風さむき 孟宗の秀の ゆれ近く 吹かれ吹かれて 雀が一羽
寒風に 四五羽飛び出て 藪雀 また吹かれ還る 群笹の揺れに
冬の光 しんかんたるに 真竹原 閻魔大王の 咳のこゑ
口赤き 閻羅が前の 笹の藪 しんかんとして 雀のつるみ
澄みとほる 青の真竹に 尾の触れて 一声啼くか 藪原雉子
短か日の 光つめたき 笹の葉に 雨さゐさゐと 降りいでにけり
さびさびと 時雨ふり来る 笹の葉に 消えゆく遠き 日あしなりけり
村時雨 羽根をすぼめて 寒竹の 枝にかすかに ゐる雀かも
村時雨 羽根をひろげて 寒竹の 枝から飛ばんとし 飛ぶ雀かも
雨しぶく 今朝の笹葉の 寒風に 頭すぼめて 飛ぶ雀かな
深藪に 人家の燈 あかあかと 入りとどかねば 啼かぬ雀か
篠竹の 竹の撓みに 置く霜の 今宵は白し ふけにけらしも
篠竹の 笹の小笹の さやさやに さやぐ霜夜の 声の寒けさ
霜さむき 孟宗原に 燃ゆる火の ほのぼのと赤し 夜や明けぬらむ
しみじみと つめたき朝は とく起きて こちごちの畑に 人は火を焚けり
寒むざむと 赤き日あがる 田圃のすゑ 工場いくつ見えて 煙まだ立たず
野づかさの 冬の畑の 青菜の葉 あはれと見つつ 俥にていそぐ
深藪に 来かかる我の 足の音 ふと高くなりて 我と竦みつ
深藪に 一千万本 竹ありて 人間ひとり 在ればさびしゑ
深藪の 中に実赤き 冬青の木の その実をたべて 啼けり鵯の子
短か日の 孟宗さむき 田圃横 藁家ひとつ見えて 童雀追ふ