〜 １ 〜
「ヒーローは遅れて現れる・・・」俺の好きな言葉の一つである。
例えば合コンで「そうそう。今日一人ちょっと遅れるから・・・」と言われた時、
神妙に鎮座しているそこにいる男どもがウンコちゃん揃いだったら、貴女はどうだろうか？
多分残された一縷の希望を持って、そのラストマンの到着を待つだろう。
そこで、だ。
そんな感情の中で俺のような男前が現れた場合の感動は
はじめからそこにいた時と同じわけがあるまい・・・
意味は違うだろうが、「ヒーローは遅れて現れる・・・」俺の好きな言葉だ。
しかし旅の初日、約束の時間に３０分遅れ上野駅に到着してその言葉を発して
同行の２名から烈火のごとく罵声を浴びせられた時に
のっけから自分が最悪なポジションに置かれたことを瞬時に理解した。
同行者の２名。
バンブー君
ゼミの同期の男。端整なマスクから発せられるタラちゃんのような会話。
ミステリアスというより、もうなんだかよくわからない男だ。
ナッツー
ゼミの同期の女。”なつみ”という本名から自分のことを「サマービューティー」と
はばからず公言する凛々しさ、というかずうずうしさに、女の強さを見る次第だ。
この２名に私、凡作を加えて、今回のタイ紀行をお送りいたします・・・
・・・って、どういう組み合わせだよ！
尋常じゃあない組み合わせの海外旅行！
男２名、女１名の組み合わせ。しかも「部屋は一緒」だぜ？
付き合ってるわけじゃあないんだぜ？
「まるでドリカム構成ね。」ってナッツーは言ってたけど、
そんな洗練されたもんじゃあないだろう？
レッツゴー三匹、国外追放！って感じだ。マジで。
傍からみたら、どんな３人組に見えるんだろう・・・って危惧してたのだけど
まあ、結果的には他のツアー参加者も変な奴が多かったので、
そんなに目立たなくて済みました。マル。
タイへは、激安ツアーで行くので仕方がないが、
直行便でなく、シンガポールを経由して、タイに到着という行程である。
当然、その間はタバコが吸えない。結構長い時間だ。
なんでも、シンガポールの空港内でもタバコは吸えないらしい。
その当時から私は
タバコを吸ってる時間と空気を吸ってる時間が同じぐらいのヘビースモーカー。
成田から飛び立った後の数時間はそんなでもなかったが、
シンガポールの空港での待ち時間、ロビーに座り出発時間を待つ間には
ニコチン切れによるイライラがピークに達していた。
（ああ〜っ！タバコが吸いてえ！タバコが吸いてえ！タバコが吸いてえ！）
と、頭の中で反芻する俺の横にひょっこり座った２人組の男も、
俺達と同じツアーに参加しているメンバーの２人だった。
一人は村上ショージ似の人の良さそうな男。
もう一人は目の覚めるほどの煌びやかなスキンヘッドの男。
二人ともインパクト抜群だったので、間違えようもない。
イライラを解消しようと、とりあえず二人に話しかけた。
「同じツアーの方ですよね？」
「・・・」
いきなり黙りこくる二人。
村上ショージ似はもぞもぞ、どもってるし、
スキンヘッドは、そもそも話す意思がないようである。
「タイって俺、はじめて何スけど・・・何度目ッスか？初めて？」
「・・・」
どー考えても、楽しそうじゃない。旅行者にはどう間違えても見えない。
ツアーに紛れて、国外逃避でもするのか？この人達・・・
そんな社交性のなさじゃあ、モテないでしょ、アンタ達？
俺の中に巣くった素朴な疑問を素直にぶつけてみた。
「・・・何しに来たんですか？」
初めてスキンヘッドが口を開いたかと思うと
「・・・女を買いに来た。」
はい。すべて了解しました。
そうそう。そこの私達３人を見てるツアー参加の女性の方々。
私だけはこの人達と同じ目的じゃあありませんからね。
・・・当時の俺。
外国の風俗を評論するほど、根性はなかった。