っ!?

「……っん、……やあっ。あのっ、私まだ夕餉も頂いてないんですけどっ……!」

 塞がれた口を振り払い、どうにか抗議の言葉を伝えることに成功。でもその頃にはもう、二度と表には出られない姿になっていた。最後に一枚残った肌着もほとんど用をなしてないし。お楽しみの最中に腹の虫が鳴き出したらどうするの、すごく恥ずかしいじゃない。

「そんなもの、あとでいい。まずはお前を頂くのが先だ」

 何、訳の分からないこと言ってるのよ。いい加減にして! それに文も、早く読みたいのに。だってだって、いろいろ私の知りたいことが書いてあるに違いないもの。

 私がこちらに上がって正式なお披露目が執り行われたあと、兄上もめでたく八重様のご実家に婿養子として収まった。その話が決まるまでには、皆様の並々ならぬお骨折りがあったことは確か。こちらにおられる方はもとより、御領主様や女人様からも有り難いお口添えを頂いてしまったのだから。
  今は若夫婦おふたりで、領地境の分所に出向いている。そこにはあの小絹とその兄もいるのよ。これも特別の計らいでね、もちろん私は彼女をこちらに連れてきたかったんだけどそれも難しくて。

「ここにいると気苦労も多い。病床の母上の世話をするためにもあまり環境を変えない方が良いだろう」

 もっともらしいことを仰ったあと、やはり余計なひと言が添えられる。

「それに、八重の元にいた方が彼女にとってはよほど有意義な教育が受けられる。あの娘も今に、お前など足下にも及ばぬほどに成長するかも知れないぞ。負けないようにせいぜい精進するんだな」

 ……だから、頑張っているんじゃないの。成り上がり者の豪族の娘だとか、元の倍くらいの厚化粧に塗りたくっているからどうにか見苦しくない顔でいられるんだとか、いろいろ陰口を叩かれても負けないでやってるわよ。
  何だかこの頃ではそう言う逆境にいることがむしろ奮起の材料になっている気もするけど。何か、私ってどこまでも打たれ強い人間だったのね。それに小顔に生まれなかったのは、私の責任じゃないわ。

「―― あ、そういえば」

 身体の力はすでに抜けて、くたくたの人形みたいになっちゃって。頭の芯までぼーっと霞んできた頃に、急に真顔を向けられる。

「まだ、きちんとした帰りの挨拶を受けていなかったな。さて、そろそろ聞かせてもらおうか」

 そんな風にじっと見つめてこなくたっていいじゃない、すごく恥ずかしくなってくるわ。えー、一応は礼を尽くしたつもりだったんだけど。やっぱり、きちんとやらなくちゃ駄目?

「……ええと、その……ただいま戻りました、殿」

 そこで初めて大輪の花が開くような笑顔になるのも反則。だって、恥ずかしいんだもの。どうにか人前ではきちんと呼べるようになったけど、気を抜くと未だに「若様」ってお呼びしちゃう。それが怖くてついつい呼びかけるのを避けてしまうのね。

「そう、それでよい。全く、……どこまで手を焼かせる奴なんだか」

 その台詞もそっくりお返ししたいわ。―― と思っても、もう続きは声にならないけれど。

 とげとげしい言葉たちばかり浴びせかけられるのは、やっぱり辛い。でも、そのあとには必ず甘いご褒美が。……あ、これは彼なりの解釈では「お仕置き」になるのかな。

 次々と降り注ぐやさしい痛みに、つい「若様」って呼びかけそうになって。慌ててその言葉を飲み込んだあと、汗ばんだ背中にしっかり腕を回した。

了(080812)

 

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