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作:UEHA(no.3)
太陽がそのエネルギーで1日の始まりを生物達に告げている。が、現代の人間で太陽に起こされる人は少ない。起きなければならない時間になると、時計がその主人である人間を現実世界に引きずり出す。
人間はたいてい太陽が光と陰を作り出してから一時間前後で起き出す。時計はその時、持てる力が精一杯使って、その主人である人間を現実世界に引きずり出す。
時計は頑固であるから、太陽が少し早く爽やかさを運んできても、少し遅く心地よさを作り出しても、それには動じない。人間にまどろむ時間すらなかなかくれないのである。だからこそ時計というものは便利なのであり、三文ほど得をすることができるのである。
三文の価値は現代の人間にとっては大したことではない様で、大抵の人間はギリギリまで寝ていて、時計によってデッドラインになったことを知り、うつつを悲しむ。
これは、学生でも例外ではない様で、東京と千葉の境を流れる江戸川近くの私立高校に通う少年もその一人であった。
「やばい。あと10分しかない」
少年は自分の腕時計をちらっと見て、その秒針が12を意味するローマ数字を指していることに気が付くと、それを見計らったように捨て台詞を言って、家を飛び出した。
少年の家から駅までは走って丁度10分の所にあり、今から10分後に丁度少年の乗る地下鉄が駅に到着し、すぐに出発する。
つまり、ギリギリなのだ。
しかし、それがいつもの朝だった。
電車は大抵、時間通りにやってくる。地下鉄も例外ではない。少年の乗る地下鉄も時間通りに駅に滑り込んできた。が、少年はいない。いつものことだ。地下鉄のドアが開いて人が降り始める。そして数秒すると少年が駆け下りてくる。少年は地下鉄に飛び込む。少年が荒い息を車内で二回ほど吐くと地下鉄のドアは閉まり、地下鉄は駅を離れる。しかし、少年の息は荒い。一分ぐらいすると少年は息を整えられるようになり、次の駅に着くころには普通に息をしているだろう。
地下鉄の車内は混んでいた。といっても席や手すりがすべて埋まっている程度で、別に押し合いへし合いしているわけではない。通勤通学ラッシュの中ではかなりましの方である。
少年の降りる駅は2つ先である。
地下鉄は暗いトンネルの中をずっと走っているが、車内は明らかに朝であった。
人の心は知らないところで共鳴し、増大するものである。そして、この車内にも重々しい朝が充満していた。
少年は朝であることを背中に掛かる重さで感じながらも、次の駅を期待していた。
時間はそんなときも流れているから、地下鉄はいつもの通り、次の駅に着いた。
ホームには反対方向に進む地下鉄が、逆方向から向い側のホームに入ってきていた。
2つの地下鉄の車両は同時に止まり、同時にドアが開いた。
少年はこの時をとても大事にしていた。
少年は開いたドアから、向い側の車内を見た。
いつもの様に一人の少女が、いつもの様に開いたドアから、少年を見つめていた。
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