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『清宮万太郎くんの事情』
…3…

 

 

 今年の4月に入社して、彼女はそれこそ数え切れないほどのお誘いを受けたと言う。新人であることに加えて、あの容姿だ。連れて歩きたくなるのも当然だろうな。そして今までに2人の社員と「親密に」おつき合いをしたらしい。そんな情報いらないのに、お節介焼きの奴らがやっかみ半分で教えてくれるんだ。全くもって嫌になる。

「開発企画部の板東さん」と「リゾート開発部の徳倉さん」……入社して日の浅い僕でも名前を知っているエリート中のエリート。将来を約束されている優れた人材だ。ぱりっと着こなすスーツは特上品だと言うことが遠目にも分かり、自信に満ちあふれた表情、それを裏付ける仕事内容。非の打ち所がないというのはこういうことなんだろう。

 ……そして、3人目が僕。その辺の経緯がよく分からないのは周囲の人間も、そして僕自身も同じ。未だに彼女がどうして隣を歩いているのかと、分からなくなる。

 

 二度目のデートの時。

映画館を出て、川縁の遊歩道を歩いていたら、愛美花ちゃんが急に立ち止まった。どうしたんだろうと彼女の視線を先を見ると合点がいく。そこにいたのは、いかにも「イケメン」なカップルだった。

「やあ、愛美花!」
 カップルの男の方がこちらに気づき、明るく声を掛けてきた。そして連れ合いの女性をそのままにして、颯爽と歩いてくる。さながら、ドラマのワンシーンのように。愛美花ちゃんも彼の方に数歩歩み出た。

「こんにちは。こんなところでお目に掛かるなんて、奇遇だわ」

 男の方がかなりの長身なので、彼女は背伸びをするように仰ぎ見る。綺麗な瞳が、しっかりと男の顔を見ているのが感じ取れて、何とも言えない気分になった。でも不思議と嫉妬なんて湧いてこなくて、ただ「絵になるなあ……」なんて考えていたんだけど。

「何言ってるんだよ、ここは愛美花のお気に入りの場所だっただろ? 噂のカップルを一目見ようと張ってたんだよ……今日も可愛い服着てるな、それ秋の新作の?」

 なにやら、楽しそうに会話してる。彼女の着ている服がどんなブランドのものかなんて、僕には全く分からなかったのに、その男は妙に詳しそうだ。なんか、ますます疎外感。最初は私服だからイメージが違って気づかなかったんだけど、しばらくしてその男が徳倉さん――つまり愛美花ちゃんの元カレだと言うことが分かった。

 僕と同じようにぽつんと置いてけぼりされたあっちの連れ合いは、誰もが振り返るお似合いのふたりをじろじろと睨んでる。でも、愛美花ちゃんは彼女に気づくと、そんなことは気にも留めないようににっこりと微笑み返した。ひょろーっと背の高いモデルかアヤシイお店のお姉さんみたいなその人は、面食らってぷいっと横を向いてしまう。

 一頻りおしゃべりしたあと、「じゃあね」とひらひら手を振って、彼は去っていった。綺麗な連れの女性が何かを小声でわめき立てながら、彼氏の腕をぐいっと引っ張ってる。なんかすごい光景を見てしまったな〜とか思っていたら、傍らで愛美花ちゃんの声がした。

「私、あの男、嫌い」

 思わず、ぎょっとして振り向いてしまった。いきなり何を言い出すんだ。元カレだろ? らぶらぶで有名だったんだろ? それは僕が今の仕事に就く前の話だったから、直接知ってるわけじゃないけど。

「えっ……ええーっ、でもカッコイイじゃない? いいよな〜身長とか180以上あるんじゃないかな。徳倉さんって営業成績もダントツなんでしょう?」

 カジュアルな装いだったけど、すごく似合っていた。まあ、たとえるなら釣りに行くおじさんみたいなスタイルなんだけど、やっぱ身に付ける人が違うとあんなにきまるんだなあ。ノーブランドのシャツの自分が情けなくなった。心地よく日焼けした肌に、健康的な白い歯がきらりん。しかも理想的な歯並び。やっぱ、それなりにジムで鍛えなかったら、あの身体は維持できないんだろうな。

 知らなかったよ、本当に。芸能人と一般人って、きちんと線引きがされているんだと思っていた。なのに、「ナカノ」に入社したら、毎日がロケ地みたいだ。カッコイイイケメン俳優から、熟年のダンディーなオジサマまでよりどりみどり。女性社員だって、モチロン同格だ。もしかして、顔で採用を決めてるんじゃないかと思うほど。

「でも、全然よ。上っ面だけなの」
 僕があっちの肩を持ったのが気に入らないのか、愛美花ちゃんはまたぷうっとふくれた。

「だって、ときめかないんだもの。駄目よ、あんなの」
 きっぱりとそう言いきると、呆然とした僕を残してさっさと歩き出した。

 


 自慢じゃないが、女の子と親密なおつき合いをした経験は皆無だ。グループ交際とか、合コンとかは数合わせで何度か声が掛かったが、いつでもその場限りの出来事。ああいうのって、男の方があぶれるようにしてあることが多いから、影の薄い僕は余ってしまうのが常だった。

 それどころか、酔った先輩の介抱をさせられたり、三角関係に陥った仲間の仲介に入ったり。どうしてかなあと思うくらい、上手くいかない人生だった気がする。

 だから、本当に慣れてなくて。いつでも愛美花ちゃんがリードしてくれる通りにコトを運ぶしかなかった。彼女の行きたいところに行って、食べたいものを食べる。見たい映画も、遊園地の乗り物も、ディナーのレストランも、全部愛美花ちゃんの言うままに従っていた。

 

 4回目のデートは、海の見える埋め立て地の公園。水族館がそこの目玉で、大きな人工池ではボートにも乗れる。砂浜で貝を拾ったり、高台で鳩に餌をやったり、ゴムまりのように弾んで色んなところに転がっていく彼女を追いかけるので精一杯だった。

 ううん、そう言うか。……なんちゅうか。

 正直、愛美花ちゃんに見とれているだけで、たまの休みは終わってしまう。綺麗に晴れ渡った晩秋の空、巨大なパノラマスクリーンをバックに、にっこりと微笑む女の子。もう、最高級に可愛くて、ぼーっと眺めてしまう。

 その日の愛美花ちゃんは、日中のデートだと思ったのか、半袖のニットに、タイトなスカートだった。半袖なのにハイネックで、ついでに幅広のマフラーがくっついてる。白くてふわふわして子ウサギみたいだなと思った。すっごく似合っていたし、とびきり可愛かったけど、夕方になったら大丈夫かなとちょっと心配になった。

 

 早めの夕食を済ませて、外に出る。冬至まであと1ヶ月、だいぶ日の暮れるのが早くなった。高いビルのほとんどない海岸沿いで、群青色の空に星が瞬いている。

「見てみて〜っ! ねえ、万太郎くん、あの星、すごく明るいよね!」
 そう言いながら、のばす細い腕。さすがに夜風が堪えるのか、産毛が立っている。それなのに、彼女はどんどん埠頭の方に歩いていってしまう。どうするんだよ、地下鉄の入り口と反対方向だよ?

 沖の方でくるくる回る灯台のライト。それ以外に見所のない場所は、だんだん街灯も少なくなって、視界がぼやけてきた。愛美花ちゃんの白い服だけが、ぼんやりと浮き立って、そこから伸びた腕が、手すりを握っている。海から上がってくる風が吹き付けるたびに、上着の前をぎゅっと押さえたくなるほどの冷たさを感じた。

 ……だっ、大丈夫かなあ、愛美花ちゃん。

 かなり気になっていた。いつもは陽気にぽんぽんとおしゃべりする彼女が、何だか急に大人しくなって。やっぱ、寒いの我慢してるのかなぁと思うよな。何なんだろう、どうしてニットなのに半袖なんだ? まあ、今は建物の中は空調が整っているし、それでいいんだろう。で、外に出るときはコートでも羽織れば。

「……へくしゅっ!」
 ずずずっと鼻をすすり上げる。あ、今のは僕のくしゃみ。だって、マジでここ、冷えるんだから。

 愛美花ちゃん、あんまり冷えると風邪ひくよ? そしたら、困るのは自分だよ……? そんな風に言えない自分が情けない。女の子が服を選ぶのはそれなりにこだわりがあるんだと思う。だから、今日の彼女の半袖にも野郎の僕には到底思いつかないような彼女なりの考えがあるのかも知れない。それにも気づかずに、言葉をかけたら何も知らない男だと思われそうだ。

 あああ、でも! やっぱり肩が震えてない? 愛美花ちゃんは全てのパーツが小さくできてるみたいだ。直接触ったことはないけど、肩なんてきっと折れちゃうくらい細いんだ。そしたら、肉だってほとんど付いてないはずで……皮下脂肪が少なかったら、どんなにか冷えがストレートに……ねえ、もう帰ろうよ。

 ――いや、待てよ。

 ここは、僕がこの上着を脱いで……「寒いだろ?」とか言って、彼女を包んであげればいいんだろうか? ああっ、そんな!? まずいよ、気障すぎだよ! 徳倉さんのようなイケメンだったら、そんなこともスマートに出来るだろうけど、僕なんかがやったらお笑いになっちゃう。なっ、情けない男は嫌われるぞ!

 また、静かな沈黙が続く。僕がちらっと時計を見たとき、彼女がようやく少しだけ身じろぎした。

「……寒い……」

 消えそうな声だった。でも、確かにそう言った。――だよなあ、そのはずだよ! 僕は緊張が一気に解けた気分になって、ホッと胸をなで下ろした。

「だよね、うんっ、寒いよ。ね、そろそろ戻ろうか。地下鉄の駅に入ったら、きっと暖かいから。……行こうよ?」

 それなのに。珍しく先に歩き出した僕に、後ろからの足音が付いてこない。数歩歩いて、それに気づき、慌てて振り向いた。愛美花ちゃんは、さっきの場所からこっちに向き直っただけ。ゆっくりと顔を上げた。

「――万太郎くん」

 うわっ、何だよぉ! また怒ってるぞ、あの眼は! 何で、そんなにへそ曲げるんだよ〜。寒いんだから、暖かいとこに行こうって思うの、当然だろ? なっ、そうだよな!?

 はああっと吐き出した愛美花ちゃんの息が、白く染まる。潤んだ瞳、一瞬涙が溜まっているのかなと思ってしまった。

「彼女が、寒いって言ったらさ……自分のことなんて顧みないで、さっさと着てるものを脱いでかけてくれるべきじゃないの? どうして、それくらいのこと、さっさと出来ないのよっ、……馬鹿!」

「えっ、……ええええっ!? だって、その――」

 慌てふためく僕をじーっと見つめて、愛美花ちゃんがこくりと息を呑む。もうさ、どうでもいいんだけど、前からそうなんだけど。どうして彼女の仕草って、ひとつひとつが可愛らしいんだろう? もうホント、無駄な動作がひとつもない感じで……。

「寒いよ、……万太郎くん」
 ゆらりと揺れた瞳。そのまま彼女は俯いてしまった。そして自分で自分の腕を包む。

 ――ああああっ! もうっ、どうしたらいいんだよ、僕は! だって、分かんないんだよ、こんなのドラマの臭い演技でしか見たことなくって……。

 ゆっくりと、スローモーションみたいに上着を脱いだ。見るからによれよれで、とても彼女には似合わない。だけど、今はこれしかないんだ。自分にそう言い聞かせながら、愛美花ちゃんのところまで戻る。すごく恥ずかしくて、自分でも情けないなとか思ったけど、細い肩にそっと乗せた。手が震えて、格好良く出来ない。

「……あったかい」
 そう言って、僕を見上げた愛美花ちゃんが、今までで一番綺麗な笑顔を見せてくれた。

 何かもう、泣きたくなるくらい嬉しくて、満たされた気持ちになる。僕は情けないばっかりで、彼女の隣にいるのがすごく場違いだなといつもいつも思っていた。格好良く決めてみたいと思っても、愛美花ちゃんの前に立つと、もうそれだけで気後れして心拍数が跳ね上がってしまう。

 

 あの徳倉さんのことすら「嫌い」と言い放つ彼女だ。きっとものすごく理想が高いんだと思う。

 だから、不安だった。どうしたって、分からない。何故、愛美花ちゃんが僕と会ってくれるのか。一度付き合えば、もうぼろが出まくりで、愛想を尽かされても当然なのに、別れ際には必ずスケジュール帳を取り出す。不定期な僕の休みに合わせて、ちゃんと予定を立ててくれるんだ。

 単なる気まぐれなのかも知れない。僕なんて、ほんの場つなぎで、すぐに新しい素敵な男が現れて捨てられてしまうに決まってる。その時、どんなに情けない気分になるだろう。何もなかった頃なら良かったけど、こんな風に一度美味しい思いをしたら、そのあとのどん底がどんなに深いかと恐ろしくなる。

 ――だったら、自分の方から断ってしまえばいいのに……でも、いつも愛美花ちゃんのペースに乗せられてしまっている。

 

「でも、万太郎くんが寒くなっちゃったね。大丈夫? さっき、くしゃみしてたし……」

 何かを迷っているように、彼女の視線が揺らぐ。水の底でもないのに、ふわふわっと髪が揺れて、その先っぽの後れ毛が、金色に光る。コマ送りの映像が再現されてる。どこまでも綺麗な手に届かない存在で。だけど、そう思うのに、彼女は目の前にいて。

「あっためて、あげるね……?」

 ふわり、と花の香りが胸に飛び込んできた。細い腕が背中に回るのが感じ取れる。柔らかいニットに包まれた彼女のぬくもりが、直接伝わってきた。胸が最高に締め付けられる。何が何だか。どうしたらいいのか。

 しばらくの間。僕は、羽ばたきの練習をしてる雛鳥のように、腕をバタバタと不格好に振っていた。でも……胸にしっとりとしがみついた愛美花ちゃんがもう、すごく可愛くて。もっともっと感じたいなと思った。決死の覚悟で、彼女を包み込む。壊さないように注意して、そっと抱きしめた。

 ……うわあっ……、何か、もう。

 細いのに、ふわふわして、あったかくて。甘くて、いい匂いがして。いっぺんに味わうのがもったいなくて仕方なかった綿菓子みたいに。僕の腕の中にすっぽりと入り込んだぬくもりは、もう、内側からとろけてきそうに匂やかだった。

「幸せ」をかたちにしたら、もしかしてこんな風になるのかも知れない。ついさっきまで「終わり」が来ることを何よりも恐れていたのに、そんなことは全て消え失せてしまう。お互いの心臓の音が耳元で高鳴って、それくらい近くにいるんだって実感する。

「万太郎くん……」

 愛美花ちゃんが僕を見上げて背伸びする。ゆっくりと閉じる瞼。桜色のつやつやした唇に初めてのキスをした。

 

 自然に手を繋いだ。それまでは恥ずかしくて、なかなか自分からそんなこと出来なかったのに。ふたりの距離がすごく近づいたみたいで、くすぐったい気分になった。

 言葉なんて、もういらなくて。クリスマスまで1ヶ月になって、急に賑やかになったイルミネーションを眺めながら、ただ、互いのぬくもりを伝えあっていた。

「ほら、あそこ……」

 繋いでない方の腕を伸ばして、愛美花ちゃんが天を仰ぐ。そのほっそりした綺麗な指の先には、きらきらと光の粉を振りまくような無数の電球を付けた巨大なツリーがあった。

「向こうのホテル、あそこの展望レストランからだと、ツリーのてっぺんの星が目の前に見えるんですって。先輩から聞いたんだ。ツリーを見下ろすのも光の滑り台みたいで素敵だって」
 僕の手を握りしめる愛美花ちゃんの手。きゅっと、力がこもった気がした。まるで何かを訴えるかのように。

「そう……かあ」

 彼女が言っていたプチホテルは、イマドキの若い女の子の間ですごく人気のところ。雑誌とかでそう言うのを見たことがあった。

 クリスマス――そうかあ、そうだ。

 去年までは馬鹿馬鹿しいお祭り気分に付いていけなかった。どこもかしこもクリスマスの飾り付けをして、不景気を吹き飛ばすように、ピカピカと電気を付ける。あんなにして盛り立てたとしても冬のボーナス商戦に勝てるのか? とか冷めた気分で見つめていた。

 でも……今年は、違うんだ。

 僕の心はその時、もう1ヶ月後の聖夜に飛んでいた。

 


 クリスマス・イヴに定時で上がれる。そのことに、愛美花ちゃんはすごく驚いたようだった。でも、長年周五郎様の運転手をしていた父を持つ僕には、最初から分かり切っていたこと。

 周五郎様は「ナカノ・コーポレーション」の次期頭取が確定している御方だ。それはこの日本をしょって立つ第一人者に据えられると言うこと。ともなれば、年末はイベント盛りだくさんで、様々な場所に駆り立てられる。それこそ、寝る間もないほどの忙しさだ。
 でも、僕は知っていた。クリスマス・イヴのパーティーは毎年必ず、現頭取の周五郎様のお祖父様がご一緒される。と言うことは、その時の周五郎様は頭取の車に便乗されるのだ。そんなわけで父も毎年クリスマスには、必ず家にいた。今年だって、それが変わることはない。

 

 僕と愛美花ちゃんは予定通り、あのプチホテルの展望レストランでクリスマス・ディナーに舌鼓を打っていた。

 とにかく、クリスマスだ。だから、クリスマスの柄のお皿に、クリスマスを意識した料理がすごく綺麗に盛りつけられている。もう、最初のクリームスープから、生クリームのツリーが描かれていて、スプーンをいれるのがすごくもったいなかった。

 愛美花ちゃんはいつも美味しそうに何でも食べる子だったけど、今夜のコースは本当に気に入ったみたいだ。運ばれてくるお皿を見ては歓声を上げて、嬉しそうな笑顔を僕にプレゼントしてくれる。実はこのコースには他のレストランよりも2割くらい高い値段が付いていたんだけど、そんなことはもう気にならなかった。愛美花ちゃんが喜んでくれるんだったら、多少懐が痛んだっていい。

 でも……僕にとっては、次々に運ばれてくるコース料理よりも、目の前の彼女の方がずっと素敵なごちそうだった。

 だって、本当に可愛いんだから、愛美花ちゃん! これって、クリスマスにしか着られないんじゃないの? と言う感じの真っ赤なベルベットのワンピース。首の周りにはふわふわのファーがくっついていて、同じものがブレスレットみたいに手首に、そして足首にも巻かれている。珍しくアップにまとめた髪の毛には、たくさんパールが付いていた。どうも、半休を取って美容院に行ったみたい。気合いが入ってる。

 普段よりもきらきら見える笑顔が鈴のような笑い声を乗せてきて、僕の胸を震わせる。彼女と一緒に過ごすクリスマスってこんなにも素晴らしいものなんだとしみじみとしてしまった。静かに流れるオルゴールのクリスマスメロディー、控えめなイルミネーション。その全ては目の前の彼女を輝かせるためのエッセンスなのだ。心からそう思った。

 

 ここに来る前に、お互いのプレゼントを交換した。

 僕は、いつかふたりでウインドショッピングをしていたときに、愛美花ちゃんが立ち止まってずっと見ていたアクセサリーのシリーズ。ゴールドとシルバーの小さなハート形が重なり合ったピアスを贈った。小さいけど、ちゃんとプチダイヤが付いてる。値段もそれなりに張った。でも財布からカードを出すときに、すごく満ち足りた気分になったんだ。

 愛美花ちゃんからは、いかにも手編みですと言う感じのマフラー。すごく凝った編み目の模様で時間が掛かりそうだ。それを恥ずかしそうに真っ赤になって手渡してくれる彼女が可愛くて、胸まで暖かくなった。すぐに取り出して首に巻いたら、愛美花ちゃんが腕を回してくれてるみたいでたまらなく嬉しくなる。

 

 ああ……いいなあ、クリスマスって。

 そんな風にぼんやりと幸せに浸りつつ、コースの最後、デザートを食べていた。小さなシュークリームをいっぱいに積み重ねたツリー型のケーキ。その中身はバニラのアイスクリーム。暖房に火照った身体にはひんやりと心地よかった。


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