オリムピック・シャルマン
 70年代終わり(訂正:1974年らしいです。そんな昔だったんだねぇ・・・)の高級インスプールモデルです。HPを見た方からいただいてしまいました。

オリムピック・シャルマン
 70年代に発売されたオリムピック釣具(後のオリムピック、およびマミヤOP)の高級インスプールです。当時としては最高級仕様の3ボールベアリング、超ハイスピードギアを特徴とします。

 私が中学生くらいのときの井上博司氏のムックなどに、L1やエメラルド350などとともに載っていたものです。さて実態はいかに。

 サイズはこれひとつで品番などはなく、スプール径42mm、自重245g、ギア比6.2:1のいまなら2000番クラス。ボディにはダイキャストで作られた「3 BALL BEARINGS」の文字があり、同じボディーで安物を作ることを想定していない高級機専用モデルだったようです。

 もちろんメイドインジャパンです。

インスプール構造
 発売時期を正確に把握しているわけではありませんが、すでにアウトスプールに移行しつつあったにもかかわらず、インスプールを採用。ハンドルデザインやワンタッチスプールなどを見ても、ミッチェルを意識しているようです。

(上で訂正したように74年ですから、33より古い。そうなるとミッチェルを意識しているのももっともでしょう)

 そのインスプールローターですが、ミッチェルより進化しています。大森などと同様、ベール反転機構をベールアーム反対側の支持部にもっていって、バランスウェイトを廃止しています。

 ミッチェル308、408は1960年代の設計ですから、それに対して進化しているのは当然ですが。

ドライブギア
 ドライブギアは亜鉛のハイポイドフェース。軸の部分に真鍮がインサートされています。

 日吉や大森みたいなのですが・・・。

ハンドル
 ミッチェルデザインのハンドルは、なぜかねじ込みではなく普通に反対側から固定するタイプ。なぜわざわざ真鍮インサートなんかやったのか?

 亜鉛は常温でもクリープしますから、亜鉛一体だと軸が太ってベアリングが抜けなくなることがあります。そのせいかもしれません。

 ただ、部品取りになっていたものと写真のものといただいた2台そろって、ドライブギアの真鍮インサートがゆるんでガタガタになっていました。鋳込んだ軸が緩むことってあるのでしょうか? このへんはよくわかりません。ここさえしっかりしていれば、下に書いたベール返しプレートを削り、ベールスプリングを作り直してレストアしようと思ったのですが・・・。

ガンコじゃんか
 これはルーのスピードスピンと同じ。ベールをおかしなところで開こうとするとハンドルに当たります。もちろん完全に開いた状態なら、当たりません。

 ヘンな使い方をする人は無視して、ハンドルをボディーに近づけようという設計。

 私こういうの好きです。

ワンタッチスプール
 ミッチェルと同じ方式のワンタッチスプールです。樹脂製シャロースプール付き。スプールケースも当時のミッチェルみたいですが、とにかく高級品だったということです。

ドラグ
 ドラグはマルチディスク。ワッシャーはファイバー(赤いの)と、茶色いのはなんでしょう。調整幅はまあまああります。ワッシャーは小さめで、滑らかさなどは大森のほうが少し上かなというところ。スプール裏の音出しバネはミッチェルと同じ方式で、バリバリといい音がします。

ラインローラー
 ラインローラーは大森などのようなブッシュ入りではなく、直受けです。軸の中央に油溝が見えます。

内部機構
 スプール往復はコメットのようなクランク式ではなく、減速タイプです。このへんも高級品です。

 アルミを歯切りしたオシュレーションギアも凝っています。

 ストッパーは大森と同じ、ピニオンに掛けるタイプ。ボディー右のスペースをうまく活用し、防塵性にも優れているはずです。

ピニオン後端支持部
 ピニオン後部のボスに歯切りの溝が入ってしまっています。高速化でこうなったのかもしれません。

 かなり使い込まれた個体にもかかわらず、それほどガタが出ていなかったので、これでもいいのかもしれませんが、このへんは大森コメットのほうが、まともな設計に思えます。

ストッパースイッチ
 ストッパー形式が同じなので、大森などと同じ位置にあります。オレンジのワンポイントがおしゃれ。ちょっと背が高めで操作性も良好です。

シャルマンこけた?(おい!)
 かなり力の入ったリールなのに、その後あまり名前を聞いたことがありません。釣り人というのは道具自慢をしたがるもので、今でも使われていれば、ブログ検索などで引っかかりそうなもの。しかし、「オリムピック」「シャルマン」で検索しても、まずいま使っている人はいないようです。

これが原因か?
 リールを下さった方は部品取り用を含めて3台買ったそうです。生き残った2台を送っていただいたのですが、2台ともベールスプリングが写真のような手作りスプリングに交換されていました。しかもかなりバネ力が強い。

 ベールスプリングは、(前オーナーがムリに改造していない限り)少なくとも3本折れたことになります。バネ力を強めに設計してあったために、線材に働く応力が過剰になって、早々と折れてしまったのでしょう。



理由
 ベールスプリングに強い反発力をもたせる必要が生じた理由はこれ。ベール返しプレートaの形状です。

 Aの状態でハンドルを回すと、ベール返しプレートaに掛かっているベール返しレバーbがBのところまで戻ってベールはベールスプリングによって閉じ始めます。

 BからCまでは、レバーbは当たりを乗り越えていて左へ戻ろうとしていますが、ベールスプリングの力でベールが閉じることにより、Cの位置まで押し戻されます。

 シャルマンの場合、ベール返しプレートaの形状が不適当で、BからCまでのレバーbの動き量が大きすぎるのです。だから、ベールスプリングが強くないとレバーbに負けて、半開きになってしまうのです。

 さらにベール返しレバーの位置が低すぎるため、ベール返しプレートがレバーを押す力Fが、レバーを右に押す力F1と下に押す力F2に分かれてしまいます。しかも、F2は下の面との間に摩擦力を発生し、よけいに抵抗が増えます。

 この図では、プレート中心からレバー接触部への距離が増えるため、Fの方向を図のように考えていますが、実際にはプレートは右回転しているので、レバーを左に引き込む力も発生していることになります。

 かなり無理がある設計です。

 部品加工に手間がかかり、寸法管理が大変で、“熊”にも曲げられやすくなるのに、ミッチェルやカーディナルがベール返しレバーを2段に曲げ、接点を上に持ってきているのはこのためです。ただ、こうして見るとミッチェルもレバー位置は低めですね。ミッチェルはBからCへの差を少なくしているのが大きいようです。

 これは大森コメット。レバーの動き方向を上下方向(プレートの中心線上)にしているため、プレートがレバーを無理なく押し戻します。「根っからの機械屋」と呼ばれたという大森氏らしい設計。

 実際、部品取りになったほうのシャルマンのベール返しプレートは、Bの周辺に激しい磨耗が見られます。

 もったいないです。ベールさえしっかりしていれば(ドライブギアインサートも怪しいが使えなくはない)、いまも生き残っている個体はあったでしょう。

 しかし、ベールスプリングの耐久性が低いものがなぜ製品化されてしまったのか?

 それが、いつぞや表紙写真のところで紹介したこれなんですね。耐久規格がしっかりしていれば、ベールが半開きになるのをスプリングの負担を増すのではなく、ベール反転プレートの形状変更で解決していたはずです。

 もしオリムピックがベール耐久規格をせめて10倍(という表現もヘンだが)の25000回としていたら、シャルマンだけでなくL1、エメラルドなどをいまも大切に持っている人は少なからずいたのではないかと思います。

 そうなれば、「オリムピック」の名前にも愛着を持ってもらえて、いまのロッドのみになった新生オリムピックの成績にも影響したかもしれません。

 それはさておき、このリールと同じ仕様で直すべきところを直したものがあったら、欲しくないですか? ハウジングのラインをもう少し洗練したらいまでも十分いけそうでしょう。

 インスプールは、MTのクルマや自転車のロードレーサーみたいなものです。丸いベイトも遠心のベイトもヒットしたんだし、売れると思います。インスプールが欲しいけどカーディナルは左だけだしという左利きの人も喜ぶでしょう。そうでなくてもカーディナルには糸巻き形状など不満点もあるわけですし。

 シマノさんあたりやったらどうですか。これが10年前なら「そんなカルカッタみたいなことすんな! これはミッチェルがやるべきことだ」と私は怒りましたが、もはやミッチェルは米帝資本の一ブランドに成り果てました。こんなリールは絶対出ないでしょう。

 今なら許すぞ(なにをエラそーに)。

(2007/6/1)

Olympic/MamiyaOP