突発!茨城旅行…?




タイトルにエクスクラメーションマークとクエスチョンマークが同居しているのは、突発的であったことは確実なのだが、果たしてそれが旅行であったのかが不明であることを表している。旅行と言うにはあまりに無計画で(突発だから当たり前だが)あまりに不毛であったのだ。つまりそれはこれが良い旅行だったのか悪い旅行だったのかという問題の次元を超えていると言うことである。そして、私(我々)にそのような行動をとらせたものは何だったのだろうか。それがこのレポートから読みとれる保証すら無い。


レポートと言えども、その対象が極端に不毛…何事もなかった…ので全体的に平板な文章になることをあらかじめ書いておくことにしよう。また、同行人については(描写して了解を取るのが面倒なので)個別に触れないことにする。



始まりは11月のとある夜だった。もう4年目になるゲーセンのバイト中の私のところへ一通のメールが届いた。内容は飲みの誘い。と言っても私は仕事中…仕事は日が替わる12時を超えないと終わらないので、普通ならばその飲みになんぞ参加は出来ないはずだった。なので冗談めかして、0時からならOK(つまり実質的に無理)、という旨の返信を仕事の空き時間に送った。


日付の上では既に翌日となる0時半、既に仕事を終えた私は何故か飲み屋にいた。私が冗談として出した返信メールが、飲みの開始時刻を0時半に設定させたのだ。そして、これが一連の事象の源流となるのであった。


深夜0時半からの飲みに現れた時間感覚喪失者は私を含めて4人。飲みは今が何時であるかに依存しないように進んでいく。仕事明けの解放感もあって、私は意識した欲望と無意識の欲望の両方に従って飯を喰らい酒を飲んだ。ふと、机の上にこんな言語音が響いた。「海が見たいなぁ…」深夜2時に生まれた海への欲求。アルコールによる理性の麻痺はそこから旅行への意志を引き出した。



早朝4時。どこへ行くかは未定だったものの、とにかく何処かへ行こうという話になり、居酒屋を出た我々はとりあえず始発で東京駅を目指した。ここで記しておきたいのは…既に酔いが醒めかけているのと襲い来る睡眠欲求によって、恐らく誰1人として旅行へ行きたいとは思っておらず、ただ家に帰りたいと皆が思っていたであろうことだ。ひとりひとりは帰りたがっているが全体になると何故か始発電車に乗り込んでいるという摩訶不思議な現象…これは一体、何なのだろうか。


東京駅へ向かう電車の中で行き先を思案する。双六のようにサイコロで出た数字の数だけ駅を進むというような案も出たのだが、考えてみるとなかなか面倒くさそうだ。そうして色々と考えていると、電車の中に末期的な言語音が…「ねぇ、ダーツの旅ってあったよね」。そして…決定。


持っていたノートに関東近辺の地図を書く。大体、静岡から宮城ぐらいまでの範囲だ。で、赤ペンを投げて当たったところに行く、ということにした。条件は日帰り、そして赤ペンが当たったところへ絶対に行く、この2点。まぁ、関東近辺なら地震で交通が遮断されている新潟周辺にでも当たらない限り大丈夫だろう…と思われるかも知れないが、もちろんそれだけで済むことはない。悪ノリがノートの1ページを埋めていく。


しっかりと浮かんでいる佐渡島、日本海の上にある「九州」「広島」「青森」。太平洋上には「三重」。散見される「秋葉原」「コスプレ居酒屋」の文字(メンツはそれほどヲタっぽくはなかったはずだが)。もし九州に当たったりしたらトンデモないことになるのは目に見えていた。どこの誰が徹夜で酒飲んだ後に勢いで東京から九州へ向かって夕方までに帰ってこようとするだろうか?(恐らく新幹線乗って往復して終了)


意を決したように赤ペンがノートへ向かって飛ぶ…東京駅のホームで。かの東京駅でノートに向かって赤ペンでダーツをする我々。首尾良く赤ペンの先端がノートに当たり、それを確認する…どうか九州や佐渡島に当たっていないように、願わくば下宿に当たっているように、と祈りながら。そしてその結果はもうお分かりだろう…茨城。それも茨城県北部の海岸の辺り(日立よりさらに北)。


かくして、あたかも飲みの帰りかのようであって全く旅行らしくもなんとも見えない連中が東京駅から上野駅へ移動し、そこから茨城へ向かう常磐線に乗り込んだのであった。



常磐線…(グロテスクな表現になるが)平日の朝であれば東京という巨大な生物の口に人々という名の飲み物を運ぶストローの様な存在であるが、この日は土曜日の早朝しかも上野駅からの下りの列車ともなればそこまで強烈な存在ではない。我々が乗った列車は上野駅から千葉、茨城を抜けて福島のいわきまで進むという、夜行でも特急でもない在来線にしてはかなり長い距離を走る列車であると言える(4県を貫く普通列車はどれくらいあるのだろう…)。


が、この列車の中の記憶はほとんど無い。気が付いたら千葉県を抜け、茨城県の県庁所在地である水戸にまで達していた。そこで一度目を覚ましたと言えど私はまだ眠かったし、目を覚ましてすら居ない奴もいる。旅行とは思えぬほど無気力に座席で座り続け…いや、座るという自発的な行為ですらなく…座席で眠り続け、ようやく思考を再開したのが上野駅を出て3時間程経過した日立の辺りであった。


もうそろそろ茨城北部…赤ペンダーツが当たった地域になるのだが、どの駅で降りるかは全く決めていない。しかも、未だ眠り続けている奴も居る。10%ぐらいの覚醒レベルで車窓から外を見る。海だ。太平洋が見える。覚醒レベルが20%にまで上がる。が、線路は海に近づいたり離れたりを繰り返しているので、海に行こうと思えば比較的海が近い駅で降りなければならない。寝ている人の欲求に従っていたら茨城を抜けて福島に入り、終点のいわきまで行ってしまうことが確実だったので、線路と海が近くなっているタイミングを逃さぬように、とある駅で無理矢理寝ている奴を起こして列車から飛び降りる。そこが高萩だった。



高萩市。もともと関東には詳しくない私はこの時までこの場所を知らなかったし、海を見に行こうと言ってしまった偶然、本当に行くことになってしまった偶然、赤ペンがこの辺りに当たってしまったという偶然、何も考えずにこの駅で降りたという偶然が像を結ばなかったらここに来ることはなかったのかも知れない。


言ってしまえばかなり小さな典型的な地方の市、それが高萩というところで、夏には良質な砂浜に海水浴客が集まるらしいが、今はとっくにシーズン外。ここで今年の冬(3月)には九十九里浜へ言ったことを思い出す。晩秋や冬(初春か?)の海というものに何故か縁がある。初めて来た土地ではあるが、(これまでに相当な数を行っている)地方の市に独特の雰囲気はどこも変わらないものだ。まぁ、私も地方の市の出身なのだけども(地方の市にしては割と大きめだが)。


駅前の繁華街と言って良いのかどうか分からない商業地帯を通り(私はこういう空気が大好きだ…あ、でも駅前のイトーヨーカドーは繁盛していたなぁ)、「貸店ぽ」(「貸店舗」のつもりなのだろうが、何故か「舗」だけ平仮名。もうだめぽ)という貼り紙のある廃店ぽの前を歩いて海岸に向かう。駅から5分も歩けばもう海岸だ。無論、海水浴の客なんぞ居るはずもないが、波が高かった事もあってか何人かのサーファーと釣り人が海という非限定空間に居た。


高萩の街の中を歩いて居たときもそうだったが、無目的に歩く連中が不自然でないのは都会だけであって、一歩、都会から抜け出すと我々のような連中は極端に不審な存在となる。だが、殊更に成すべきこと、あるいはミッションが我々にあるはずもない。ただ無意味に、無作為かつ恣意的に海岸を歩き回る。何故か海岸にやたら落ちている納豆の容器はここが茨城(県庁は水戸)だからか?海岸で納豆?海岸の我々と同じ程度に意味が分からない。



テトラポッド(いや、足が6本だったのでヘキサポッド?)…に囲まれた堰堤の先端に辿り着いたので写真を撮る。恐らく夜になると発光するのであろう装置(簡易灯台とでも言うのだろうか)を中心に集合写真やらを撮りあっていたのだが、いつしか笑える顔のどアップ写真の撮りあいになっていたのが、今思うと哀しい。どアップ写真なんぞどこでも撮れるだろうが、と、この時の私に教えて上げたい。私の人生における過去に戻って忠告してあげたいランキングのかなり上位にランクイン。


海を見つめ、一通り写真を撮ったらもう昼が近くなっていた。朝4時半に地元を出て電車で移動すること4時間…夕方までに戻るにはそろそろここを出発しなければならない。よって海岸を出て駅へ戻る。レッツゴー不審者。どこかのアパートの前に鎮座なさっていた猫を囲んで撮影会。レッツゴー不審者。この時期によそ者なんぞさほど見かけないであろう一般の生活空間に闖入する我々。レッツゴー不審者。猫も不審だと思っていたに違いない。


ちなみにここから朝、出発した地元までの電車賃はなんと3000円オーバー。行き、ここで降りて清算するときまでは、まぁ2000円強ってところか?などと思っていた私は精算時に凍り付いた。130円の切符でここまでやってきたのも壮絶と言えば壮絶だが。で、つまるところ往復の電車賃は6000円以上…突発的に決行され、行き先も知らぬまま電車に乗り、(私は)ここがどういう場所か知らぬままに飛び降り、わずか4時間足らずの滞在時間で、しかも何の関係もないバカ写真を撮りあっていた今回の行動の費用としてはどうなのだろうか…って答えてたまるか。答えたら負けだ。



最初からグダグダだったがここから先もさらにグダグダ。せっかく茨城まで来たのだから水戸で降りるか、と水戸で途中下車して適当に飯を喰らい、そして再び電車に何時間も揺られて家に帰った。うん、それだけ。なんだこりゃ?そして、最初の問いをもう一度。これは旅行?



(2004/11)



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