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何はともあれ、タイに到着した我々である。

この旅行のツアー形式は、とりあえずは聞いていたのだが

ほとんどが自由行動であるということ。

だからホテルにチェックインしたら、「後はご勝手に」の世界である。

泊まるホテルはツアー参加者共通で決まったホテルを転々とするが、

他のメンバーが何をしてるかは、わからない。

添乗員が旗をもって「は〜い。こちらですよお!」と行列を引き連れているイメージの私にとって

この形式は非常に心地がよいものである。



さて、ホテルの部屋に入る。ここからがタイ紀行の本番である。



これから始まるタイ紀行。

そのしょっぱなにカマしたのは





「現金3万円盗まれる」という大技。



ああ。ホテルに到着して1時間以内の出来事だ。





海外旅行に疎い俺。

その男が海外に旅しに行くのだから、用心に越したことはない。

そこで俺は金融技術にも用いられる資金の分散という手法を用いることにした。



3万円は財布に、もう3万円は旅行かばんの奥の方に、

そしてもう3万円はババアのストッキングを借り、その中に入れ、

それを腹巻きのように服の下で結ぶという手段
である。

原理は高度でも、手法が農協のオジサン旅行のように原始的であった。



治安のいい国に育ったからか、そこまで神経を張り巡らせて来たというのに

ホテルに着いた瞬間に油断してしまった。



さすがに手馴れたもので、数度の外国旅行を経験していたナッツーは

ちゃんと鍵がかかるか、とかお湯がでるか、とかのチェックに余念がなかったが、

飽食の国、ニッポン男児の俺。「なんのこっちゃ?」とたかをくくっていた。

タイにあるセブンイレブンに興味深々だった俺は、「カメラでも買いに行こうぜ!」と

2人を連れ出し、はしゃいでホテル近隣にあるセブンイレブンへ向かう。



20分ほどしてホテルの部屋に戻る。

かすかな違和感。

ベッドの上においてあったはずの俺の旅行バッグが床においてある。

(?)

ベッドの上においてあったのは確かである。なぜならベッドは2つ。

泊まるのは3人。

俺かバンブーいずれかが

ナッツーとエッチをしない限りは、誰かが床で寝ることになるわけで。

「このベッドは俺が使う!」という意思表示のために、ボン!と置いておいたのだ。

・・・

それが床においてある。

嫌な予感を感じて、即座に金を確認。



ほらね。やっぱないよ。

俺の現金・・・




鍵をかけて外出したわけだし、鍵を開けて入ってきたわけだから、

犯人はホテル関係者に違いない・・・

あのチップをやったボーイか?このホテルの従業員アイツしかいなかったし・・・

ここまでの推理をすると、急にカッと頭に血がのぼる俺。

勢いよく立ち上がり、部屋をでてフロントに向かう。





フロントに着く。そのボーイがいる。



「エキスキューズ ミー!」(日本でいう”おいっ!コラッ!”の勢いで)



この時ほど、自分の英語力の無さを呪ったことはない。

怒りをあらわにして「オイッコラッ!」といきたいのに

何で「ちょっと宜しいでしょうか(訳)」なんだよ。あ〜っ!悔しい!



以降は俺とそのボーイの、つたない英語にてのやり取りが続く。





(訳)



凡作「責任者を出せ!」


ボーイ「今は私しかいませんが。」


凡作「お前しかいない?ホントだな?」


ボーイ「ええ。何でしょう?」


凡作「部屋にあった金が無いんだよ!」



ボーイ「ああ・・・諦めたほうがいいですね。





カチン






凡作「何だよ、それ。鍵閉まってたんだぞ。どう諦めるんだよ。」


ボーイ「誰かが持ってったんですよ。治安悪いですから。

     普通の旅行のお客さんはホテルに現金は置いときませんよ。





カチン





凡作「治安が悪いのは今わかったけど、

    誰が鍵の掛かった部屋に入れるんだって聞いてるんだよ!」


ボーイ「わかりません。」


凡作「わかりませんじゃねーだろ!

    このホテルは手癖の悪い通行人がふらふら部屋に入ってこれるのかよ!」


ボーイ「手癖の悪いのはボーイにも多いですから。」





カチン





凡作「だからお前しかいないんだろ?」

ボーイ「いや。さっきまでいっぱいボーイがいました





カチン



(おかしいぞ。この国。普通客に因縁つけられたら、当ホテルではそんな従業員はおりません!ぐらいいわねーか?さっきからこいつの態度も、いってることもおかしいし・・・こりゃ金は出てこねえな。)



少し途方にくれ、ちょっとトーンを落として、こう語りかけた・・・



凡作「なあ・・・」


ボーイ「なんでしょ?」














凡作「半分でいいから返してくんねーか?」










ボーイいや〜半分は多すぎますよぉ。」







ブチッ!





凡作「コラッ!テメー!

  なんだその言い分は
コノヤロー!




激昂のあまり、当然ここは日本語。



結局、バンブーとナッツーにコトの顛末を話し、

現金を肌身離さず持っていなかった私が悪い、とたしなめられたわけである。



やり取り自体がつたない英語だったので、会話にかなりの勘違いがあったのかもしれない。



が、それ以前に

現金がないのも、単なる勘違いであったらよかった。



性善説を唱える俺にしてみれば、ひょっこり現金が出てきて赤面、というオチが良かった。

しかし最後まで、その3万円が出てくることは無かった。

これより先、何かとボラれ続けるこのツアーにおいて、正直この3万円は大きかった。



ただ願わくは、そのボーイがこの件にはまったく関係が無かったとか、

彼だったとしても幼い飢えた兄弟の為とか、生きる為に仕方なく、ということであってほしい。

俺にとっても大きな金額だが、当時(今も)のタイにとって、何人もの空腹を救える金額なのである。

日本の観光客が遊びの為に、ばら撒くように使うその金は。





ただし、お前。





Go Go BARで豪遊してるところを見つけたら・・・






殺すからな!

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