ベールスプリング2
ミッチェル308/408に続いて、カーディナル33/44について考えます。ところが途中で新事実が出てきてしまいました。
☆文中「89復刻」とあるのは「92復刻」の間違いです。もしかすると91の可能性もあります。(2009/6/29訂正)
私自身はインスプールリールのベールスプリングを折ったことはありませんでした。ところが、今年久しぶりに89復刻33を引っ張り出して使ってみたところ、なんとトータル5回目の使用でポキリ。 私のはLポイントで折れたので、この点に問題があったものと思われますが、ネットで検索して調べたりしたところ、コイルの途中で折れるケースもあるようです。そうなると、そもそもスプリングの設計に無理があるのかもしれません。 |
89復刻33のスプリングを元に描いた図面です。すき間の開け方など、往年のものと違うようですが、これで計算します。 |
33の計算です。 s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ] = [ 186200 * 0.6 * 260 ] / [ 360 * 8 * 5.2 ] = 1939.5 前ページで書いたとおり、「応力」としては数字がおかしいので、あくまで比較値です。 |
続いて44もやってみましょう。 | ^ |
44の計算です。 s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ] = [ 186200 * 0.7 * 250 ] / [ 360 * 10.5 * 5.17 ] = 1667.4 |
ミッチェルと比べると・・・
以上の結果を、前ページのミッチェルと比較しましょう。数字は負担を示すので、小さいほど長寿命だと考えられます。
89カーディナル33 : 1934
90カーディナル44 : 1667
70年代の308/408 : 2066
80年代の308/408 : 1852
90年代の308/408 : 2329
結論(この時点での・・・)
こうしてみると、33が特に折れやすいとは思えません。おそらく89復刻33のスプリングが折れるのは、長すぎるLポイント(当HP内のアブガルシア/リバイバルスピニング参照)のせいだろうと推測されます。
89復刻33は、Lポイントがいずれも(縦も横も)長すぎます。縦に立ち上がっているほうが長ければ、ネジの頭の裏をこすってLポイントに負担をかけ、線材どうしの接触で寿命を縮めることが考えられます。横に出ているほうが長ければ、一番奥の1巻きが壁に固定され、バネとして働いていない可能性もあります。
89復刻33を持っている人は、この左右合わせて4ヶ所のLポイントを、適正な長さに切ったほうがいいと思います。少なくとも、1シーズンももたずに折れることはないのではないかと思います。 (2003/11/24)
上のような結論でおしまいのはずだったのですが、これが新事実。ある人(なぜか最近連絡が取れないので勝手に画像使いました。ゴメン)にいただいた、74モデル33のベールスプリング(右)の写真です。なんとなんと、89復刻(左)の巻き数が5回なのに対し、オリジナルは6回巻きだったのです。 ちなみに負担を計算してみると、 s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ] = [ 186200 * 0.6 * 260 ] / [ 360 * 8 * 6.2 ] = 1626.7 |
あらためて比較してみると・・・
・ 89カーディナル33(5回巻き) | 1934 |
・ 74カーディナル33(6回巻き) | 1627 |
・ 90カーディナル44 | 1667 |
・ 70年代の308/408 | 2066 |
・ 80年代の308/408 | 1852 |
・ 90年代の308/408 | 2329 |
なーんだ、89復刻33は巻き数が少なかったから折れたんだ。よっしゃミッチェルみたいにバネ作ったろ。と、思ったところ・・・。
さらにさらにの新事実。これはついさっき(複製スプリングのテストに使うつもりで)買ってきた、03復刻33から出てきたスプリングです。6回巻きに戻ってるじゃないですか! あぶねえあぶねえ、もうちょっとで6回巻きスプリングを100セット発注するところだったぜ(1セット3000円の試作品はすでに作ったけど・・・)。 |
で、このHPを見ている人の中ににたくさんいると思われる89復刻33オーナーはこう考えるはず。「アフターパーツ買って、6回巻きに組み替えれば安心して使えるぞ!」 うふ。そうじゃないんだな。写真右はつい1週間前に釣具店経由で(これもテストするつもりで)取り寄せた、33のベールスプリングです。まだ5回巻きのままなんです。 |
あっけない結論
33のスプリングが折れたことについての結論は、89復刻版がとんでもない設計変更をしておった、というなんともあっけないものでした。
恐らくスプリングがベールを閉じる力を増して、製造ラインでの作動不良(半開き)を減らそうとしたのでしょう。耐久性、使用感ともに百害あって一利なしです。某サイトでベールアーム(アームカム)が割れた写真が載っていましたが、これも5回巻きスプリングのために閉じる衝撃が強くなっていたからだと思います。
スプリングの複製? しませんよう。ミッチェル308/408と違って2本1組だから費用は倍かかるし、作ったところで6回巻きのアフターパーツが出てきたらわやですもん。
ピュアフィッシングジャパンさんが6回巻きのアフターパーツを出してくれることを信じて、このページを終わります。 (2003/11/24)
計算上の“曲げ応力”の数字でいくと、たとえ5回巻きでも89復刻33は70年代のミッチェル308/408より寿命が長いことになります。しかし、70年代のミッチェル308/408は何年も使ったという話がありますし、少なくとも1シーズンで折れるというようなことはないはずです。やはり89復刻33の場合、Lポイントがそうとう悪影響を及ぼしていたか、そうでなければ計算式がまったく当てはまっていないということになるのかもしれません。 (2003/11/26追記)
追記:前のページに補足したようにステンレスばね材の許容応力を1500N/mm2(153kgf/mm2)とすると、カーディナル33と44はおおよそこの数値を守って設計されているのがわかります。また、89年の復刻版で33は巻き数を減らすでたらめな設計変更を受けていましたが、44は往時と同じ巻き数だったことが推測されます。89年版33のおかげで「カーディナルはベールスプリングがすぐ折れる」という悪評を立ててしまい、そのため44までスペアスプリングを用意しないといけないと思っている人もいそうですが、この計算値からも(89以外の33も含め)そのようなことはないといえます。(2006/3/31)
私の買った個体に関して、まだ少しスプリングの先がネジの裏に接触していました。ベールアーム摺動部に磨耗した真鍮紛が見えます。チェックして、必要ならスプリングの先をダイヤモンドヤスリなどで削るとよいでしょう。 また、スプリングやベールアーム支点にグリスもオイルも付いていませんでした。いったんばらして、以上の点をチェック、グリスアップ(スプリング、支点、ネジ山に)してから使ったほうがいいでしょう。 老婆心からの追記:カーディナルでもミッチェルでも、ベールアーム固定スクリューはバランス取り、ベールアームのがた止めのために頭が大きくなっています。頭に合わせた大きなドライバーで力まかせに締めると、ネジをつぶしたり折ったりしますから注意して締めてください。サイドカバースクリューも同じです。(2005/11/17) |
あいかわらず、ラインローラーサポートとベールアームを止めるナットを回す工具は付いていませんが、薄めのスプーンのヘッドをカットして削れば、工具になります。
この2点だけ注意してやれば、スプリングも改良(元に戻しただけ?)されていますし、シンプルなリールですから、基本的に壊れるところはないと思います。私の買った個体に関しては、89復刻よりしっかりできているようです。大切にしてあげてください。 (2003/11/24)
Broke ? Broken ?