岩雲雀懺悔の坂を落ち行けり
霧の日の頭にすがり来る岩雲雀
朝霧の虹となりゆく鎗岳生まる
大汝眉に迫りて霧はやて
葛の花葬られしごと峡に臥す
夜の底に虫の生れつぐ曼殊沙華
曼殊沙華レンブラント呆け生魚喰ふや
曼殊沙華相聞歌人老いし後
曼殊沙華逃れるごとく野の列車
曼殊沙華朝戸くる妻衰へり
曼殊沙華旅に果てたる馬の墓
曼殊沙華十字架を斬るキリスト像
曼殊沙華天皇誕生の歌忘る
晩年や小説に憑かる曼殊沙華
曼殊沙華障子はる妻独言
曼殊沙華灯消えゆく避暑の宿
幻の柩野をゆく曼殊沙華
曼殊沙華罪の意識にすがらるる
野の池に仏微笑す曼殊沙華
曼殊沙華炎のすがれゆく青衣囚
曼殊沙華革命の文字遠くしぬ
玉虫を放つや連山日をかへす
男郎花らんらんと家群つらなれり
蟷螂の斧かざすとき真日狂ふ
富士茜常磐さんざしの黄なる実よ
颱風過月の輪ふかく螻蛄鳴けり
黍吊れる村に入り来て月若し
象潟やしぐれの雲の海鳴りす
津軽野や穂芒透り月生まる
放屁虫暁雲湖を照らしゆく
散る照葉火口湖深く瑠璃なせり
ななかまど湖の日を招ぶ裸女二人
群稲棒一揆のごとく雨に佇つ
信夫の郷身知らず柿のなりにけり
あんぽん柿井上靖水洟すする
磐梯の枯野這ふ虹色尽す
沼茱萸や磐梯低く雲たるる
錦木のほむら磐梯虹消ゆる
おかめ笹しぐれんとする湖の碧
ひと時雨蜻蛉は赤く湖わたる
磐梯枯る越後へ列車まつしぐら
死屍来ると禿鷹啼くか秋の風
星月夜しろき市門のあらびあ海
凧追ふ子秋日の衢を漂へり
秋日さかん乞食の子の銭かぞふ
乳房いらふ乞食の子に秋日燦
身を恃み秋蝶海にまぎれゆく
寺の街木の実啖ふ子は唇あかし
ブルガニン来秋草紅を狂はしぬ
蛇踊り秋冷誘ふ辻の楽
枯野鷄モンキーバナナ嗤はるる
秋雲をずしりと後に聖河ひらけ
海遠く富士に雪来と椿蒸す
冬日炎ゆ天草乾場あらあらし
海女の家に冬日炎え来て犬眠る
冬椿島帰り来る病教師
東京の歌路地をゆく紅椿
鰯売る坂逆光に照り出さる
刈田鷄勝利塔背に娼婦佇つ
海は夕焼裘のぼる坂の町
黒富士や刈田鴉も鳶のごと
みちのくの上田下田のみぞれけり