台風とバカ達




最近では珍しくテレビを見ていると、定番とも言える「衝撃映像」の番組をやっていた。その中に、台風が直撃している中でそれをリポートしようとするが、暴風によってリポーターが立っていることが出来ない、という映像があった。「まさに自然の猛威である」等というナレーションが流れる中、私はとあることを思い出していた。


去年、山をやる面子で行った屋久島(一応、私は登山らしきことをやっている)。鹿児島よりフェリーで南に4時間、世界遺産として知られるこの小さなこの島は、実はその大部分が山になっている。九州の最高峰は屋久島の宮之浦岳であったりもする。夏休みを利用して我々はこの島へ行ったのである(私はそれで2回目だったが)。


だが、我々と同じ時期にこの島を訪れたものがあった。台風である。屋久島は有名な多雨地域であるので雨はもとより覚悟していたが、身内では雨男の烙印を押されている私の不運もあって、我々と全く同じ時期に台風が屋久島を直撃した。それも日本の真東から、という狂ったルートを辿ってやってきた狂った台風が(2002年には本当にこういう台風があったのだ)。


鹿児島に集合した我々は台風が迫っていることを知っていた。しかし遠路はるばる鹿児島まで来たのだ、ここで中止して帰るわけにはいかない。とにかく屋久島に渡ることにした。屋久島においてはテント、あるいは山小屋(無人)に泊まる予定だった我々だが、さすがにテントを使用する度胸は無い。なので屋久島上陸初日に山に入り、無人の山小屋にて台風通過を待ち、それから行動することにした。待機する予定の山小屋はコンクリートブロック作りなので耐えうるはずである。


街からタクシーで40分のとある登山口から歩いて60分、川を一つ越えて我々はその小屋に根をおろした。巨大な台風が接近しているのに山に入る者は極めて少ないだろう。この山域に我々以外に何人いるか…。そして台風が通過するのを待つ。


しかし、ラジオの情報によると台風は一向に通過する様子を見せない。風雨は強まる一方だ。屋久島に来ても何もせず停滞したまま3日、ふと来る時に渡った川を思い出した。来る時は石の上を伝って渡れるほどの小川だったが、これだけ雨が降り続いている後ではどうか?(これは結局要らぬ心配に終わったが)。それにこの島に留まっていられる時間も少ない。台風は未だに過ぎ去っていないが、我々は下山(登ってないが)することにした。


下山日、相変わらず風雨は強く、逆にそのことが我々のテンションを揚げる。登山口までわずか60分の道だが、道が水で消滅していたり、例の川幅は増大していたり、と危険ではないがかなり馬鹿げたことになっていた。ずぶ濡れ、ハイテンションになりながら到着した登山口、なにやらプレートの付いたチェーンで入り口が閉じられている。まさか…


「○○登山口は悪天候の為、閉鎖します」


キター!


まさに望み通りの展開。ここでテンションはピークを迎えたか。一応、ここにはバス停はあるが、偶然、道路保全作業車が通りかかったので止めて聞いてみると、この道自体が通行止めになっているらしい。ということは…山中を走るアスファルト道を徒歩で14-15km、しかも台風直撃中。まぁ、ここまで全く行動していなかったのだし、4-5時間ぐらい動いたって良いだろう、と下ることに。


「うわぁぁぁぁっ!」
「痛ぇぇぇぇぇぇっ!」
「ウォォォォッ!?」
「ふざけるなぁぁぁ!」


これ、台風の風速に乗ってくる雨粒を正面から受けたときの叫び声。もっともふさわしい形容詞は「ショットガン」であろう、やはり。後は、ザックカバーが飛んだだけではなく、体重の軽い某君が飛んできて、私に直撃した。宙を舞った訳ではないけども。



こうして我々を襲った台風は、そのまま北上し韓国で多数の死者を出したそうな…よく無事だったな…我々。



(2003/03)



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