敗北宣言




「テレホーダイ」…ダイヤルアップのお供にテレホーダイ…。電話料金も含めて月額固定、回線速度は何とかメガbpsなブロードバンドの時代に、私は未だにこれを得物にして荒波に立ち向かっている。


「ADSLからネット始めました」という人は存在すら知らないかも知れないが、日本におけるネット黎明期~普及期にかけてある程度のユーザーなら多くの人が利用したことのあるNTTの素敵な割引サービスである。


23時から翌8時まで指定した番号への通話が月額1800円(基本の場合)という昼夜逆転人間製造器とも言えるこの割引サービスは多くの人を闇夜と、それよりもより深いネットの海へ引き込んでいった。


23-8時はテレホタイムと呼ばれ、プロバイダ料金さえ固定であればその時間帯はいくらネットをしても料金は変わらなかった。そして、今でもそれにしがみついている…いや、いたのが私である。



いつでも使えて料金固定!高速回線!というあまりに素敵な条件が世に提示されているのは素晴らしいことだ。かつてのテレホマン達も次々と乗り換えていった。


ただ私は「手続きが面倒だから」「なんとなくテレホマン」「テレホマン、夢一杯」「夏だから…テレホマン」という非常にどうでも良い理由で頑なにダイヤルアップ+テレホーダイのスタイルを崩さなかった。



夜の23時に起床して朝8時に就寝する、こう揶揄されるテレホマンは最大56キロbpmという回線速度でネットの世界を駆け回る(正しくは、這い回る)。


どうしても時間外にネットに接続しなければならない場合は、恐るべき神速のマウス捌きでメールボックス、掲示板を次々と開いていき、必要な情報を開ききったに違いないという確信と共に接続を切る。そしておもむろに開いたメールや掲示板を読み始める。


メールチェックに掲示板10個、検索2回を約3分で済ませるこの行為は最早、様式美とも言って良いテレホマンの究極形であろう(私はそんなに速くないが)。最速で返信しなければならないもののみ返信を書いて、送信だけを再び接続して済ませる。返信の急を要しないものはテレホタイムのスタートと共に送信する。


テレホマンからの返信は23時付けのものが多い、掲示板の書き込みがテレホタイムになると激増する、これがかつての日本ネット界だった。



そんな愛すべきテレホマン達は、もうほとんど居ない…



ここからが敗北宣言。私もそんなテレホマンの一員として相当な年数を頑張ってきたつもりである。テレホ歴7年…ネットを始めた頃に出入りしていたサイトや掲示板が未だに存在しているのを発見すると涙が出てくる程だ。テレホタイムに色々なことがあったものだ。


そんな7年の最後の2.3年は既に自分は最後のテレホマンになるのではないか、という感覚を抱きながらのテレホ生活だった。NTTの割引サービスによって生まれたテレホマン達はNTTの手によって、即ちNTTがテレホーダイを廃止することで消滅するのだろう、そう思っていた。



唐突にやってきた電子メール。それは自身が契約していたプロバイダがテレホーダイ対象外になることを知らせるメールだった。ブロードバンドを大きく掲げる契約プロバイダが「ダイヤルアップ接続する奴など死ね、死ね、死んでしまえ」と思っていることは明白だった。


テレホーダイの対象外になればダイヤルアップ接続する者は必然的に壊滅する…テレホマンはNTTの手によってではなく、プロバイダの手によって存在を許されなくなってしまったのだ。


NTTがテレホを廃止するまでは…と思い、プロバイダを変更(ダイヤルアップ接続するためにプロバを変更というのも壮絶な話だろう)することも考えたが、これと同様の話は至る所で聞いている。いずれ、どのプロバイダでもダイヤルアップ接続は出来なくなるに違いない。


テレホマンであること自体は私にとっては極めて快適だ。夜だけの存在であろうと最大56kbpsだろうと何ら不快を感じたことはない。しかし、テレホマンであり続けることがこれ程に罪であることを知っていささか疲れてしまった。


この敗北宣言が私にとって最後のテレホタイムの更新である。もう忌まわしいADSLモデムも届いているしLANボードもある。もう私にとってのテレホタイムは巡ってこないだろう。戦場に残る他のテレホマン達が最後までその使命を全う出来ることを祈って私は土に還ろう。



サヨナラ、テレホーダイ



明日から、より高速な回線で、一日中使い放題で、しかもダイヤルアップ+テレホーダイの約半額のADSL生活(最大1Mだが)が始まる。悔しい



(2004/03)



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