TopNovelヴィーナス・扉>シンデレラの赤い靴・番外4

それぞれのヴィーナス◇初代の未来(の、番外編)
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「あ、……あのっ……、先輩……」

 東南向き、日当たり良好な部屋は明るい春の日差しに溢れていた。まるでモデルルームのチラシに掲載された美しい写真のように完成された「絵」。
  うん、いいぞ。やはり多少の無理をしてもこの部屋を手に入れたのは正解だった。快速の停車する駅から早足で五分、緩やかな高台にあるから眺めも最高。十階のこの部屋からは天気の良い日には遙か遠く海が見えたりする。

「どうしたの? 早く中にお入りよ、遠慮しなくていいんだから」

 余裕の微笑みを浮かべる僕、対して恥じらいの気持ちを身体全体から滲ませている彼女。何とも対照的なふたりではあるが、それでも僕らがベストカップルであることは間違いない。

「え……、でもっ。その、……いいんでしょうか?」

 そう告げる間にも、もう顔が真っ赤になっている。本当に君はどこまで可愛らしいんだ、未来。初々しく戸惑っている仕草もたまらなくそそられる。いや、やばいぞ。このままでは我を忘れて暴走してしまいそうだ。だがそれも仕方あるまい、僕から平常心を奪い取るのは他でもない目の前の彼女なのだから。

「さ、疲れただろう。朝から色々大変だったからね。でも、もう大丈夫だから安心しなさい。今何か、飲み物を用意しよう」

 スーツをゆっくりと腕から抜いて、クローゼットに掛ける。我ながら、気持ちよくすっきりと片付いた部屋ではないか。ここ数日は気持ちが荒んでいたために少しばかり手を抜いてしまった感もあるが、それでも平均レベルの男子の部屋と比較したら花丸印を与えられるはずだ。戸棚の中だって、何処を覗かれても恥ずかしくない、もちろんキッチンのシンクもピカピカで雫ひとつ落ちてない。
  ひとり暮らしにはおよそ似つかわしくない大型の冷蔵庫を開けて、少し考える。まだ昼前であるが、少しぐらいのアルコールなら大丈夫だろう。ほんのりと香るくらいの量にすれば、彼女の緊張も解けていい感じになるかも知れない。

「今日は、僕の部屋に案内しようか。その方がゆっくり出来るでしょう」

 ふたりして、社長公認に早引けして向かった先はいつかは彼女を迎え入れたいと着々と準備を重ねていた僕の部屋。努力の甲斐あって、完璧に近い仕上がりになっている。
  以前も話したとおり、未来に出逢ってからの僕は現実志向の出来る男に生まれ変わっていた。今時の男は「上げ膳据え膳」で構えていては始まらない。女性に気を遣わせない気働きを身につけなければならないのだ。しかもあくまでもスマートに。間違っても「やってやる」という気持ちがはみ出しては駄目だ。

「うわ、すごい。……こんなに広くて、お掃除大変そうですね。でもとても綺麗、もしかしてハウスクリーニングの方に来ていただいているんですか?」

 昨日と同じスーツを着ている彼女は、たどたどしい足取りでようやくリビングに辿り着いた。借りてきた猫のようにきょろきょろと辺りを見渡している。全くもう、そこまで緊張しなくて良いのに。ここは今日から君の部屋でもあるんだよ。これからゆっくりと、未来の色を添えていって欲しい。

「ふふ、そんな無駄遣い出来るわけないでしょう。君も知っているとおり、普段は寝に帰るだけの部屋だからね。正直、散らかしようがないという感じだよ」

 そう説明しながら、対面式キッチンのカウンタにグラスをふたつ置く。淡いピンクに色づけされたシードル、彼女にぴったりの飲み物だ。

「えー、でもっ……それでもこんなに綺麗だなんて……びっくりです」

 うんうん、これくらい驚いてもらわなくては。血の滲むような努力には、いつもそれに見合うだけの報酬が必要だ。仕事でもプライベートでもそれは変わりない。この先はもう何も遠慮することはないのだ、思う存分彼女のために尽くして見せよう。

「ほら、ここに座って。少し喉を潤した方がいいだろう、今朝もほとんど食べられなかったみたいだからね」

 彼女が今朝口に出来たのは、パックいりの野菜ジュースを半分と卵のサンドイッチをひとかけらだけ。もっとお食べと勧めても、どうしても無理だったようだ。

「あ、……ありがとうございます」

 アルコール三%ほどだから、彼女にとってはほんのりとする程度だろう。控えめに動く喉のラインが僕を誘う。グラスが空になるのをかろうじて待ってから、その場所に唇を寄せた。

「え、……あ。駄目ですっ、そのっ、……先輩っ……!」

 当然のことながら、彼女は激しくあらがう。このように明るい部屋、真っ昼間からの暴挙にはどうしても従うわけにはならないといわんばかりだ。しかし、そのような抵抗に従う僕じゃない。あっという間にスーツとブラウスの前ははだけ、可愛らしい下着が姿を見せた。

「もう待ちきれないよ、未来。さあ、君が僕のものであることを改めて証明してもらおうか」

 昨夜は初めてだった彼女ではあるが、なかなか良い感度をしていることは分かっている。ふっくらと柔らかい胸、そこに咲く花色の頂。硬く膨らんで、僕を待っている。

「……やぁんっ、先輩……!」

 丹念にすくい上げて揉みほぐしたあとに、唇での愛撫を追加する。じんわりと汗ばんでいく肌、ここまでになっていればもう十分に準備は整っているはずだ。でも、まだ待とう。彼女が完全に自分を手放してしまうまでは我慢しなければ。その先に待っている終わらない楽園のために。

「いいんだよ、もっと大きな声を出しても。ここは防音もバッチリだからね、角部屋だし隣の部屋のことを心配する必要は全くないよ」

 ふふふ、我ながらいやらしい発言だな。でも、この部屋を購入するときにそのことをまず最初に考えたのは本当だ。誰にも邪魔されず時間の制約もない場所で、飽きることなくお互いを確かめ合う。それこそが僕と未来の行き着く場所なのだ。

「やぁっ、駄目っ。こんなの、駄目っ! ……駄目なのっ……!」

 可愛い唇は相変わらず否定的な言葉ばかりを吐き出すけれど、ここまで乱れてしまってはもう欲望に染まってしまったことを隠しようもないだろう。膝の上に抱きかかえて片方の手と唇で両方の胸を愛撫し、もう一方の手はさらに敏感な場所を刺激していく。ずぶずぶと出入りする指は二本から三本に増え、彼女の中からしたたり落ちるもので手のひらまでがべっとりとしている。

「そんなことないでしょう、さっきから未来は僕の指を美味しそうに食べているよ? ほぉら、こうしてよだれまで出しちゃって。本当にお行儀の悪い子だね、お仕置きをしてあげよう」

 我ながら、かなりオヤジが入っている台詞だなと思う。でもいたぶる言葉に身体をくねらせる未来は格別に魅力的だ。ああ、こんな風に楽しんでいたら、僕の方もいい加減限界に来ている。慌てて服を脱ぎ捨てると、硬くそそり立った部分が下着から飛び出してきた。

「……さ、未来はこれが欲しい? どうなのかな、ちゃんと教えてくれないと分からないよ」

 それでも彼女は往生際悪く首を横に振り続ける。全くもって強情な子だ、自分の身体がもう後戻りの出来ないところまでいってしまっているのは分かってるのに、この上に何を迷う必要があるのだろう。

「や、やぁっ……やめてっ! そこは、駄目。駄目なのぉ……っ!」

 大きく膨らんだつぼみを探り当ててつまみ上げると、彼女はもうたまらないといった様子で腰をくゆらせた。自分が今、どんな状態でどこにいるのか、もうそれすらも分からなくなっているのだろう。

「欲しい? ……入れてあげようか」

 かすれる喘ぎで何かを訴えようとするが、とても声にはならない様子だ。緩んだ涙腺からこぼれ落ちる雫、だけど決してこの行為を嫌がっているわけではない。

「ほら、お出で。……未来が自分で入れるんだよ?」

 ソファーに腰掛けた僕は向かい合わせに彼女を抱え、その腰を持ち上げる。そそり立った部分にゆっくりとあてがうと、難なく彼女の腰が沈んだ。

「……っ、ふぁっ……!」

 びくびくっと数回背筋を震わせたあとに、彼女はぐったりとして僕に寄り添った。その口元から、また深い吐息が漏れる。太ももの内側は激しく震えて、雫が絶え間なく溢れてくる。

「嫌だなあ、もうイっちゃったの? 勝手にひとりだけ気持ちよくなって、いけない子だね」

 いや、実際はこの上なく最高だと分かってる。何でこんなに素直なんだ、僕の言葉には忠実に従うし、それでいていちいち恥ずかしがって楽しませてくれるなんて。もうこうなったら、こっちも存分に楽しませてもらうぞ。このソファーはスプリングもバッチリでしかも頑丈。さらに十年保障も付けてあるから何があっても万全だ。
  彼女の身体をしっかり支えると、勢いを付けて何度も何度も突き上げた。そのたびに彼女の口からは言葉にならない声がほとばしり、唯一自由になる首を激しく振り続ける。

「……せんぱ、い……だめっ、こんな……いじわる、しないで……!」

 もう、何を言っているのやら。可愛いから虐めたくなるんだ、そんなの当然じゃないか。それに「駄目」って言いながら、君はとても喜んでいるんだよ、未来。それが分かるかい、こんなに僕を締め付けて離そうとしないじゃないか。

「ほぉら、もっともっとあげよう。……こういうのはどうかな? もっと気持ち良くなるだろう」

 ああ、止まらない。自分でも分かっているけど、これはどうしようもない暴走状態だ。未来はもう息も絶え絶え、何度も何度も繰り返して許しを請う。でもまだ僕は諦めなかった、何しろここに辿り着くまでにどれくらいの我慢を強いられたと思っているんだ。彼女はこれから先、僕に全てを捧げなくてはならない。そしてもちろん、僕も彼女に全てを捧げよう。

「ああ、せんぱ……いっ! もう、……もうゆるしてっ……だめっ、これ以上はどうしてもだめなのっ……!」

 びくびくと身体を震わせて幾度めかに未来が果てたときに、僕も後を追うようにして彼女の中に全てを吐き出していた。それでもまだ満足など出来るはずもない。つなぎ合わせたままの部分はあっという間に元通りに復活していく。それを知ってか知らずか、彼女は未だに意識を手放したままで僕にぐったりと寄り添っている。

「……さあ、未来。これからが本番だよ?」

 せっかく手に入れた休みだ、存分に利用しない手はない。しかも今の僕らには「既成事実を作る」という大切な使命もあるんだ。彼女だって、そのことについては異存はないはず。僕のことを心から愛してくれるなら、全身でそれを教えてもらおう。僕の人生は彼女のため、そして彼女の人生は僕のため。一瞬でも他の奴にうつつを抜かすなど、この先は絶対に許さない。

「だから、未来は最高なんだよ。……君の全ては僕の意のままだ」

 危ない世界に片足を突っ込んでいるんじゃないかと思われても、否定できない。でもどうして、彼女を前にして平常心が保てるものか。それでも立派な社会人である僕は、明日からはなお一層グレードアップして仕事に臨まなくてはならない。そのためにも、今日は一日気が済むまで彼女との時間を楽しむんだ。

 職場での僕は、今日までも明日からもクールな二枚目だ。しかし一枚皮をめくったその先にある真実を知っているのは彼女だけ。

 ―― 僕らが「似たもの夫婦」になれる日も、そう遠くない。

 壁の鳩時計が何時を告げたのか数えることもせず、僕と未来は第二ラウンドへと突入した。

 

おしまい(090823)
ちょこっと、あとがき(別窓) >>


 

2009年8月25日更新

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