あらためてコメット
 びっくりしたなもー。この前ネットオークションをのぞいていたら、コメットGSに5万円もの値が付いていました。そんなわけで(?)、コメットとはどんなリールなのか、あらためて見てみましょう。

コメットNo.G1
 1979年に大森製作所が発売した最後のインスプールスピニングがコメットシリーズでした。G1とGSの2サイズで、G1のローターはプロライン101と同じ。ボディーデザインとコンポーネント(*)は同時期のタックルオートのものを使っているようです。

 写真のG1は、自重225g、ギア比1:5.2、スプール径44mmの2000番サイズ。

 参考にGSは、自重175g、ギア比1:5.2、スプール径39mmの1000番サイズです。

*コメット専用に作られた部品は(おそらく)ボディーだけです。左サイドカバーはタックルオートのものを流用。そのため、ボディーのデザインも共通になったのでしょう。インスプール末期に最小限の投資で作られたモデルと言えます。

インスプール構造
 現在売られているカーディナル3や33と同じインスプールです。しかし、ローターの軽さはこちらのほうが上。部品配置だけでバランスを取り、カーディナルのような肉厚部も、ミッチェルの鉛のオモリもありません。写真で見てもすっからかんなのがわかります。

 当然慣性の小さい素直な回転です。このリールをよく使っていた90年ころ、発売されたばかりのトーナメントEX750を買ったものの、すぐコメットに戻ってしまいました。使用感にかかわるのは巻き上げ効率ではなく、低慣性の素直な回転なのです。

 G1でこれなんだから、GSってすごいだろうな・・・。

ベール返し部
 ベールを開いたときベール返しレバーをかける部分は、カーディナルやミッチェルとは逆の支点に設計。これによって重量を分散しています。インスプールですからベールは手で返せませんが、レバーは厚めで“熊の手”にも曲げられにくくなっています(それでもネットオークションに出ているインスプールリールの中にはベールワイヤを思いっきり曲げられてるのがありますからねえ・・・頭の中が熊以下の人がいっぱいいるようです)

 ただ、欲を言うなら、レバーをかけるプレートは樹脂など軽いものにして、重みを持たせるのはネジの頭にしたほうが、ベールを閉じる衝撃が小さくなるでしょうね。インスプールでは起きないでしょうけど、ベールワイヤの疲労破壊の心配もより小さくなるでしょう。カーディナル33はそういった設計です。いま言っても仕方ないけどね。

ベールアーム
 ベールアーム(大森はベールヒンジと呼びました)は樹脂です。これはマイコンなども同じで、私も初めてマイコンSSを見たとき不安になったものです。でも、マイコンSSもコメットも何の問題も起きませんでした。

 でも、金属(右はプロライン101)のほうが質感があっていい?

でもね・・・
 金属ベールアームのほうが高級に見えるかもしれませんが、反対側のベール返し用プレートの厚みを比べてください。ベールアームが重いと、バランスを取るために反対側まで重くしなければならないため、重量増加が2倍になるのです。

 プレスのベールアームはナットが出っ張るので、糸絡みも増えます。やはり樹脂ベールアームのコメットのほうが合理的設計です。

ラインローラー
 一見普通のラインローラーですが、ここが大森リールの一番の特徴といっていいところです。硬質クロームメッキされた真鍮ローラーの中には・・・。

ルーロンスリーブ
 ラインローラーの中には「テフロンに金属を混ぜて適度な硬さを得た」“ルーロン”スリーブが入っています。昔読んだ機械材料の教科書に、テフロンは金属充填剤を混ぜると耐摩耗性が何十倍かになると書いてありました。

 たしかに、私のマイコンSS、コメットG1とも、かなり使い込みましたがほとんど磨耗は生じませんでした(もちろん注油はしていました)。

 同じころシマノやダイワのラインローラーはたいてい直受けでした。見えないところに思想の違いが見えます。

ベール折りたたみ
 これはありがたい機構。ベールアーム下の突起(ベールヒンジストッパー)を押すとベールがたためます。バッグに入れてもベールが変形することはありません。

 私はリールを袋に入れて運ぶ派(道具に対する礼儀だと思っています)なので、今のリールでもこの機構が欲しいです。

改造してます
 これは私のリールのベールアーム裏側。スプリングのLポイントの入る穴をあけなおして、スプリングの負担を減らしています。もう予備のパーツが手に入りませんからね・・・。

 こうすると、ミッチェル用のベールスプリングの使用も可能になります。

ベール返しブレーキ
 リン青銅の板バネは、ベール返しのアタリの前に、軽いブレーキをかけるもの。上のようにベールスプリングを緩めても、トラブルは起きにくいです。これはアウトスプールのマイコンなどにも付いていました。

*思い出したように追記:コメットをはじめとする大森スピニングのローターナットは逆ネジです。(2007/11/21)

ドラグ
 現在のリールと同じフェルトを使ったマルチディスクドラグです。ノブの中のコイルスプリングとのバランスがよく、調整幅がばっちりあります。滑り出しも良好。

 ノブにクリックを付けるようなギミックはしていません(関係ないけどね、最近の高級機はSとDが競争でノブのクリックをどんどん細かくしてしまったけど、あそこまで細かくしたらただの音出しになっちゃって意味がないのと違うの?)

スプール
 スプールは硬質アルマイト処理のアルミダイキャスト。エッジの形はいまひとつ。いっぱいに巻くとライントラブルを起こすので、8分目に巻くことになり、結果的に小さいスプールと同じことになってしまいます。これは惜しいところ。
糸落ち防止
 スプール下への糸落ちを防ぐため、モールが巻いてあります。ただ、私はしゅるしゅる音がするのが嫌で、電気ひげそりでそってしまいました・・・。

 でも、持ってる人はまねしないでね。大森インスプールはこの部分がなで肩(製造ロットにもよりそうですが、プロラインは特にそう)なのでカーディナルやミッチェル以上に糸落ちしやすくなります。(2006/11/17追記)

スプール往復機構
 スプール往復はもっともシンプルなクランク方式。現在では500番サイズの小型モデルでしか見られない機構です。しかし、このサイズくらいまでなら、いいかというところ。

 もちろん減速機構つきのマイコンのほうが回転はよかったですが、ショートストロークで減速すると(密巻きになって)トラブルが増える面もありますから一概にどっちがいいとは言えないところです。

軽合金クランク
 たいていのクランクは鋼板(SPCCなど)にメッキをしたものですが、コメットのは軽合金製です。このへんはただ者ではないところ。

 メインシャフトとの接続がピンになっていて、ネジ式のように緩む心配がないのも注目点です。

内部機構
 ドライブギアは鋼の軸を亜鉛のギアに鋳込んだ2重構造。両側を真鍮ブッシュ支持。鋼の軸だから、ねじ込みハンドルや、ブッシュ支持ができます。これも大森リールの特徴。

 ストッパーはピニオンに掛けるタイプ。ボディー右のスペースをうまく使っています。

 ピニオン後端は受けず、メインシャフトを受けるのはマイコンなどと同じ設計。短いスパンでピニオンだけ受けるより、ピニオンを貫通しているメインシャフトを受けたほうがいいという考え方でしょう。直受けするなら軟らかい真鍮より硬い鋼系シャフトのほうがいいと考えたのかもしれません。じっさい磨耗していませんから、常識的な使用なら耐久性は十分です。

 耐久性評価はベンチテストでも実釣でもなかなか難しいものです。でも、私は、ナビ、P3、レブロスみたいに短いスパン(BBもストッパーの後ろ)でボスだけつけましたという設計より、コメットのほうが意図が見える分好きですね。

ベアリング
 最近のリールは7ボールだ10ボールだとにぎやかですが、コメットは1個きりです。家庭用ビデオの普及で小型BBが安くなる前だったこともありますが、こういうリールのほうが賢く見えますね。

ねじ込みハンドル
 ステラやツインパワー、イグジスト、セルテートも使っているねじ込みハンドルです。これを最廉価版のコメットに使っていたのです。つくづくすごい会社でした。

 使用中に緩まないだけでなく、3回緩めれば即座にたためますから、ワンタッチ並みに便利です。

 ヤフオクで5万円などという下世話な話題で始めてしまいました。こういうことを言うと、それだけの価値があるのかとか、そんな価値があるなら持っていようとか、反対に売ってしまおうとかいう人が出ます。

 なんとか鑑定団の悪影響のようにも思えますが、そういう考え方は間違ってます。ものの価値は自分が決めること。あなたがどれだけ気に入っているかです。

 それはさておき、現在これに相当するものがないのも事実です。だから、大金を払ってまで欲しいという人も出るわけです。

 ミッチェルのページの「私の夢」は狂人の妄想ですが、コメット的リールはより現実的ではないかと思います。もう少しすっきりしたデザインにして、スプールエッジ形状やハンドルノブなどを改良したら、どうでしょう。さらにストッパーをサイレント(インフィニットではない)にしたら、ぜんぜん問題なく現代に通用します。

 一時期、バスの村上某氏がキャリアSSを使っていました。キャリアはタックルオートの樹脂ボディー版、タックルオートのインスプールがコメットです。わかる人にはわかるはずです。

 こういうリールを作って、シマノやダイワをぎゃふんと言わせられたら・・・やっぱ狂人の妄想か。 (2006/11/16)

OHMORI S.S. spinning reels

 高いからいいと思っちゃう人がいるといけないので申し上げておきますが、「ここはいまいち……」のページに書いた大森リールの短所は、そっくりコメットにも当てはまります。これは覚えておいたほうがいいいです。特にストローク不足とライントラブルについては「Broke? Broken?/ライントラブル」をどうぞ。