『エリザベート』 2004年3月〜5月帝国劇場公演 観劇記


宝塚雪組の『エリザベート』初上演から、8年が過ぎ去り、今や日本のミュージカル界の上位代表の1つとして、日本上演版『エリザベート』も素晴らしく発展しています。2004年は一部メンバー交代したり、新たに加わった人なども含めて、装いも新たに、東京の帝国劇場で3ヶ月間の熱い舞台を繰り広げました。この後、夏から秋、初冬にかけて、名古屋、博多、大阪と、3ヶ所での公演を控えています。
この辺りで、私なりに解釈した物語や舞台、キャストの感想などを綴ってみたいと思います。

〔物語〕

第1部

ドイツ、バイエルン公爵家に生まれ、伸び伸びと育ったシシィーは、少々おてんばで、父親のように自由に生きてみたいと、大きな夢を持っています。
ある日、木に登り、運悪く落下してしまい、死の入口を彷徨っていた時、トートに出会います。トートとは黄泉の帝王であり、またの名を”死”と呼びます。
トートは人間ではないのに、美しい娘シシィーにすっかり魅せられてしまいますが、「今は少女だから、一旦は人間の世界に戻してあげよう」と思い、そっと、人間界に届けます。シシィーは確かに見たのです、トート閣下を……。

一方、母親ルドヴィカと母の姉ゾフィ(今はオーストリア、ウイーンの皇太后)との計らいで、シシィーの姉であるヘレネの縁談が進んでいました。そのお相手とはウイーン、ハプスブルグの皇帝フランツ・ヨーゼフだったのです。
いよいよ2人の対面の日、皇帝はヘレネやルドヴィカと一緒に来ていた妹のシシィーを大層お気に入りになり、結婚相手として、ヘレネではなくシシィーを選ばれてしまったのです。
周りはビックリ仰天!なかなか計画通りにはいかないものです……。
さて、結婚式の日、黄泉の帝王が不幸の始まりを予言、何となく不吉なものが通り過ぎるのです。「匙は投げられ、帝国の滅亡はすぐそこに〜♪」悪魔の笑い声が響き渡ります。トート閣下はエリザベート(シシィー)を、隙あらば奪いたいといつも見つめています。
皇太后ゾフィーは田舎娘のエリザベートが気に入らない。マックス公爵も娘の事が心配で、この結婚は失敗だと嘆きます。

結婚式翌朝から、皇大后自らエリザベートの部屋に出向き、「義務を果たしたのか?歯は磨いたの?、毎朝5時キッカリに起きなさい、乗馬はいけません、皇后の勤めは自分を殺して古いしきたりに従う事!」等‥を厳しく躾ます。
あまりの意地悪的な厳しさに、エリザベートはフランツに訴えますが、「お母上のなさる事には間違いはない、貴女の為なんだよ」と取り入ってくれません。
更に、1年目に生まれた子供は皇太后の元で厳しく育てられ、エリザベートとは会わせてもくれません。失意のエリザベートはかたくなになり、日々自分の殻に閉じ篭ってしまいます。
そして、悩んだ末に、エリザベートは皇帝に対して「お母上か、私か、どちらかを選んで下さい!」との通告状を出します。皇帝はエリザベートを失いたくないので、「自分の信念を破り、君の要求する事は全部叶えよう」と返事をします。
自分の美貌に磨きを掛け、輝くばかりに美しいエリザベートは、フランツ・ヨーゼフの言葉を有難く受け取り、「私の人生は私だけのもの〜」と自分の考えを貫き、強く生きていきます。エリザベートに生きる意味を与えた事に気を落としたのは、黄泉の帝王トート閣下です。

第2部

幼い皇太子ルドルフの部屋にトート閣下が侵入し、一人ぼっちで寂しくしているルドルフと友達になる約束をします。
一方、フランツ・ヨーゼフは、皇太后ゾフィの企てで、娼婦に汚されます。それを知ったエリザベートは傷つき、長い放浪の旅に出ます。
やがて、青年になったルドルフは、父である皇帝(フランツ)とは意見が合わず、トートが仕組んだ罠にかかり、街の革命家達と謀反を企てます。しかし、それが大失敗に終わり、ハプスブルグの名を汚した反逆者として、父から見放されてしまいます。

そんなある日、エリザベートが旅から帰って来ました。失意のルドルフは母エリザベートに父を説得してくれるようにひたすら頼むのですが、エリザベートは「もう、関係ないのよ」と断ります。只一つの頼みの綱も切られ、目の前が真っ暗になった所に、「待ってました!」とばかりに、トート閣下が手下を引き連れて現れ、いとも簡単にルドルフを自殺に追い込みます。
命を絶ったルドルフの棺の前で、言い知れぬ悲しみに暮れるエリザベート……。そして、再び、旅に出ます。

年月が流れ、あの壮大な権力の持ち主であったゾフィも歳を取り、フランツ・ヨーゼフには「エリザベートを追い詰めたのは貴女だ」と見放されてしまい、急に気力が失せ、ついに黄泉の国に導かれて逝きました。
「せめて、自分達の老後は夫婦で寄り添いたい」と願うフランツ・ヨーゼフは、自ら旅先のエリザベートを迎えに行きます。
美しい湖のほとりで2人は会いますが、心はすれ違ったまま…、エリザベートの心は戻りません……。
数日後、エリザベートは思いがけぬ事故に合い、暗殺されてしまいます。長い長い苦しみから開放されたエリザベート!!やっと、黄泉の帝王トート閣下の元へと導かれます。ー完ー

〔感想〕

死と言うのが憧れの象徴であり、人間の姿をしているのが面白いですよね!
宝塚版と東宝版とは大分違い、かつての東宝版と2004年東宝版とも演出が大分違います。私としては、今年の方がストーリーをしっかりと浮き上がらせた完成版のような気がします。舞台装置も格調高く荘厳な趣がありますし、朽ちてゆく怪しさもそこここに感じられます。
死の分身であるトートダンサーの動きが抑えられ、その立場をわきまえた演出で良かったのではないかと思います。もちろん振付家が前回と違いますけどね。ミュージカルなのでどちらでも良いのかも知れませんが、その辺は好みの問題かも……。

出演者について

皇后エリザベート(少女時代のシシィーも)は一路真輝さん、元々、歌には定評があるのに日々勉強を続けていらっしゃるとか。その成果は大きく、伸びやかな歌唱力がかなりアップしています。エリザベートに成りきり度は素晴らしく、歌詞表現も解り易く丁寧に歌っていらっしゃいます。長期間の舞台に掛ける主役としての心意気も凄いですね。本当に脱帽です!!

黄泉の帝王トート閣下は役代わりで山口祐一郎さんと内野聖陽さん、全く個性が違っていてなかなか面白かったです。
山口さんは暖かで包容力のあるトートを演じ、中性的な魅力を発する雄大な歌いっぷりは、作品『エリザベート』を大きく支えています。
内野さんは初回よりも相当歌唱力が上がり、彼独特のトートを作っています。極め細かな演出はぞっとするように冷ややかで、執念深いような不思議な魅力を発していますね。つまりクールビューティですね。(笑)

皇帝フランツ・ヨーゼフは鈴木綜馬さんに加え、今年から石川禅さんも演じています。鈴木さんは元々ゆったりと落ち着いた歌唱力の持ち主ですね。今回は更に磨きが掛かり、品位と共に立派な皇帝を演じていらっしゃいます。
石川さんは、歌唱力としては勿論申し分無い人ですが、皇帝が持っているであろう風格と言うか、育ちみたいなものが少々物足りない感じがします。(皇帝の趣って難しいですからねぇ〜)しかし、ナンバー「夜のボート」は極上もので、素晴らしく聞かせてくれましたし、他曲もピアニッシモが凄く綺麗に表現されており、夢の中でトート閣下とやり合う場面は結構迫力がありましたよね!私個人的には応援している一人ですよ。(笑)

皇太子ルドルフはどちらも新入りの浦井健治さんとパク・トンハさんです。この2人も対称的な演技です。浦井君は初々しく弱々しさを一生懸命に演じています。パクさんは堂々とした立派な歌いっぷりで、元気なルドルフです。本来のルドルフとしては浦井君の方が近いかも…。2人とも前回の井上君にはまだまだ及ばないかも…。頑張って下さい!

皇太后ゾフィは以前から初風諄さんです。ますます安定して貫禄を増し、素晴らしい歌唱力です。

そうそう、高嶋政宏さんのルキーニを忘れてはいけません。東宝の初回からですが、成りきり度が素晴らしい!この人を除いては他に誰がいるの?と言う位にルキーニははまり役ですし、私はそのユニークなキャラクターを気に入っています。
役柄としては最後にエリザベートを暗殺した殺し屋です。この物語を再現して説明しているのも彼で、舞台上に始終出ていて皮肉っぽく語っていますが、邪魔にならないから不思議ですね。結構さりげなくエリザベートの着替えを手伝ったり、道具の上げ下げを手伝っているんですよね。目立たないけど大変重要な役です。

村井国夫さんはエリザベートのお父様、バイエルンのマックス公爵ですね。なかな洒落た衣装を纏い、遊び人風を装っていますが、エリザベートの行く末を案じ、亡くなった後も見守っています。エリザベートは昔からパパを尊敬していて「パパみたいになりたい〜」って言ってますからねぇ。

春風ひとみさんはエリザベートのお母上、ハプスブルグ家に嫁ぐ事を仕組んだのもこの母ルドヴィカです。けれど、運命の悪戯か、母が仕組んだ姉娘の方ではなく妹にお鉢が回ってきたのですけどね。春風さんは「ミルク」の場面で群集に扮していますが、その精力的な歌いっぷりや踊りが大変印象深いです。

3人役代わりのリトルルドルフも、なかなかしっかりと歌っていましたね!リトルルドルフが出てくると決まって客席がざわめいていました。可愛いかったですものね。
エルマーの今拓哉さん、藤本隆宏さん、革命家の縄田晋さん、野沢聡さん、キビキビとした男前っぷりが格好良かったですね!

加えて、8人のトートダンサーは、死の場面には必ず現れ、トート閣下の器量を最大に印象付ける大切な役目であり、このミュージカル作品を効果的に大変面白くしています。ダンスも非常に凝っていて、難しかったのではないでしょうか〜。

その他、アンサンブルメンバーの迫力や受ける心意気も素晴らしいですし、何と言ってもオリジナルな音楽が、私ばかりではなく、多くの観客の心身に浸透していて、大きな感動を呼んでいると思います!!
オーケストラ指揮者の塩田さんも舞台と観客を盛り上げる最大の仕掛け人でした。(笑)拍手、拍手!

こんな感じで書き出したらキリがありませんが、読んで下さった方には感謝致します。 2004年6月15日yuko記


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