1.労働省と厚生省の調査から
(1)法定雇用率でみる障害者就労の現状
1)法定雇用率とは
日本の民間企業、国、地方公共団体は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、それぞれ定められた割合(法定雇用率)に相当する数値以上の身体障害者又は知的障害者を雇用しなければならないこととされている。常用労働者数56人以上規模の一般の民間企業は労働者数の1.8%の障害者を雇用するように定められている。重度の障害者については、それぞれその1人の雇用をもって、2人の障害者を雇用しているものとみなされる。
2)障害者雇用率の現状
平成11年度の1.8%の法定雇用率が適用される一般の民間企業(常用労働者数56人以上規模の企業)における実雇用率は1.49%であった。なお、前年との比較のため、集計企業範囲を63人以上規模とすると、前年と横ばいの1.48%となった。
長期的にみると徐々にではあるが実雇用率は上がっている。しかし雇用率未達成の企業は雇用納付金制度に基づき、ペナルティとして一定額を国庫に納めなければならないが、多くの企業は障害者の雇用率達成よりもペナルティの支払いを選択しており、この傾向は大企業で特に顕著である。
(2)障害の重度化と労働に対する意識
厚生省が平成8年7月に行った身体障害者実態調査によれば、全国の18歳以上の身体障害者数(在宅)は、2,983,000人と推計されている。肢体不自由の障害者は1,657,000人いる。
身体障害の程度についてみると、 1・2級の重い障害を有する身体障害者は身体障害者総数の43.2%を占め、割合が増大し、重度化の傾向が見られる。肢体不自由1・2級をみると641,000人(38.6%)で、重度の身体障害者が4割近くいることがわかる。重複障害についてみると、最も重い1級が42.9%を占め、1・2級を合わせると71.5%にのぼり、重度の障害が多いことがわかる。
年齢階級別に身体障害者数の構成比をみると、肢体不自由者の労働年齢である18〜59歳は31.8%となっている。
また同調査は生活実態を調べており、身体障害者の就業の状況をみると、「就業者」は845,000人、「不就業者」は1,958,000人である。肢体不自由者の67.0%は不就業である。
求職活動について、「求職活動をした」と答えた者は、不就業者全体の6.7%である。これを障害の種類別にみると、「求職活動をした」と答えた肢体不自由者は7.0%である。逆に「求職活動をしていない」と答えた肢体不自由者は56.1%で、過半数の人は求職活動をしていない。
不就業の理由についてみると、全体では「重度の障害のため」、「高齢のため」が多い。障害の種類別にみると、肢体不自由では「重度の障害のため」が多い。これらのデータから、高齢のために障害をもった人や高齢者になった障害者を除くと、障害が重度なので就労できないと思っているために、はじめから求職活動をしない人が多いと思われる。
2.日本の障害者雇用の前提
(1)企業が認識する障害者雇用の問題
1995年に郵政省の郵政研究所では『身体障害者の雇用と情報通信システムの利用に関する調査』と題し、企業アンケートを行った。それによると、身体障害者を雇用する上での一般的な問題として企業が認識しているのは「人員が余剰で採用の余地がない」、「通勤や移動の問題を解決するのが難しい」、「安全の管理が難しい」、「施設や設備の改善に費用がかかる」、 「他の従業員と意思伝達・コミュニケーションがうまくいかない」等が多かった。
1)設備面の問題
設備面のコスト負担問題については、早稲田大学の横溝克己らによって、1970年には資本的支出に関わる身障雇用事業所のコスト負担原因が検討されているという 。そこでは、「建物面積の増加と特殊施行」による負担(コスト)発生原因としている。「身障者雇用の事業所(身障者の雇用率を50%と措定しているが)にあっては、健常者のみが就労する事業所と比較し、工場建設費で約1.5倍、宿合関係の資本(的)支出に至っては5倍もの負担が認められることを指摘し、それでもなお、こうした固定資産投資が『容易に生産性に反映していない』と結んでいる」 。
また設備コストはそれらだけではない。障害者が障害を生産の場で意識しないですむ機械の改善・特殊化がある。それらは、作業工程の単純化、作業機械装置の改善、作業補助具治工具の改善などである。それらにも健常者しか働いていない職場の設備よりもコストがかかるのである。
2) 収益効率の悪さ・人件費の増加
また横溝・青山英男らは、障害程度と生産性・能率との相関関係にかかわる詳細な調査と分析も行っている 。「就業可能な障害者の平均能力は健常者を100とした場合、71%〜79%の間の能力指数が最も多」 いのだという。障害の種類や程度にもよるし、これは四半世紀前のデータなので、機械技術の発達や職業リハビリテーションの進歩により作業能力が健常者と変わらない職種が増えてきたことは言うまでもない。しかしそのような職種は技術を要し、障害の程度によっては作業能力の低さを補えられないことも否めないのである。
3) 通勤等の問題
障害によって自動車で通勤したほうがいい人もいるし、自動車の運転ができなければ電車やバスを使ったほうがいい人もいる。公共交通機関の利用ができず自動車免許のない障害者は、家族かボランティアの協力がないと通勤できないことになる。通勤の手段がなかったり、会社から遠かったりすれば、通勤可能な場所に移り住まなければならなくなることもある。そこで出てくるのは生活の問題である。たとえADLが自力でできたとしても、長年の無理がたたり、体調を崩し退職せざるを得なくなるということも多い。
4) 人間関係の問題
また障害者が会社を退職する最大の理由は体調を崩すことではなく、人間関係だという。これは、健常者が正しく障害を理解しないこともある。「やることが遅い」「欠勤が多い」と言ったりすることは、例えば車椅子の障害者をただ単に「車椅子に乗っている人」としか捉えていないことではなかろうか。また障害者自身が障害を妙に意識して、卑屈になったり権利を主張しすぎることにもあるのではないか。さらに特殊教育を受けた障害者は、学校時代教師の目が行き届きすぎた教育を受けるので、打たれ慣れしていなかったり、自分から悩み事を相談することができないまま抱えたりすることもあるのではないか。
(2)職業リハビリテーションの問題
障害者の職業生活における自立を促進するためには、障害の種類、程度、適性等に応じた職業リハビリテーションを実施するとともに、医学的・社会的リハビリテーションを含め、関係機関の密接な連携の下にこれらを総合的に行うことが必要なことである。
労働省では、国立職業リハビリテ―ションセンター等の総合リハビリテーション施設や、国立又は公立の障害者能力開発校の設置を行ってきている。しかし、これらの能力開発校にADLが自力では困難な人が入るのは難しい。障害者能力開発校の多くは入所の形をとり、ADLが自力でできることを前提に職業的社会復帰を目指しているのである。ADLが難しい人々の職業教育の場は少ないのが現状である。
(3)今までの一般就労の前提
今まで企業が認識する障害者雇用の問題と職業リハビリテーションの問題をみてきたが、雇用率に関係する一般就労(企業雇用)では次のようなことが障害者に求められて続けているのではないか。
1.既存の設備で対応できること 2.健常者と同レベル程度の作業能力(作業介助がいらないこと) 3.毎日通勤できること 4.人間関係がうまく築けること2.の作業能力の中には「ADLが自力でできること」が大前提になっている。このうち1.は工夫を含めた企業努力しか解決できないと思われるし、4.は会社内の健常者と障害者の相互理解で克服できると思われる。しかし2.と3.は障害者本人の努力だけで解決できない問題である。「障害が重度なので就労できないと思っているために、はじめから求職活動をしない」と思っている人が多いのは、この一般就労の前提があるためということが多いのではなかろうか。