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〜こうちゃんと花菜美・10〜
…1…

 

 

「…ちょっとぉっ! 待ちなさいよっ!?」

 

 とある4月の日曜日。

 ぽかぽかの上天気。お洗濯もお布団干しもみんなやりたいまぶしい朝。斜め上空から注ぎ込む暖かな春の日差しに照らし出された、清閑とした住宅街…。そこに突如として響き渡る奇声。

 

「孝雄くんっ! 待ちなさいって言ってんのが、分からないのっ!」
 私はシーツと掛け布団カバーを抱えたまま、どたどたと廊下を走る。女らしくないのは百も承知、休日の朝っぱらから、わめき立てるのはご近所迷惑だと言うことも分かっている。

 でもっ、でもっ…!

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」…じゃなかった、「気を付けろ、車は急に止まれない」という感じだろうか。この怒り、もう収まらないのよ〜、き〜〜〜〜っ!

「やっだ、ぴょ〜んっ!」
 ひょろひょろと背丈ばかり高い大泉家3男坊。孝雄くんは、そんなふざけたことをほざきながら、ひらりと身をかわす。あんた、それでも今年で22歳? いい加減にしなさいよっ!

「…っ! きゃあっ!?」
 かくっと、90度ターンした背中に続こうとして、シーツの裾に足を引っかけてしまった。そのまま、ずるりと前に蹴っつまずく。

 ぐらっと視界が反転。いやん、両手で色々抱えていて、手も付けないっ…!?

 …とと。

「おいっ、水橋…っ!」
 いきなり背後から声がして、ぐっと抱き起こされる。私は床と接触するのをどうにか回避することが出来た。

「あ…、こうちゃん。ありがとう…」

 うわ、いきなり後ろから抱きしめっ! だわ。

 そりゃそうよね。ようやく結婚式から5ヶ月。まだまだ湯気が立っているくらいの新婚さんだもん。そう思いつつも、頬が赤くなる。私のピンクのハウスウエアに腕を回しているのは、他でもない、愛しの旦那様・こうちゃんだ。

「…どうしたんだ? 孝雄が、また何かしたか?」
 私のときめきなんて気にも留めず。こうちゃんはさっさと私の体勢を立て直すと、腕を解く。
 ねええ、こうちゃんてば〜、朝のキスは? そう言うのってないのっ!?

 振り向いてみると、こうちゃんはすっかりとお出かけのスタイルになっていた。今日は1日、監督をしている少年野球チームの試合なんだそうだ。こうちゃんもユニフォーム姿。結構似合っている。

 大きな身体、とにかく縦にも横にも大きくて、目の前に立たれると壁みたいなんだけど…この春、新調したばかりの新しいユニフォーム、すごく似合っている。白地のメッシュで、胸にブルーで文字が書いてある。半袖の袖口から伸びたアンダーウエアの袖もブルー。きりりと黒いベルトして、うん、なかなか決まっている。

「どうも、こうもないわっ!?」
 旦那様のりりしい姿にうっとりしながらも、私の口はぺらぺらと動く。結婚するまではひとり暮らしだったから、そのころと比べるとしゃべる量が10倍にはなったと思うわ。声の大きさだったら、100倍かも知れない。ああ、本当に一戸建ての結構大きなお家で良かった。

「私、洗濯のすすぎをしてたのにっ。そこに孝雄くんがいきなり来て、作業着をぶち込んだの…!」

「…うわっ」
 さすがのこうちゃんも、驚いてる。

 

 そりゃそうよ。だって、孝雄くんは去年まで勤めていたゲーセンがこの不況で撤退してしまって、いきなりプーになってしまったのだ。でも、彼は一応父親、妻子持ち。働かなくちゃ、いけない。と言うことで、こうちゃんのお友達の家がやっている、自動車の整備工場の下っ端に入れて貰ったのだ。

 自動車の整備工場よっ! 油の流れたコンクリートにはいつくばって作業した服よ!? …それをっ!

 

「洗い直しなの〜、今日は私だってお出かけなのにぃ…」

 もう、思い切り拗ねちゃうわ。だって、すごい早起きして、私、頑張ったんだもん。久々の休日よ? 私だって、平日はお仕事してるんだから。その分、ぴかぴかに磨き上げていたのだ。主婦として、それくらいやらないとね、お出かけできないわ。だから、ここで孝雄くんのせいで30分のロスをするのは大きい。

「う〜ん、申し訳ないね。あとで孝雄には良く言っておくから…本当にあいつは、全く…」
 そう言いながら、こうちゃんは私の頭に大きな手を置いて、なでなでする。ああん、こうちゃんっ! ほっぺにちゅーの方がいいなあ…まあ、無理だろうけど。この家、ギャラリーが多すぎなんだもんなあ…。

「じゃあ、行ってくるよ? 今日は試合の後に打ち上げがあるんだ、夕飯いらないから。よろしくね」
 こうちゃんは優しい笑顔でそう言うと、カバンを肩にかけ直す。そして、私の身体を隅っこに寄せて、追い越していく。

「あ…行ってらっしゃい…」
 シーツと布団カバーを抱きしめたまま。私はその広い後ろ姿を呆然と見送っていた。


「あ〜、いたいたっ。花菜美さ〜んっ!」
 後ろから、また別の声がする。振り向くと、立っていたのは四男の千春くんだった。

「シャツのボタンが取れちゃって。悪いけど、付けてくれない? 今日、これをどうしても着ていきたいんだ…」

 …ふうん。

 大泉家、一番の優男の差し出すチェックのシャツを受け取る。えんじ色とピンク色の微妙なチェック。あらん、ブランドモノだ〜。…ははん。

「なあに? 千春くん、今日はデート?」

「えへへ、分かる?」
 明らかにこっちの視線を意識した角度で、やわらかい前髪をかき上げる。今の頭は「タッキー&翼」の翼くんのと同じだわ。もう、千春くんはちょくちょく髪型を変えている。ついでに言うなら、眼鏡のフレームも変わる。一体、いくつ持っているんだろう。

 …知ってるわよ。今のバイト、ホストまがいの仕事なんでしょ? こうちゃんが聞いたら気絶しちゃうわ。

 千春くんは大学2年生。今、一番いい時よね。学校はまだまだ続くし、バイトはおいしいし。きっとこの見てくれと、仕草ならモテると思うもん。本当、兄弟でどうしてこんなに違うんだか。

「…待って。すぐに付けてあげる」

「サンキュー♪ よろしくね〜。あ、花菜美さん、美容院に行ったでしょう? 髪の色が変わってる、可愛いね」
 遅めの朝ご飯を食べるため、彼は食堂に向かう。すれ違うとき、私の髪の毛をつん、と引っ張った。

 …おいおい。兄嫁に「可愛い」はないだろう。私はあんたよりも年上なのよ? そう言いつつ、悪い気はしない。一度、そのホストクラブとやらに潜入してみたいものだわ。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ *** ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 私の旦那様・こうちゃんは5人兄弟。男の子ばかりの兄弟で、こうちゃんは一番のお兄ちゃん。だから、下に4人の弟がいる。こうちゃんは10月のお誕生日で29歳。

 去年の11月。出会って2年近かった私たちは、めでたくゴールインした。私はこうちゃんのことが大好きで、ずっとずっと一緒にいたかった。こうちゃんは仕事が忙しくて、その上、少年野球の監督もボランティアでしてるから、お休みが少ない。デートだって、お日様の下を歩いたことなんて数えるほど。ほとんどが晩ご飯デートだった。こうちゃんの終電までのシンデレラ。

 だから、結婚したらずっと一緒にいられるって、すごく嬉しかった。もちろん、その通りよ。結婚後は泊まりの仕事はあまり入れなくなって、毎日ちゃんと家で晩ご飯を食べる。私はお料理はそんなに上手でも下手でもないんだけど、頑張ってる。

 こうちゃんちはもうご両親が他界されてる。だから、結婚後、私がこの男所帯に転がり込むのはまあ、自然の成り行きだったのだ。もちろん、周囲の人は心配したわ。でも、愛があるから大丈夫だと思った(瀬戸の花嫁風に…古いけど)。

 もちろん、予期せぬ大変なことはたくさんあった。何しろ、男ばかり、家の中も埃っぽい。ご両親が亡くなってしばらくは、お母さん方のお祖母ちゃんが泊まり込みで面倒を見ていてくれたんだって。でも腰を悪くして田舎に戻られて。今では5人でどうにか生きてきた。と言うと大袈裟だけど、今はコンビニもあるし、どうにかやっていけるのよね。

 最初に驚いたのは、ご飯釜がいきなり1升炊きだったことだ。5合炊きだと、1回分に足りないと聞いて仰天した。一度1升のお米を一度に研いだことがあったのだけど、すごかったわ。もう、重いこと、重いこと。次の日に筋肉痛になっちゃって、右手が挙がらなくなって。こうちゃんにマッサージして貰ったんだった。
 でっかいお鍋に一杯の豚汁を作ったときには、お鍋が持ち上がらなくなった。コロッケもひとり1個や2個じゃない。4個5個は必要なんだって、初めて知った。男物のトレーナーはびっちり干すと、洗濯ピンチが壊れちゃう。間を空けて干さないと駄目。ジャイアント馬場の靴みたいなのが散乱する玄関を片づけるだけで一苦労。アイロンを掛けると何時間もかかる。
 私が腰痛になって、整体に通い出した頃、こうちゃんが見るに見かねて家族会議を開いてくれた。それからは私の家事負担がだいぶ楽になったけど、それでもこのごろ二の腕にむきむきと筋肉が付いた気がして怖い。今年はノースリーブがきついかも知れないなあ…。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ *** ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 まあ、充実した毎日よ。私の実家はお兄ちゃんが一人しかいないふたり兄妹だったけど、今では弟が4人もいるんだもん。じゃあ、顔ぶれをざっと紹介するわね。

 こうちゃんよりふたつ年下なのが次男の新司さん。こうちゃんと私は3歳違いだから、私、新司さんのお姉さんになるんだけど、年下なのだ。新司さんはデパート勤務、今朝も日曜朝市があるので、6時に出勤だ。それに合わせて起きて、ちゃんと朝ご飯を作ってあげた。ああ、健気な私。
 新司さんはこうちゃんによく似ていて、おとなしくて、でっかくて、いつもにこにこしてる。

 3男はさっきの失礼な孝雄くん。大学生で言えば、今年が4年生。でも彼は高校を卒業した後、フリーター人生を歩んでいる。浪人して大学を受け直すつもりだったのが、バイトが楽しくなっちゃた口。まあね、今時、四大を出たからと言って、就職できると言うことでもないし…。
 その上、この男。しっかりと彼女さんを妊娠させて、去年、出来ちゃった結婚をした 。今はここから歩いて5分くらいのアパートに住んでいる。親子3人で。

 4男が…今の千春くん。もう小学生の頃から、何十人彼女を変えたんだか分からないんだって。同じ親から生まれて、どうしてこんなに違うのか? と言うくらい、こうちゃんに似てない。まあ、がたいのでかい大泉5人兄弟。身長が180センチ越えてる、と言う点は同じ。もう、背後に立たれると壁が出来たみたい。髪の色がちょくちょく紅葉したり、金髪になったりするのももう慣れた。

 …そして。

 とんとんとんと、階段を下りてくる音。みんなの部屋は2階にある。一応、お布団を干すときに入るけど、まあ、みんなそれぞれね。そのうちに掛けっぱなしのカーテンとか、新調してあげたいなと思ってる。

「…あれ。雅志くん、お出かけ?」

 降りてきたのは末っ子の雅志くん。予備校生だ。3月まで受験生だったんだけど、1月のセンター試験の成績が振るわなかったので、早々に浪人を決めた。大泉家で浪人なんて出さないから(孝雄くんは例外ね、あいつは浪人を決めたときに「もう駄目だろう」と周囲から言われてたんだって)みんな、びっくりした。だって、有名私立大にだって、簡単に入れるような成績なんだもん。

「あ、…今日は模試があるから」
 雅志くんはマッシュルームカットをさらさらさせて、ちらっとこちらを見た。髪の毛も染めたりしないで真っ黒だ。洒落っ気とかないみたい。彼女の噂も聞かない。どうも、新司さん(次男)にすら、いるみたいなのに…。

「あら、やだ。言ってくれれば、お弁当詰めたのに…」
 今日は自宅学習だと思っていた。だからお昼はお皿に並べてある。でも、ちょっとお弁当向きじゃないなあ…。聞いておけば良かった。もう…何も言ってくれないから。

「いい。パンでも買ってく」

 すっと音もなく通り過ぎる。肩掛けのカバンをゆらゆらさせて、若葉色のシャツを着ている。ああ、あのシャツは洗ったことない。と言うか、雅志くんは自分の洗濯を私にやらせたことがないのだ。布団も自分で干すから、部屋にはいるなと言われてる。

「行ってらっしゃい…、あの、気を付けてね」
 私の言葉は聞こえてるはず。でも一度足を止めただけで、返事もない。そのまま、玄関で靴を履いて出て行った。

 思わず。ふう、とため息をついてしまった。


「…気にしないでよ。ごめんね…」
 ハッと振り向くと、お茶碗を片手に千春くんが立っていた。おかわりをしようとしたときに、私たちのやりとりを聞いたらしい。

「え…あ、ううん。別に、気にしてないから」
 私はさっきのシャツを持つと、ソーイングセットを取りに居間に入っていった。


 …え…!?

 私は、見てはいけない光景を目の当たりにしてしまった。一瞬、呼吸が止まってしまう。

「たっ…、孝雄くんっ!?」
 叫んでみたけど、返事はない。そうだろう、彼はこうちゃんより早く、出て行ったんだから。整備工場に土日は関係ないんだって。お得意様を大切にするから、車を仕事に使わなくてすむ休みの日の修理も多い。

 …でもっ!

 空色のマザーズバッグ。裸のままの紙おむつのMのジャンボパック――そして。

 居間のカーペットの上を、ごろごろと寝返りで動き回る…孝雄くんの長男・豪太郎(生後7ヶ月)っ!?

 へなへなとその場に座り込んでいた。朝の5時から片づけていた私の主婦業。早くも3時間でショートする。表通りを過ぎていくちり紙交換車の明るい声が、とても空しく感じられた。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ *** ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「…出たっ! 子連れ狼っ!」

 ベビーカーを押してマンションのドアを入ると、想像したとおりの反応が戻ってきた。電車を乗り継いで1時間。赤ちゃん連れは結構大変だ。ベビーカーをあちこちでたたんだり、広げたりする。宣伝では「片手で、ポン!」とか言うけど、実際はなかなか上手くいかないのだ。

 よろよろと見上げると、もうはち切れんばかりのおなかを抱えたみどりちゃんがあきれ顔して立っていた。

「だって、仕方ないでしょ」
 今時の赤ん坊にしては丸々と肥えた赤ん坊を担ぎ上げながら、私はぷうとむくれた。


 孝雄くんの奥さんである亜由美ちゃんが、今頃になってインフルエンザに感染してしまったそうなのだ。ぼろぼろになって寝込んでいるので、孝雄くんが赤ん坊を連れ出したんだという。本当は職場に連れて行こうと考えていたそうなんだけど、つい出来心でリビングに置き去りにしてしまった。
 あんた、それは警察沙汰だよ、自分の子を放置しないでよと突っ込みたい。でも携帯の向こうでへこへこしてる孝雄くんを見てると「仕方ないかなあ」と言う気になってしまうのだ。


「孝雄くんたちが結婚するとき、こうちゃんが仕切ったから。あちらのご両親には頼めないのよ」

「…まあ、そうだろうけどねえ…」
 みどりちゃんもお紅茶を入れつつ、同情してくれる。

 亜由美ちゃんのご両親は、家に同居しなさいと言ってくれたのに。それを頑として承知しなかったのがこうちゃんだ。若いからと言っても、人の親になるのだから、実家を頼ろうなんて甘っちょろい考え方でどうするんだ、と言いたかったらしい。まあ、言い分は分かるし正論だ。でも、もうちょっと穏便に済ませてくれても良かったのに。

 おかげで私は2週間に一度は豪太郎の子守をしている。もうだいぶ、板に付いてきた。

「まあねえ、…いいんじゃないの? 花菜美もいい予行練習になるだろうし…」
 みどりちゃんはつやつやしたルージュを光らせながら、臨月とは思えないような妖艶な微笑みを浮かべた。

 今日は卓司さんがお得意様訪問に行ってしまうので、ひとりが心細い、産気づいたら大変だからと私が呼ばれたのだ。実家のお母さんと妹さんはお気に入りブランドのお得意様感謝デーで出かけてしまったんだって。

「…う?」
 綺麗なマンションを汚さないようにプレイマットを敷いて、その上に転がした豪太郎に歯固めクッキーを与えつつ、私は振り向いた。

 みどりちゃんはケーキと紅茶の乗ったトレイを置くと、ずいずいと身を乗り出してくる。

「――で、どうなのよ? 花菜美たちの方は。そろそろ、おめでたの報告とかしてくれないの?」

「え…?」
 そう言うことか。まあ、そうだろう。みどりちゃんは自分の子と私の産む子を同級生にしたいって、結婚前から妊娠しろとうるさかった。オリエンタル美人なみどりちゃんの口から、そう言う話題が出ると思わずどっきりしてしまう。

「早くしてよ〜、こればっかりは仕込んですぐにどうにか出来ないのよ? 言ったでしょう? 時間がないのよ〜」

「そ〜んなこと言ったって…」
 私は豪太郎を転がしたままその場を離れ、みどりちゃんの目の前を突っ切って、テーブルの前に座った。そして、おもむろにフォークを手にすると、宝石みたいなプチケーキをぐさっと突き刺す。

「出来るわけないわよ、報告のしようがないわ」

「…なっ!?」
 私があっさりと言ったので、みどりちゃんが顔色を変えた。一瞬にして般若に変身っ! 美人は怒っても美人なんだけど…妊婦なんだから、そう言う顔は良くないと思うなあ。

「ちょ、ちょ、ちょ、…ちょっと待ってよっ! 花菜美っ!?」

「…あによ〜」
 ケーキを大口に入れてもごもごやっているところを揺すられて、私は不機嫌に反応した。

「も、もしかしてっ! あんたたちって…今話題の『セックスレス夫婦』だったりするっ!? いやん、何考えてるのよ〜花菜美っ! あんたっ、相手変えなさいっ、そうじゃなかったら、人工授精でも何でも…っ!!」

「……」
 もごもごもご。ケーキを食べているので、無言です。みどりちゃんが血相を変えているのに、優雅に頂いてるわ。ああ、おいしいわ、ここのケーキ。

「花菜美ぃ…っ!」

 食い下がるみどりちゃんをちらと見て、私は紅茶を飲み干す。そして、ふっと一息ついた。

「ご心配なく」
 一応、豪太郎の方をチェック。大丈夫、あいつはクッキーがあれば30分はああしている。

「うちは夫婦円満です。…少なくともそんなに少ない方じゃないと思うわ」
 平均、週に2回です。新婚さんにしては少ないかな? でもこうちゃんは忙しいしさ。その割には頑張ってると思うわ。

「…だったら…」
 みどりちゃんはますます青ざめてる。ああ、仮にも妊婦なんだから、あんまり心配させるとヤバイかな。明後日が予定日なんだし…産気づいたらやばいわ。

「…あのね、みどりちゃん」

 ごくりと、息を飲む。何で友達とはいえ、こんなことを報告しなくちゃいけないんだ。ちょっと悲しい。

「こうちゃんね、ずっと避妊してるの、ばっちり。だから、妊娠しないよ? 絶対に」


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